第8話 小さな訪問者
「なんだろ……?」
ベッドから起き上がり、窓を少し開けてみる。すると滑り込むように入ってきたのは、小さな動物だった。
『キュウ』
リス、に見えたがよく見ると少し違う。耳が大きいし、毛並みはモフモフ。私の両手に収まるサイズだ。
「あらかわいい」
私は思わずそのリス? を撫でた。嫌がらず、むしろクシクシと私の手に頭を当ててくる仕草もかわいい。今日は夜風がやや強い、屋内の温かさに惹かれてやってきたのだろうか?
「……ん?」
ふと気付く。その子の額に光る、宝石に。
これはまさか……カーバンクル。
本で読んだことがある、額に宝石を宿した小さな生き物。本によると伝説と呼ばれる聖獣で、見た人はほとんどいないのだとか……それとこんなところで出会えるなんて。オーソクレースでは案外よくいるのかも?
「それにこれ、『紅の宝玉』?」
カーバンクルの額の宝石は、よく見ると私のよく知る赤い輝きを放っていた。カーバンクルの宝石というのは『紅の宝玉』だったのか。魔力の塊だと思えばたしかに納得だ。
だが少し様子がおかしかった。
『キュゥ……』
そのカーバンクルはどこか元気がない。毛並みがモフモフなのでわかり辛かったが、触れて見ると少し痩せているように思える。
それに額の『紅の宝玉』も、どこか色が濁っているような……
「ひょっとすると……ちょっとごめんね」
私はカーバンクルの額に触れた。その魔力を分析する。
「……やっぱり、瘴気が混ざってる」
瘴気、魔物が好む悪しき力。たまにあるのだ、『紅の宝玉』の中に瘴気が混ざり、汚染されてしまったものが。カーバンクルがどういう仕組みで額に宝玉を宿すのかは知らないが、このカーバンクルはその過程で瘴気の侵食を受けてしまったのだろう。
本によればカーバンクルの宝玉は命そのもの。それが悪影響を及ぼしているに違いない。
「ちょっと待ってね」
私は意識を集中させた。『紅の宝玉』の中に混ざっている瘴気の気配……それだけを抽出する。
すう、っと、煙のように黒い気配が抜けていく。するとカーバンクルの宝玉が、本来の輝きを取り戻した。
『キュ? キュ~ッ!』
体が楽になったのか、カーバンクルは嬉しそうな鳴き声を上げた。
「楽になった? ならよかった」
『キュキュッ』
「え、あ、ちょっと」
カーバンクルはぴょんとジャンプし、私の腕にしがみ付くと、するすると肩まで登ってきた。
『キュ~♪』
人懐っこく私の頬にすりすりとつく。うーんかわいい。
『キュッ』
そしてそのまま、私の服のポケットの中に滑り込んだ。ひょこっと顔を出し、なごんでいるようにすら見えた。
「なに、私と一緒にいたいの?」
『キュッ』
「うーんどうしようかな」
すっかり懐かれたみたいだけど、どうしたものか。私は私自身の先行きすら不安定な身だけど……
でもまあ、なんとかなるか。リス1匹、もといカーバンクル1匹ぐらいなんとかなるでしょ。
「でもカーバンクルって何食べるんだろ? フェルド知ってるかな」
『キュ~?』