第7話 フェルドの思惑
食事をしつつ、フェルドと会話する。
「君はオーソクレースに向かうんだったね」
「ええ、そのつもりです。定住も考えております」
「なるほど、それはいいね。オーソクレースはいい国だ、僕が保証するよ」
フェルドはにこやかに言い切った。この言い振りからするとフェルドはオーソクレースの貴族なのかもしれない。
「何か伝手はあるのかな? 知人や親族がいたり?」
「いえそれが、天涯孤独の身でして……まったく身寄りはないのですが、まあなんとかなるかなと……あはは」
あらためて言葉にすると我ながら行き当たりばったりだ。なんのアテもなく単身知らない国へ乗り込もうとは……でもそうするほかない境遇なのだ、突き進むしかない。
「それは大変だね。ふむ……じゃあひとつ提案したいんだけど、僕にオーソクレースを案内させてもらえないかな?」
「え?」
「自慢じゃないが顔が利く方でね、住む場所や仕事も紹介できると思うんだ。君が良ければだけど……」
「ぜひお願いしますっ!!」
渡りに船、願ってもない申し出だ。貴族の紹介ならばきっと間違いないだろう。
……まあアルミナ王国のことを思うと信頼できない気もしてくるが……その時はオーソクレースも出て次に向かうだけ。
「あの、でもそこまでしてくださるなんて、なんだか申し訳ないです」
「命の恩人なんだ、当然だよ。でもそうだな……過分と思うなら、後でひとつ、別のお願いを聞いてくれるかな?」
「わかりました、それでお願いします」
過剰なお礼を貰うよりは、過ぎた分を返して対等にした方がいい。フェルドも気を遣ってこの申し出をしてくれたのだろう。
「もちろん、引き受けるかはその時に決めてくれればいいよ」
そう言って笑うフェルドの顔は、高貴な人のはずだが不思議な親しみやすさがあった。アルミナの王侯貴族はもっと高慢ちきな感じだったが、これが器の違いという奴か。
「あの……失礼かもしれませんけれど、フェルド様って、貴族の方なのでしょうか?」
そろそろ気になってきたので尋ねてみる。直接身分を訪ねるのは不躾ではあるので恐る恐る……
「そうだね、オーソクレースに着いたら教えるよ。楽しみにしててね」
フェルドはそう言って悪戯っぽく笑った。うーんうまくかわされたな。
これはきっと、希少な宝石術師である私をなんとしてもオーソクレースに連れて行こうとしているに違いない。利用価値の高さはさっき示した通りだし、フェルド自身それで命を救われているのだから当然か。
しかし利用されるとはいえ、相応の対価を与えてくれるなら私に不満はない。アルミナだって対価として庶民並の生活を与えてくれるなら別に良かったのに、追放なんて言い出すから……恩知らずめ。
そう、私は恩知らずが嫌いだ。嫌いになった。フェルドはその真逆、恩に対ししっかりと報いてくれる人だと思う。
「デザートはどうする?」
「あ、いただきます」
その後、果実のコンポートの飛び上がるような美味しさに、私は大満足で食事を終えたのだった。
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「ふーっまんぞく……」
食事を堪能した私は、宿屋のベッドにごろんと横になった。このベッドもまた高級品で実にふかふか、横たわっているだけで全ての疲れが癒されていくようだ。
明日はフェルドの馬車に乗せてもらってオーソクレースまで向かうことになった。商人のお爺さんにはその前に挨拶しておこう、あらためてお礼も言いたいし。
しっかし、一回の治癒でここまでの待遇を貰えるとは。アルミナ王国では国を何年も守り続けても、衣食住の保証だけでろくな見返りはなく、労いの言葉すらほとんどなかったというのに。むしろ王宮から出るなとか贅沢するなとか色々と……
ええい、嫌なことを思い出しても意味はない、と首を振る。
その時。
「ん?」
宿屋の窓から、コンコンと小さな音。見れば灯りでぼんやりと照らされたそこに、何かの影があった。