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第5話 宿屋街にて

 馬車に揺られることしばらく。


 日が傾き始めた頃、道の途中にある宿屋街についた。国を行き来する商人や冒険者の中継地のために発展した街だ。結界の外だが常に傭兵が駐留しているので安心。


 今夜はここで一泊し、明朝に出発。そうすれば明日にはオーソクレースに着くだろうとのことだった。


「明日も乗せてやるからな、寝坊すんじゃねえぞ」


 お爺さんはそう言ってカラカラと笑った。


「ありがとうございます!」

「ところで今晩の宿代はあんのか? 安い宿でよければ払ってやるぞ」

「いえ大丈夫です、そこまでお世話になるわけには……一応アテはあるので!」

「そうか? そんじゃまた明日な」

「はい!」


 お爺さんとは一旦別れた。ただでさえ馬車に乗せてもらっているんだ、宿代まで世話になるわけにはいかない。


 アテがあるというのも嘘ではない……私は胸元に手をやる。そして服に隠されていたチェーンを引っ張り、それを外に取り出した。


 それは『紅の宝玉』のネックレス。先代聖女様から、聖女たるものいつでも1つは『紅の宝玉』を身につけておくように、と教えられていたのでこれだけは服の下に隠しつつ肌身離さずつけていたのだ。


 装飾は質素で、ついている『紅の宝玉』もごく小さなものだが宝石は宝石。これを売ればしばらくの旅銀にはなるだろう。


 こういう宿屋街にはそういう旅銀確保のための売買需要があり、必ず商店がある。そこへ持ち込んでみるとしよう。


「先代聖女様は……まあ許してくれるよね!」


 本来はこの『紅の宝玉』で人を助けるべし、という意味の教えだったのだろうけど、まあ私自身も人だ、私を救うために宝玉を使う、なんらおかしいことではないはず。


 先代聖女様、今何してるかな。より宝玉の扱いに優れた私が育ったから代替わりした後、国を出ていった。生まれてからず~っと聖女の仕事で国を出たことがないから外の世界への憧れがあったそうだ。どこかで幸せにしてくれていればいいんだけど。


 そのうち会えるといいな。そんなことを思いつつ商店へと向かった。


 だがその途中、突然、


「大変だ~!!」


 と大きな声が街に響く。何やらやけに騒がしい。街の人たちもなんだなんだとこぞって家を出て、騒ぎの方へと向かっていく。


 私も気になったので、騒ぎの方へと向かった。


────────────────────────────────


 街の入り口の辺り、騒ぎの中心にいたのは馬車と大勢の怪我人だった。身なりからして商人の馬車を護衛していた傭兵だろうか? 妙に立派な武具をつけている辺り高級商人の護衛だろうか。かなりの人数がいるが、いずれも怪我で苦しんでいた。


「なんてこった、ひどい怪我だぞ」

「しかもあの紋章は……」

「最近様子がおかしいアルミナの結界の調査に行ったところで襲われたんだそうだ」

「今までそんな強力な魔物なんていなかったのに」


 人々が口々に話している。


治癒術師(ヒーラー)はいないのか?」

「今呼びに行っている、けどこの数じゃ……」

「ポーションも足りるかどうか怪しいぞ」


 緊急事態のようだ。実際私の目で見ても傭兵たちの傷は重く、息をするのも辛そうだ。


 ……聖女の仕事は頼まれてやっていただけ。別に私に先代聖女様みたいな慈しみの心はない。


 でも、それでも、目の前で苦しんでいる人がいると。


 私は思わず、前に進み出ていた。


「この人数だと使い切っちゃうかも……でももう仕方がない!」


 覚悟を決め、手にした『紅の宝玉』を握りしめる。そこに宿る魔力を抽出・純化、そして昇華し、聖女の魔力と重ね合わせる。


「『大治療(ラージヒール)』!」


 天高く手を掲げ、大規模な治癒魔法を行使。癒しの光が辺り一帯に降り注いだ。


 するとみるみる内に怪我人の怪我が塞がっていき、瞬く間に元気を取り戻していった。


「おお!?」

「すごい治癒魔法だ!」

「あの子、ヒーラーか!」


 群衆たちがざわめく。褒められるのは悪い気はしない。


「フフン、ざっとこんなもんよ」


 こちとら国ひとつ守っていたのだ、怪我人を治すぐらいどうってことはない。まあ『紅の宝玉』は元から小さかったのもあって消えちゃったけど……旅銀どうしよ、トホホ。


「あ、あんた、ありがとう! なんとお礼を言ったらいいか……!」


 傭兵のリーダーらしきおじさんが感激して私に頭を下げた。


「あ、じゃあその、今夜一晩の宿代でもいただけたら……あはは」


 私がお礼をせびろうとした時。


 馬車から誰かが降りてきた。


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