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第31話 魔石の力!

 まずは拾う所からだ。手に取らなければ始まらない。


 そっと『蒼の魔石』に手を伸ばしつつ、魔力に意識を集中させる。『蒼の魔石』は本質的には『紅の宝玉』と同じ物質、だったら……


 『紅の宝玉』の魔力を抽出するのと逆の要領で、その魔力を解析して……安定させる!


「……よし!」


 うまくいった。手の平サイズの『蒼の魔石』を手に持つことができた。要は『蒼の魔石』の外側の魔力を操作して安定なものに変え、全体をコーティングした感じだ。緻密な魔力操作が必要だが、散々『紅の宝玉』を扱ってきた私なら可能だ。


 さて問題は、あの思いつきがはたして本当に可能かどうか。危険も伴うが……


「くっ、すごいパワーだ……!」

「なかなか、反撃の機会もくれませんね……!」

『ガアアアアッ!』


 ドラゴンと厳しい戦闘を続ける2人のためにも、やってみる価値はある。


「ふーっ……」


 息を落ち着かせ、精神を統一。


 やること自体はいつもと同じ。宝石からの魔力の抽出、純化、そして昇華だ。違うのは対象が赤ではなく青、『蒼の魔石』であるということ。


 安定していて性質もおとなしい、いわば優等生の『紅の宝玉』に比べ、こっちは暴れん坊だ。それでも私の経験と能力を活かせば……


 ……いける。感覚が掴めてきた。


 『蒼の魔石』の魔力をコントロールし、指向性を与えつつ研ぎ澄ませ……魔力を魔法へと昇華させる!


「お2人とも! ドラゴンから離れてください!」


 フェルドたちに声をかける。2人は一瞬私を見て逡巡したようだが、すぐに頷き合うと飛びのき、言われた通りドラゴンから距離をとった。私を信じてくれたのだ。


 その期待に応える!


 大丈夫、いつもと同じ、取り出した魔力を使って魔法を放つ……ただし今回放つのは『蒼の魔石』に宿っていた魔力。


 つまり、破壊の魔法!


「えーいっ!」


 両手をドラゴンへと向け、魔法を放った。


 その瞬間、辺りが閃光に包まれた。魔法を撃った私自身が腰を抜かしそうになるほどの光だった。


 私の手から放たれたのは、キラキラと輝く魔力の渦。宝石が混ざったようにも見える綺麗な魔法だった。


 しかしその実態は攻撃魔法、確かな破壊のエネルギー。


『グオオーーーーッ!?』


 光はドラゴンを一瞬にして飲み込み……そして。


 光がやんだ時……そこには倒れて動かなくなったドラゴンが残された。


「や……やった……」


 私は力が抜けてしまい、ぺたんとその場にしゃがみ込んだ。


 イチかバチかの賭けだったけど、なんとかうまくいった。『紅の宝玉』でやるように『蒼の魔石』の魔力を使った魔法……魔力のコントロールには自信があったので、いけるとは思っていた。


 しかしまさか、ドラゴンを一撃で倒してしまうほどの威力になるとは。小さい『蒼の魔石』は爆発した時もたいした規模じゃなかったので、ドラゴン相手ならと思いっきりやってみたが……


