第4話 王国崩壊への序曲
一方その頃、アルミナ王国では。
「へ、陛下!」
王のもとへ慌てた様子の兵士が駆け込んできた。
「どうした?」
「は、はい、ご命令通り、偽聖女ジュリーナの部屋を調べたのですが……」
「して、『紅の宝玉』はどれほど溜め込まれていたのだ? あれほど強欲に要求していたのだ、きっと……」
「あ、ありませんでした」
兵士の報告に、王は目を丸くした。
「ない? そんな馬鹿なことがあるか」
「か、家具の裏から何から全て探したのですが、ひとかけらも見つからず……」
「そんなはずはないっ!」
王は苛立って兵士を怒鳴りつける。強欲なジュリーナは必要以上の『紅の宝玉』を要求し溜め込んでいた、そうに違いないのだから。
「どうせ隠し部屋か天井裏にでも隠しているのだ、もっとよく探せっ!」
「は、はいぃっ」
王の怒号を受け、兵士は慌てて立ち去っていった。
「ジュリーナめ……もしやあらかじめ追放の気配を察し宝石を持ち出していたか?」
王の頭の中に、自分の勘違いであるという可能性の考慮は全くなかった。ジュリーナは強欲な悪女、それはもう事実として彼の中で揺るぎないものになっていた。
「陛下」
そこへ、大臣の1人が前に出て、恭しく頭を下げる。
「国内に、あの女の共犯者がいるのではないでしょうか? それならばつじつまが合います」
「む、なるほど! ではあの女が溜め込んだ宝石は……」
「その共犯者が持っているのでございましょうなあ」
「おのれ、国を守る大切な宝を独占しようとは! 許せん!」
王は勝手に怒りを燃やす、存在もしない国賊へ。今この国を滅亡へと向かわせているのはほかならぬ王自身という自覚は微塵もない。
「そこでです陛下……もういっそのこと『紅の宝玉』の全てを国の管理としてしまってはいかがでしょう?」
「なに?」
「所持自体を禁止し、陛下自らが全ての『紅の宝玉』を支配するのです。それならば何も間違いは起きない」
大臣の進言に他の大臣がざわめき立った。『紅の宝玉』はアルミナ王国内でもっとも価値のある宝石とされており、王国の大臣や貴族などの序列も、その所持数によって決まっているところがある。そこが揺らいだら自分たちにとっても困るからだ。
一方でこの進言をした大臣は『紅の宝玉』をあまり持っていない、この機に乗じてパワーバランスを崩し成り上がりを狙った格好。
つまりは政争である。誰も、この国のことなど考えてはいない。
「何より……もし『紅の宝玉』が余ったのならば、他国に売ってしまえばよいのです。それは陛下の懐へ……すなわち国益となるのですよ、全ては国のためです。いかがかな?」
進言した大臣は平然と詭弁を振りかざす。王にとって得となる提案をして、取り入っているに過ぎない。
が、それを考えられるほど王は賢くなかった。
「なるほどそれは妙案だ! そもそも国を守り支える宝玉が、普通の宝石のように商売の対象とされていること自体がおかしかったのだ! では早速……」
「へ、陛下! お言葉ですがそれは国中に混乱を……」
他の大臣が慌てて口を挟むも、
「なんだ? さては貴様がジュリーナの共犯者か?」
「い、いえ、そのようなことは……」
「ならば黙っていろ!」
「は、ははーっ」
王に威圧され黙ってしまう。「ジュリーナに騙され続け損をした」と思い込んでしまった王は怒りに頭が鈍り、せっかくの進言もジュリーナがよぎるだけで踏みつぶしてしまう。
「これより『紅の宝玉』は全て国で管理するものとする! 国民は『紅の宝玉』をすべて献上するよう触れを出せ!」
「は、ははーっ」
王の怒りの矛先が向けられることを恐れ、それ以上異を唱えられる者はいなかった。
ほどなくしてアルミナ王国にお触れが出され、国中が混乱することとなる。
しかしそれも、王国崩壊の序曲にすぎないのだった。
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