第6話 治癒のお礼
馬車から降りてきたのは男性だった。私と同じくらいの年齢だろうか? 他の傭兵と同じように鎧を着ているが、なんだか雰囲気があまり傭兵っぽくない。むしろ貴族っぽいというか……
「君が、僕たちの傷を治してくれたのか?」
などと考えていると声を掛けられた。
「あ、はい、そうです」
「本当にありがとう! 君は命の恩人だ! 僕はフェルド、代表して礼を言わせてもらおう」
「ジュリーナと申します」
「ジュリーナか……宿に困っているとのことだったね、ぜひ紹介させてくれ」
よっしゃ! ひとまず今夜の宿は安心できそうだ。
「よかったら宿で夕食もご一緒にどうかな? お礼がてら、話をできたら嬉しい」
「あ、ぜひぜひ!」
ついでに食事もいただけそうだ。これでこそ治療した甲斐があったというもの。ギブ&テイク、実に健全な人間関係。
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で、早速フェルドたちといっしょに宿へと向かい、そのまま食事となったのだが……
「あ、あの、これ……」
私は引いていた。用意された食事に。
……良すぎるのだ。
まず向かった宿が宿屋街の中で一際大きく綺麗で、宿屋街に似つかわしくないほどゴージャスな宿。そしてその上階のパーティを行うような広い会場を貸し切っての食事会。
並べられた料理も、明らかに貴族とかが食べるようなものだ。私は食べたことはないが王宮で見たことがある。
「さあ遠慮なくどうぞ」
フェルドはにこやかに勧めてくる。彼以外の傭兵たちはなぜかおらず、すべて私のための食事なのだろう。だがさすがに簡単には手を付けられなかった。
「い、いやいや! ここまで豪勢なの、申し訳ないですよ!」
「謙遜しなくていい、あれほどの規模、あれほどの効力の治癒術を瞬時にかけるなど、相当高位な治癒術師とお見受けする。足りないくらいだろう」
「しかし……」
「それに正確には……君は、『宝石術師』だろう?」
「え?」
宝石術師? 聞きなれない言葉だが……なんとなくわかる気もした。
「宝玉に込められた魔力を抽出し、行使できる特別な術師……アルミナ王国ではそれに加え加護の力を持つ女性を聖女とも呼ぶんだとか。極めて高度な技術かつ素質もいる、希少な術師だよ」
なるほど、聖女の仕事の一部である宝玉からの魔力抽出ができる人を、他国ではそう呼ぶのか。フェルドの言う通り、聖女候補として育成されていた子たちの多くは、それができず脱落していった。
「先ほどの治癒魔法、わずかだけど『紅の宝玉』の魔力を感じた、使ってくれたんだろう?」
「そ、その通りです」
すごいなこの人、あんな僅かな宝玉の魔力を感じ取れるとは。熟練の冒険者か、魔術師なんだろうか?
「貴重な宝玉を見ず知らずの僕たちのために使ってくれたんだ、相応のお礼をしなくてはいけないよ。さ、遠慮せずにどうぞ」
「そ、それじゃ失礼して……」
そこまでバレているのなら仕方がない。これ以上遠慮するのは逆に失礼な気もするし、私は並べられた料理に手を出し、一口食べた。
「……! お、おいしいっ」
一口食べるや否や手が止まらず、どんどん食べ進めてしまう。お肉は柔らかいし、野菜は青臭さがいっさいないすっきりした味わいだしで、私がこれまで食べてきたものとは段違いのおいしさだった。
すっかり遠慮もなくなりどんどんと食べてしまう。王宮で過ごすのだから、と最低限のテーブルマナーを叩きこまれていなかったらとんだ醜態をさらしていただろう。いやそれでも十分はしたないが。
そんな私をフェルドはにこにこしながら眺めていた。
そういえば彼……何者なんだろう? いくらお礼と言えどこんな豪勢な宿に食事をポンと用意できるなんて……
もしかすると貴族とか。いやありうる、たしか他国の貴族は領内の安全を守るのが仕事、傭兵を引き連れて見回りに来た……というのもおかしくはない。そのさなかに魔物に遭遇して……うん、きっとそうだ。
じゃあ遠慮はいらない。食事も宿も、お言葉に甘えて堪能させてもらうとしよう。
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