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第47話 フェルド、怒る

 その日はもう夜遅いということで、アルミナの2人組も一旦牢に戻し、私たちも部屋に戻って休むことになった。


 それで翌日、私の部屋。


 私はフェルドと一緒にお茶会をしていた。もちろんキセノさんも一緒だ。ただお茶会というよりは紅茶をお供にした報告会という感じだったけれど。


 昨夜あんなことがあったので、少しでも私をリラックスさせようというフェルドの計らいかもしれない。


「昨日は大変だったね。よく眠れたかい?」

「案外あの後ぐっすりでした。まあおかげで今朝は寝坊してしまいましたが」

「無理もないよ、色々あったからね。そうそう、パイロにも昨日の件を伝えたんだけど、彼本気で嘆いていたよ」

「嘆いた? なぜ?」

「ジュリーナとサッピールズの即興劇、ぜひ見たかったってね。考えてみればドラゴンが演技に協力するなんてレアすぎる状況だしね」

「あははたしかに、パイロさんなら羨ましがりそうですね」

「本当、子供っぽい兄で……お恥ずかしい限りです」


 ドラゴンが絡むと面白くなるパイロ。キセノさんもなんだかんだでそんな兄を微笑ましく思っているようだ。


「さて、と……」


 フェルドが紅茶のカップを置いた。どうやら本題に入るようだ。


「アルミナはどうやら、ジュリーナが僕たちオーソクレースとかねてから内通していたと疑っているようなんだ」


 内通。昨夜のアルミナの2人の口から出た言葉だ。


「つまり私がアルミナにいたころから、フェルドたちと連絡をとっていたと思っている……と?」

「そういうことだ。そして僕たちと結託して『紅の宝玉』を搾取していき、溜め込んだ『紅の宝玉』も全てオーソクレースへと運んだ、というのが彼らの想像する筋書きだろう」

「な、なんでそんな勘違いを?」


 とんでもない誤解だ。いったいどうしてそんな発想に至ったんだろう。


「理由は2つかな。ひとつはジュリーナが『紅の宝玉』を搾取したという前提を王が決めつけたために動かすことができず、にも関わらずジュリーナが溜め込んだはずの『紅の宝玉』がどこにもないから、納得のいく理由を求めていた。これは昨夜、あの2人への尋問に使った手口と同じ理屈だね」


 昨夜は『ジュリーナは実はドラゴンで、『紅の宝玉』はすべて食べてしまった』という理由を与えることで2人を騙した。人は疑問に対し答えを求める、とはフェルドの弁だ。


「そしてもうひとつ……おそらく、ジュリーナと僕が一緒にいるところを目撃した人の誰かから聞いたんじゃないかな。国境付近の宿屋街、商人のお爺さん、オーソクレースの宿、宝石店……色んな人が僕らを見ているからね。アルミナ側が素性を隠して接したなら、彼らに悪意があろうとなかろうと、証言を聞き出すのは難しくなかったはずだ」


 たしかに、例のモース村の一件以降は王城の中でのみ過ごしてきた私だが、それ以前……特にフェルドと出会い王子と明かされるまでは当たり前のように並んで歩いた。それを見た人は多いだろう。


「追放されてすぐの聖女がオーソクレースの第一王子と懇意になっている、僕たちの顛末を知らない人から見れば、本当に知り合って間もないと考えるより、かねてから関係があったと考える方が自然。このふたつの理由から、僕たちの内通を疑うに至ったんだろう」

「な、なるほど」


 忘れがちだがフェルドは第一王子、本来なら私のような庶民では話すどころか近づくことさえ難しい相手。それと追放された翌日にはもうすっかり仲良しになっていたわけで……たしかに傍から見ればかねてからの関係だという方が想像しやすいかもしれない。


「ごめんジュリーナ、僕が迂闊だった。僕がこの事態を想定していれば……」

「フェルドのせいじゃないですよ! そもそもフェルドは私が追放されたなんて知らなかったんですし、こんなことになるなんて想像できませんって」


 私とフェルドが出会い、今のような関係になるには様々な偶然が重なった結果だ。なんだか運命のようだとはしゃいだ時もあったが……その運命的な出会いが、こんな形で厄介ごとを生むなんて誰が想像できただろうか。


「でもどうしましょうか。内通なんてしてません、とアルミナに正直に言っても信じてくれるとは思えませんよ、あの国王のことですし」

「ジュリーナの主張も聞かず追放した国王だからね、僕たちが何を言っても聞く耳を持たないだろう」

「ですよね。あの王様、私を追放したことが間違いだって絶対認めないですよ」

「そしてその意固地さがそのままオーソクレースへの敵視となった今……これはもう、国と国の間の問題になったわけだ。父上とも相談してきたよ」


 私はハッとなった。恐れていた事が起きてしまった。オーソクレースが私を受け容れたことで、国そのものへ面倒が……


「ジュリーナ、君が責任を感じることはないさ」


 そんな私の考えはお見通しだったのか、先んじてフェルドが優しく声をかけてくれた。


「フェルド……」

「悪いのは……そう。悪いのは……アルミナだ」


 その時。


 フェルドの様子が少し変わった。


「為政者としては、国の運営にひとつの正解はないし、アルミナ国王の強権的なやり方も一理あるとは思うんだ。兵士たちの忠誠心もその賜物だろうしね……でも、でもね。王子の立場ではなく、一人のフェルドとして思うんだ」


 ぎゅっとこぶしを握り締めるフェルド。そして。 


「アルミナ国王はダメだっ! ジュリーナを勝手な思い込みで追放しただけに飽き足らず、その後にまで干渉して危害を加えようとするなんて! 許せない! あの、あの、ダメ王めっ!!」


 フェルドは怒りのままにぶちまけた。理性で抑えていた感情が溢れ出した、そんな感じだった。


「ふーっ……ご、ごめんジュリーナ、急に大声出して……でもどうしても我慢できなかったんだ。ジュリーナを、なんだと思っているんだ……!」


 すぐにフェルドはいつもの調子に戻ったが、なおも興奮冷めやらぬ様子だった。


「い、いえ……」


 私は少し面くらったが……それ以上に。


「ありがとうフェルド」


 あの理知的で合理的なフェルドが私のことを想い、怒ってくれたことが、とても嬉しかった。


 あと単純に。


「やっぱダメですよねあの王! ほんっと何考えてるんだか!」


 嫌いな相手への悪口を、仲のいい相手と共有できることは気持ちがいい! 下品とは思うけど、事実なのだから仕方がない。


「だ、だよね。少なくともジュリーナの扱いに関しては褒められるところがないよ」

「ですよねえ! ああもう、一度フェルドをぶっつけて、完膚なきまでに論破させちゃいたいですよ。きっとしどろもどろになってムグーッとか言いますよあの王」

「ンフフッ、ジュリーナの発想はユニークだね」

「きっとこーんな顔で悔しがりますよ。こーんな顔で」

「ンフッ、や、やめてよ、ンフフッ」


 私も調子に乗ってアルミナ王をダシにフェルドを笑わせて楽しんだりした。ああ楽しい。

 

「んんっ……さ、さあ、それよりこれからどうするかだ」


 フェルドは少し恥ずかしそうにしつつ、話題を切り替えた。


 そして、驚くべき提案をしてきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] あの王を論破するのは多分無理。あの手の人種は自分に不都合な事項は明らかな証拠があろうとも認めないから。
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