プロローグ ~ルナソルの崩壊~
彼の絶望、それによりルナソル(この世界の名称)は崩壊を始めた。空間がねじ曲がり、まるで世界が閉じられていく。そんな感覚に陥る。紅霞の結界が魔力の供給を失った影響で、歪んでいた時空間が元に戻ろうとしているのだ。
どうにか崩壊を止めようと多くの異能力者が魔力の放出を行うが虚しく、それは大きな波のように進撃し世界を飲み込んでいく。
そんな現状を勇者は知らなかった。ルナソルの中央に存在する魔王城アディス、彼はその中で魔王との決戦を行っていたからだ。
世界の隅から始まった崩壊の波がいかに巨大であろうと、数十キロ離れたここからでは目視すらできない。
しかし崩壊波…コラプスと呼ぼう。コラプスは着実にルナソルを侵食し、もはや何の干渉も受けずに進み続けていた。
だが、今や勇者にできることなど何もなかった。ただただ魔王との力量差に絶望し、固まって殺されるのを待つことしかできない。それほど魔王の実力、主に魔力量は凄まじいものだった。自身が如何に井の中の蛙だったのかを思い知らされる。
終焉。この惨状にこれ以上うってつけの言葉はないだろう。文字通りこの世界ルナソルはコラプスによって終わりを迎えようとしているのだ。
魔王城の中、俺はただただ絶望していた。
全身から力が失われていく。
守れなかった。俺の失態で、今抱きしめている彼女を、最愛の人死なせてしまった。
地響きが鳴り始め、ルナソルの崩壊がすぐそばまで近づいてきているのを悟る。
無力感と自責の念が全身を押しつぶしていく。今にも消えてしまいたい。そんな感情がわいてくる。だが俺にはまだやることがあるのだ。
最期の責務を果たすため残されている力でなんとか立ち上り、それを実行する。
俺はルナソルの崩壊を止めないといけない。あの時から、俺にはここを守る使命がある。
だからこそ、この判断が正しいんだ。俺一人の犠牲で大切な人たちを守れるなら、俺は喜んでこの命を捧げよう。この選択に悔いはない。
でも最期に何か思い残したことがあるとするなら、もう一度だけ君の声を聞きたかった。
君とまた…。
そうして俺は目を閉じて…最期の責務を果たし切った。