 純化・昇華がうまく行き過ぎたのかもしれない。たとえば木炭なども作り方によって燃料効率が格段に変わるように、魔石は扱い方次第で効果が変わるのだ。私はそれが大得意。


 やりすぎた気もするし、一歩間違えれば大事故だったとも思うけど……


「ま、ともあれ……結果オーライ!」


 目を丸くしてドラゴンと私を交互に見るフェルドたちをよそに、私はガッツポーズをするのだった。


────────────────────────────────


「ありがとうジュリーナ、君のおかげで助かったよ。まさか『蒼の魔石』をあんな使い方するなんて」

「いやあ、私も賭けでしたけどね。うまくいってよかったです」

「まあ正直危険な賭けではあったと思うけどね……『紅の宝玉』によって国家規模の結界を維持してきた君が、『蒼の魔石』を全力で使ったらああなるんだね……」

「あ、あははは……そこはごめんなさい……」


 結果的にはよかったが、行き当たりばったりで行動したのは否めない。下手をすればフェルドたちごと巻き込んでいたかもしれなかったので、そこは反省。


「パイロ、どうだ?」

「……死んではいませんね。強い衝撃によって気を失っているだけのようです」


 パイロさんは倒れたドラゴンを調べていたが、どうやら命までは奪わずに済んだようだ。威力の加減もしなかった以上はっきり言ってそれも偶然、ドラゴンの頑丈さに感謝だ。


 と思っていたが、案外そうでもないらしい。


「このドラゴン……傷ひとつない。あれだけの攻撃魔法を受けて……それにこの体に残った魔力は……」


 フェルドがドラゴンに触れ何やら考える。そして思わぬことを言い出した。


「ジュリーナ、さっきの魔法、僕にも撃ってくれる?」

「え!?」


 さすがに驚く。突然なに? マゾ宣言?


「確かめたいことがあってね。もちろん小規模なもので頼むよ」

「フェルド様、それなら俺が代わりに……」

「いやこれは僕自身が確かめたいんだ。ジュリーナ、遠慮はいらない、腕目掛けて一発頼む」

「わ、わかりました、そこまでおっしゃるなら……」


 いまいち意図が掴めないがひとまず言われたとおりにする。辺りを見渡して小さめの『蒼の魔石』を探し、拾った。


「まずそれがすごいよね、『蒼の魔石』をそんなあっさり手に持つなんて」

「ああ、なんか一度やったらコツ掴んじゃって」


 魔力の扱いは私の得意分野だ。聖女に選ばれたのも半分以上それが理由だったみたいだし。


「で……本当にいいんですね?」

「ああ、どーんとお願い」

「わかりました……それでは!」


 言われた通り、フェルドに向けてさっきの魔法を放った。さっきよりは小規模だが、それでもキラキラ輝く光がフェルドの腕を一瞬で包み込む。


 が……光が晴れた時、フェルドの腕には傷一つなかった。


「あ、あれ? 失敗したかな」

「いや……たしかに魔法は僕の体に当たった。だけど僕が感じたのは……ジュリーナの魔力だ」

「私の? でも今使ったのは『蒼の魔石』の魔力ですよ、ほとんど」

「そう、そこだ。どうやら僕の予想が当たったみたいだ」

「と、いいますと?」


 こういう時はおとなしくフェルドの解説を聞くに限る。学者肌らしいフェルドは説明する時いきいきしてるし。


「基本的に、魔力というものは魔力でしか扱えない。だから君が『蒼の魔石』の魔力を抽出し魔法に使うといっても、そのための道具としてジュリーナ自身の魔力を必ず用いたはずだよね」

「あ、たしかにそうですね」


 手や足で魔力が持てるわけはない。なのでたとえるなら魔力をトングにして別の魔力を掴むようにして魔力は扱うのだ。


「『蒼の魔石』による攻撃魔法といっても、そこにはジュリーナ自身の魔力が少なからず混ざっていた。そしてジュリーナは『紅の宝玉』でもそうだったように、魔力のコントロール技術に極めて長けているようだけど……その結果、魔法が完全に君の制御下になったんだと思う」

「制御下?」

「たとえるなら剣術の達人は剣を振り回しても無用に物を傷つけない。斬りたいものと斬りたくないものをしっかり区別できる。それと同じように、完全に制御された魔力は、引き起こす現象をも制御できるようになるんだ」

「現象を、制御……」

「君はさっき僕の腕を魔法で攻撃したけど、僕を傷つけたいとは思っていなかっただろう? そしてその通りの現象を魔法は起こした」

「あ、なるほど!」


 私はフェルドを傷つけようとして魔法を撃たなかった、むしろ傷ついて欲しくないとすら思っていた。その意識が魔法に反映された、というわけか。


「さらにいえばあの魔法には聖女の魔力……癒しの魔力が混ざっていた。それによってむしろ、傷つけたくない相手には癒しすら施し、また過剰な破壊を防ぐ作用が現れたんだと思う。僕の腕もそうだし……このドラゴンからも、実はジュリーナの魔力を感じたんだ。『蒼の魔石』だけの力ならありえないことだ」


