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第45話 拷問?

 さてフェルドも合流して。


「とにかくジュリーナが無事でよかった。キセノもありがとう」

「お褒めに与り光栄にございます」

「フェルドがキセノさんを手配してくれたからですよ! 2人ともありがとうございます」


 明かりをつけた私の部屋、ひとまず無事でよかったと3人で笑いあった。


「それであの2人は?」

「ひとまず牢に入れて、兵士と魔術師に見張らせてる。意識は戻ったけど、口を閉ざしているようだね」


 私を襲いに来た2人。やはりアルミナの者なのだろうか? 話を聞かなければならないだろう。


「と、なると……拷問ですか」

「うーん、どうだろうね。あまり手荒なことはしたくないし、2人しかいないと拷問の意味も薄くなるしなあ」

「え? なんでですか?」

「拷問で得られた情報って、苦し紛れの嘘の可能性も高いんだよ。もっと大勢いたら情報を擦り合わせて真偽を確かめられるけど、2人だけだと情報が食い違ったとしてもどちらが真実なのかわからないからね」

「ああ、なるほど」

「それにね」


 その時フェルドは、珍しい眼光を見せた。


「本当の拷問って……ジュリーナが思っているより、ずっと酷いものだよ」


 為政者として、清きも濁りも併せ呑む覚悟。その一端を垣間見るような、冷たい眼光をしていた。思わずゾクリとする。


「でもまあ、なんとか情報は聞き出さなくっちゃね。どうしたものか」


 次の瞬間にはいつものフェルドに戻っていた。フェルドは第一王子、いずれ国を背負って立つ人なんだなあと実感する。私はついていけるだろうか……って私が心配することじゃないか。


「……いや、拷問もいいかもね。ジュリーナに手を出そうとしたんだ……相応の報いは受けてもらわないと」


 と思った途端にまた恐い目に。フェルドって情緒不安定なところがある。やっぱりついていけるか心配かも。


 と、その時。


 突然ガコッ、と音がして、部屋の窓が吹き飛んだ。


「ジュリーナ! 無事か!?」


 驚く私たちをよそに、外れた窓から飛び込んできたのはサッちゃんだった。人の姿のまま、翼だけを生やしている。それで飛んできたのだろうが……


 がらん、とサッちゃんが外した窓が床に転がった。ぱりんぱりんとガラスも割れていた。


「サ、サッちゃん? どうしたんですか急に」

「どうしたもこうしたもあるか! 兵士たちが騒がしいから何事かと思えば、お主が襲撃を受けたと聞いてすっ飛んできたのだ! 怪我はないか?」

「は、はい、大丈夫です」

「そうか、それはよかった。どこの誰かは知らんが卑劣にもジュリーナの寝込みを襲うとは……許せぬ!」


 怒りに燃えるサッちゃん。私のことを心から心配してくれるのは素直に嬉しいけど……


「サッピールズ?」


 フェルドが一声かけると、サッちゃんはびくりと身を震わせた。フェルドの声色から、彼の怒りを感じ取ったのだろう。


「むやみに城の物を壊すのはいけないことだ、と教えたのは、覚えてるかい?」

「お、覚えているとも。しかし今は非常事態であろう? 我は一刻も早くジュリーナの元へ行こうと……」

「うん、それはいい。だけどそんなに勢いよく窓を蹴とばして、飛んできた窓自体や割れたガラスが、ジュリーナに当たったらどうするつもりだったんだい?」

「……あっ」

「それだけじゃない、窓を壊してしまったら夜風も通るし、虫が入ってくることもあるだろう。いいかいサッピールズ、物を壊していけないというのは、壊したら困ることが起きるから言っているんだ。今回は窓だけで済んだけど、君の力なら城の重要な柱や壁を壊してしまうことだってあるんだよ」

「す、すまぬ……」


 こうなるとサッちゃんは親に怒られる子供同然だ。大きな体をシュンと縮こませる姿は不憫だけど、ちょっとかわいい。


 無理もないことではある。フェルドが怒った時の、理路整然と相手がいかに悪いかを説く姿はある意味声を荒げて怒るよりおっかないもの。


「まあ、悪いことだとわかってくれたならいいさ。焦っていたのもあるだろうしね。次からは気をつけるんだよ」

「うむ!」


 フェルドも長々説教したりはせず、ある程度の理解を示して手早く切り上げた。不要な叱責をしないからこそサッちゃんも反発せず素直に聞き入れるのだろう。フェルドは父親としてもうまくやっていけそうだ、なんてことを想像した。



「して、下手人どもはどこにいる? 男の2人組と聞いたぞ! まさか、あの2人組ではないだろうな!?」

「あ、たしかに」


 サッちゃんに言われて私も気づいた、2人組というのはサッちゃんを襲ったのと同じ条件だ。もしかして……?


「いや、その可能性は低いだろうね。サッピールズを手玉にとれる相手なら、いくら対人戦闘に長けたキセノといえど相手は容易じゃなかったはずだ」

「おっしゃる通りです。件の2人は素人ではありませんでしたが、飛びぬけて秀でた力は感じませんでした。隠密術としてもわたくしに察知される程度、専門の訓練を受けた者ではないのでしょう」

「だろうね、アルミナほどの大国で、かつ長年他国との争いもないとなると、わざわざそんな人材を育成していたとは思い難い。おそらくは単にアルミナの兵士が命じられてやったのだとは思うよ」

「むう、そうか」


 キセノさんが強すぎて評価が難しいが、フェルドが言うからにはそうなんだろう。まだあくまで可能性の話ではあるけれど。


「されどやはり許しがたい! いっそのこと我が喰ろうてやろうか!?」

「お、落ち着いてサッちゃん、私は大丈夫だから。それにあなた石しか食べられないでしょ? 人間の姿でも人間が食べるようなものしか食べられないし」

「む、人間は人間を喰わぬのか」

「食べないよ!?」


 興奮するサッちゃんをなんとかなだめようとしていると……


 フェルドがとんでもないことを言い出した。


「……それ、いいかもしれない」

「え?」

「サッピールズが2人を食べてしまう、っていうのさ。案外それでうまくいくかも」

「はい?」


 思わず聞き返す。あれ、やっぱりフェルド、思ったより冷静じゃない?


「あのですねフェルド、サッちゃんは人を食べないし、というか食べてしまったら情報を聞き出すも何も……」

「ああごめん、誤解を招く言い方だったね。拷問の代わりに、サッピールズに脅してもらうのさ」

「む?」

「サッちゃんが、脅す?」

「ああ。いきなり目の前にドラゴンが現れたら誰だって恐れおののくだろう? 感覚がマヒしているかもしれないけど、ドラゴンは人智を越えた存在、普通の人間にとっては畏怖の対象だからね。サッピールズが威厳たっぷりに、貴様らを喰ってやる、と言えばそれはもう恐ろしいことだろう」

「ふむふむ、面白そうではないか」


 たしかにドラゴン形態のサッちゃんは体も大きく牙は尖って、パワフルな手足も迫力がある。人間が脅すのとは段違いの怖さがあるだろう。まして例の2人はサッちゃんが人を食べないなんてことは知らないだろうし。


「ただ、それだけだと拷問の時と同じく、苦し紛れに適当なことを言うかもしれないから……ジュリーナにも協力してもらいたいんだ」

「私に?」

「ああ。まず……」


 そうしてフェルドは情報を聞き出すための計画を語った。

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