第61話 間に合った
追記 話タイトルつけるの忘れてました。
私の目の前で繰り広げられる、激しい戦い。
ぶつかり、いなし、かわし、弾き……時に皮膚が裂けて血が流れ、時に打撃が骨まで響くような音がする。
私では目で追うのが精一杯だ。
「ジュリーナ、気をつけて。クラックは隙あらば君も狙おうとしている。半分は陽動目的だけど、僕から離れたら危険だ」
「は、はいっ」
フェルドに守ってもらっていなかったらどうなっていたことか。
「フェルド、これ、どうなんですか? 2人は勝てるんですか?」
「贔屓目なしに言ってパイロたちの方が押している。やはり君の結界が効いているようだ」
「そ、それなら!」
「でもそれだけじゃダメなんだ。クラックが結界による弱体化を承知の上で今仕掛けてきた以上、何かを企んでいるに違いない。できる限り早く彼を制圧しないと……クラックもそれがわかっていて、守りを意識しているように見える」
「あ! それでしたら……!」
クラックに聞こえないよう、私は小声でフェルドに考えを打ち明けた。
「……なるほど、それはいいね」
「で、でも戦闘が激しすぎていつやればいいのかわかりません」
「じゃあタイミングは僕が指示しよう。君はいつでも撃てるよう準備しておいて」
「はい!」
私だって戦う。その思いを胸に身につけた力が、私にはある。
片手を懐に忍ばせ、あとはじっと、フェルドの合図を待つ。パイロ、サッちゃん、クラックが入り乱れ……
「……今だ!」
フェルドが合図する。すぐさま私は片方の手を3人へと向けた。そして懐に忍ばせた手、その中で握りしめていた『蒼の魔石』の魔力を私の力に変え、解き放つ!
「ちぇやーっ!!」
詠唱は省略し、私の秘技『聖女の光』が、勢いよく放たれた。
激流のような魔力の渦、キラキラ輝きながら迸るそれが、あっという間に3人を呑み込んだ。
『蒼の魔石』に宿る破壊の魔力、それを私の力でより昇華させた攻撃魔法。しかし同時にそれは私の魔力に変わっているため、私が攻撃したくない相手をけして傷つけず、むしろ傷を癒しすらする。
オーソクレースでこれを練習してた時にパイロに褒めてもらったことがある。曰く、敵味方入り乱れての乱戦において、これほど強力な魔法はない、と。
万が一に備えて『蒼の魔石』を持ってきておいてよかった! 心からそう思いつつ、私は全力で『聖女の光』を放ち続けた。
光が止んだ時……そこにいたのは、両腕で身を守りつつも耐え切れず、膝をついたクラック。
そして『聖女の光』のダメージをなんら受けずに立つパイロとサッちゃん。
「ぐっ、はぁッ……!」
クラックが苦しそうに呻き、よろめいた。その隙を、2人は見逃さない。
「ハッ!」
「うおーッ!!」
パイロの剣、サッちゃんの手が、クラックに大ダメージを与えた。
「ぐあッ……!?」
さしものクラックも苦痛に顔を歪ませ、地面に倒れ込む。
「ガアッ!」
だがサッちゃんは容赦なく、倒れたクラックの胴体に、追撃を叩きこんだ。
「ゴフッ……」
クラックの口から血が噴き出す。私たちと違い緑色をした血だった。傷口からも血が流れていく。
『ゴッ……ガアアアアアアアアッ!!』
さらにサッちゃんは大きく口を開いて咆哮を轟かせた。人間の喉ではない、部分的に戻したドラゴンの体が放つ、地を揺るがすような咆哮だった。
するとクラックの体に変化が起きる。パキパキと音を立てながら、『蒼の魔石』が体を覆い始めたのだ。サッちゃんの魔力によるものだろう。『蒼の魔石』はクラックの両足と胴、両腕も覆い尽くし、クラックを完全に拘束した。
「ハァ、ハァ……ぐうッ……!!」
クラックが必死の形相で力む。が、『蒼の魔石』による拘束はびくともしない。
「……ここまで、ですか……」
クラックが力なく呟き、目を閉じる。諦めたようだ。
「や、やった……!」
うまくいった! 思わずガッツポーズをしていた。
「ジュリーナ! よくぞやってくれた、礼を言うぞ! 蒼の力、見事なものよな」
「どういたしまして! 2人が抑えていてくれたからこそですよ」
「恐縮です。とにかくこれでかなり迅速な制圧ができたはずです」
「あ、そうか、でもこれで終わりじゃないんでしたね」
「そうだ、これからすぐにクラックの仲間の居場所を突き止めないと。パイロにここでクラックを見張りつつ尋問してもらって、僕たちはサッピールズに乗って……」
フェルドがすぐさま次の指示を出し始めた時。
「それには及びません。彼もじき、ここへ来ます」
クラックが倒れたまま語る。その落ち着きように嫌な予感を感じた。
「元よりわずかな時間でよかったのです。ジュリーナがここにいることを確認できれば……一時とどまらせることができれば」
「どういう意味だ。まさか……」
「そのまさかです。間に合いました」
クラックが意味ありげに呟く。その言葉の真偽を疑う隙すらもなく。
異変が、訪れる。