 破壊の魔法なのに、聖女の魔力が混ざった結果、不思議な魔法が生まれたらしい。たしかに『蒼の魔石』の魔力を使う時、私の魔力と反発しないよう慎重に調整したが……それがまさかそんな効果を及ぼすとは。


「ジュリーナはドラゴンを殺そうとしてたかい?」

「えーっと、正直がむしゃらであんまり考えてませんでしたけど……大人しくしてくれーって感じに思っていましたね」

「だろうね、だからこのドラゴンは死なない程度にダメージを受け、そして気を失ったんだ。君の考え通りにね」

「な、なるほどお」


 ドラゴンが死ななかったのは偶然ではなく、私が撃った魔法の性質によるものだったようだ。


「えーっとつまり、『蒼の魔石』を使った私の魔法は、攻撃したい相手だけを必要な分だけ攻撃して、そうでない相手は逆に傷を癒すこともできる……ってことですか」

「ああ、僕自身で証明したようにね」

「それって……なんかすごくないですか?」


 攻撃にも治癒にも使える一挙両得の魔法、めちゃくちゃ便利そうだ。


「すごいよ。魔術師たちが涙を流して羨ましがるだろうね。君だからこそできる……君にしかできない、奇跡のような魔法さ」

「そ、そんな大袈裟な。私はただこの、『蒼の魔石』を使っただけで……偶然ですよ」

「いや……君はやっぱり、すごい。まさに……いや、すごいよ、うん」


 フェルドが語彙失いモードに入った。本気で賞賛しているのだろう。私としてはまったく狙ってない、ただ『蒼の魔石』を拾って使ったらたまたまそういう結果になっただけなので、正直照れる。


 まあでも、そんなにすごい魔法なら……これからも利用していかないという手はないよね。


 ここの『蒼の魔石』を安定化させていくつか持ち帰ろう。きっと今後、役に立つ機会もあるはずだ。


 今回みたいに……フェルドたちだけに危険な戦いを押し付けることもなくなるし。


「名前……そうだ、あの奇跡の魔法に名前をつけなきゃいけないね。そうだな……」


 考え始めるフェルドを見て、私は正直やばいと思った。思い出すのはクルの名前をつけたとき、たしかフェルドはイン・クルー……なんとかというめちゃくちゃ長い名前を提案してきたのだ。


 含蓄はあるんだろうが、そのあまり命名が暴走しがちなフェルド。はたして今回はどうなるか。


「……『聖女の光』。そう、呼ぶのはどうかな」

「え?」


 意外にもあっさりとした命名に、肩透かしを食らってしまった。


「だ、ダメかな? 君が嫌なら……」

「いえいえそんな! それでいきましょう!」

「そ、そう? なら、いいんだ」


 実を言うと私も何かに名前をつけるのは大の苦手なので、フェルドが決めてくれるならそれに越したことはない。決定、あの魔法は『聖女の光』。


 ……あれでも、『聖女』か。うっかり流してしまったけど……私はもう聖女じゃないんだけどな。まあでも、魔法の一部に聖女の魔力が必要なのは間違いないし、そういう意味では妥当なネーミングか。


「……それでフェルド様。このドラゴン、どうしますか?」


 とそこで、頃合いを見てかパイロが切り出した。


「せっかく加減してくださったジュリーナ様には申し訳ないですが……危険なドラゴンには変わりません、今のうちにトドメを刺してしまうのも手ではあります。この状態なら急所をたやすく狙えますので」

「ま、待てパイロ、ジュリーナの奇跡の結果なんだ、そこまでしなくても……いやでも危険性も事実か、もし洞窟を出てしまえば国民にも危険が……ううん……」


 フェルドはロマンチストな面も強いが、それ以上に合理的な為政者。パイロの提案に迷っている様子だった。


 私としても結果的に自分が殺したようになるのであまり気分は良くないけれど、近くの人々の危険を考えるとやむを得ないように思える。ここはぐっとこらえて、フェルドに私は気にしないからと進言を……


 ……ん?


 この感じ……このドラゴン……もしかして。


「フェルド、パイロさん。ちょっと、待ってください」


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