第37話 帰還……しかし?
モース村に帰った私たち。
フェルドが村人に事情を説明、ただしサッちゃんのことは伏せ、あくまで上流に瘴気が満ちた洞窟があり、その影響で石が流れていたと話した。洞窟にドラゴンがいてそのドラゴンが何者かの襲撃で瘴気に侵されて石を食べるドラゴンだったのでその石が……という説明では混乱を招くと考えたのだろう。
「ジュリーナが瘴気を祓い、解決した。それで十分だろう」
フェルドはそう言って笑っていた。まあ、嘘は言っていない。
で、村人たちへの説明でフェルドによって持ち上げられたのもあり、村人たちはフェルド以上に私に対して感謝してくれた。あなたのおかげで助かった、さすが王子様が選んだお方だ……
そして村人の誰かがポロリと口にした。
「聖女様!」
一瞬ギクリとする。アルミナから来たことを知ってる人がいたのか、と。
だが違ったようだ。
「おおそうだ、ジュリーナ様は聖女様だ!」
「聖なる力で瘴気を祓い、村を救ってくださった!」
「聖女ジュリーナ様ばんざい!」
村人たちが口々に言って囃し立てる。純粋に私の力を讃え、聖女という言葉を選んでくれたようだ。
聖女。捨てたつもりの名前だったけど……純粋な感謝からそう呼ばれるのはけして悪い気はしない。むしろ、とても嬉しかった。
「ジュリーナ」
村人たちの感謝の雨の中、フェルドが私に語り掛ける。
「君は確かにアルミナの聖女ではなくなった。でも君の聖なる力は健在だし……こうして、心からの敬意で君を聖女と呼ぶ人たちもいる。いやむしろ、聖女とは本来そうあるべきなんじゃないか? そういう意味ではジュリーナ、僕も君を聖女と呼びたい。宝石の聖女ジュリーナ、と」
「フェルド……」
「君が嫌じゃなければだけど……どうかな?」
正直、これまで迷っていた部分はあった。聖女はやめたが、かといって聖女としての力を捨てたわけではなく、幼少期から磨き上げたその力に少なからず誇りを持っている。
聖女と名乗るわけにはいかないが、聖女の名を捨てきることもできず、迷っていた。
だが……村人たちの嬉しそうな顔、そしてフェルドの言葉に自信を貰えた。
私は聖女。宝石の聖女、ジュリーナ。
誰かが私のことをそう呼んでくれるなら、私も胸を張ってそう名乗ろう。
なんだか胸のつかえがひとつ取れた気がした。
……ま、私の性格を考えるといわゆる聖女とはほど遠い気もするけど……あくまで力の話ね。皆がそう呼んでくれるわけだし、うん。
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その後、私たちはモース村で一晩体を休めた。村人たちからぜひお礼をさせて欲しいと頼まれたのもある。
村で一番大きな村長の部屋で、事件解決のお祝いも兼ねて宴会が開かれた。
王族の方に出すには畏れ多いが、と運ばれてきた料理だが、農村なだけあって材料豊富、素朴ながら味わい深い品の数々を堪能できた。特に私は高級なものを食べ慣れていないのでこの方が落ち着く。
フェルドとパイロはお酒も楽しんでいた。麦で作ったというお酒、フェルドが言うには絶品だったそうだ。
サッちゃんも宴に参加した。振る舞いは少し乱暴だったが、人間の姿では力も人間と同じになるらしく特に問題はなかった。むしろ賑やかな宴にはサッちゃんが一番馴染んでいたのかもしれない。ちなみに村人たちからサッちゃん用の服も貰った。これで安全。
特にサッちゃんはお酒を気に入ったらしくガブガブ飲んでいた。酔っぱらって暴走しないか心配だったが、体の中の方はドラゴンなのかほとんど酔っぱらわず終始ただただ楽しそうだった。力は人間なのに中身はドラゴン、不思議だが、フェルド曰くドラゴンの魔術は人間にはわからない部分も多いんだとか。
あとそうそう。
ついに、私の念願がひとつ叶った!
というのも……クルにヒマワリの種をあげられたのだ!
ヒマワリの種をちっちゃな両手で持って口に押し込んでいくクル、とてもかわいかった。やっぱりクルはヒマワリの種が大好きなんだろう。
フェルドは「ジュリーナが手渡せばなんでもいいんじゃないかな?」と言っていたがそんなわけはない。はず。
袋いっぱいに種を貰えたので、都に帰ってからもあげるとしよう。キセノさんもきっと喜ぶはずだ。
ともあれ、モース村で楽しい一夜を過ごしたのだった。
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翌朝、村人たちに見守られながらオーソクレース王都へと出発。馬車にゆっくり揺られて帰還した。
サッちゃんは馬車が窮屈だと文句を言っていたがフェルドにたしなめられて我慢していた。偉い偉い。
私が撫でてあげるとサッちゃんは喜ぶ。私の魔力が心地よいのだとか。もっと撫でろ、と堂々と要求する。見た目だけならワイルドな大人の男なのだが、こうなると子供のようだ。あるいはクルに近いか。
幸いモース村と王都の距離はそう離れていないので、サッちゃんの限界が来る前に到着した。
城郭へと入る際の検問は当然顔パス……
の、はずなのだが、衛兵に呼び止められた。
「フェルド王子、国王陛下より言伝を賜っております」
「父上が? 教えてくれ」
「はい。『王城まではジュリーナ嬢のお顔を隠した状態で来るように』とのことです」
フェルドの父、オーソクレース国王からの伝言は、そんな不思議なものだった。私に顔を隠せ? なんで今更。
「理由は聞いているかい?」
「いえそこまでは……察するに、我々いち兵士には伝えられない事情があるのではと思います」
「父上のことだ、たしかにそう考えるのが自然か。わかった、ありがとう」
衛兵に礼を言った後、フェルドは馬車のカーテンを閉めた。これで外から見られることはない。
「ジュリーナ、そういうわけだから協力してほしい」
「ええ、私は構いませんが……でもなんででしょう?」
「うーん、父上が不必要な命令を下すことはまずないだろうから、何か理由があるんだとは思うけど……とにかく王城に帰って直接聞いてみるしかないね。どの道モース村でのこととサッピールズのことを報告に行く予定だったし」
「ですね」
一難去ってまた一難、何やら厄介ごとの気配がする。
私たちを乗せた馬車は王城へと向かっていった。
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