第23話 お任せあれ!
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「ふーっ、無事に終わってよかった」
「お疲れ様ジュリーナ」
謁見を終えた私たちは部屋へと戻るべく王城の廊下を歩いていた。
「フェルド、私失礼なことしなかった? 言葉遣いとか大丈夫だった?」
「心配しなくても大丈夫さ、父上も言っていたけど君は恩人なんだ、むしろこちらが礼を尽くさねばならない立場さ」
「そういう問題じゃなくて……ま、いいですけど」
少なくともフェルドがにこにこしてるんだから大きな失敗はしなかったんだろう。
「それにしても立派な王様でしたね! 貫禄があって、知的で……羨ましい限りです」
「ああ、父としても王としても、僕の目標だ。いつかは僕もあんな風になれたらと思っている」
「フェルドならきっとなれますよ!」
オーソクレースの王城を、その第一王子と並んで談笑しながら歩く。少し前なら想像すらできなかった光景だ。
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ひとまず私たちは私の部屋へと戻った。クルも待たせていたことだし。
「お帰りなさいませフェルド様、ジュリーナ様」
キッチリ整えられた部屋でキセノさんが丁寧に挨拶する。
「あれキセノさん、クルは?」
「それが、ジュリーナ様がお部屋を出られた後、ずっとあちらに……」
「ん~?」
キセノさんが手で示した方を見る。部屋に備えられた棚の上、小さな壺のような調度品……その中からひょっこりと顔を出した。
『キュッ』
一声鳴くと壺から飛び出て私のもとへ来て、するすると器用にドレスを上り、ポケットに収まった。
「申し訳ありませんジュリーナ様、わたくしではクル様にご安心いただけず……窮屈な思いをさせてしまいました」
「いやいや気にしなくていいですよ、クルは狭いとこが好きなだけだから」
「キセノは優秀なメイドだけど、カーバンクルは普通の人間には懐かないからね。ジュリーナがそばにいればともかく、離れていたら無理もないよ」
『キュ』
うーん、キセノさんは良い人なんだけど……まあ小動物は警戒心が強いイメージあるし、やっぱり聖女の魔力が大事みたいだ。一緒に生活すれば、そのうち懐くかも?
「それでフェルド、そろそろ私に頼みたい仕事について教えてくれます?」
謁見があるということで後回しになっていたが、フェルド曰く私にしか解決できない大仕事があるという。
今までずっと宿屋街でフェルドたちを治療した恩を感謝され続けたが、さすがにそろそろ申し訳なくなってきた。その恩は道中の宿と食事、オーソクレースへの案内でもう十分すぎるほど返してもらっているし、その仕事で私も恩返しをしなくちゃ。
「そうだったね、待たせてごめん」
フェルドはそう言って、私に頼みたい仕事について説明を始めた。
「オーソクレースの南西に農村がある。知っての通りオーソクレースには結界がなく、魔物の脅威から城郭外にはほとんど人は住んでいないんだけど、その農村は瘴気が特に少ない地域で魔物も滅多にいない、住民たちの自治で十分暮らしていける場所なんだ」
アルミナなら結界内どこでも人が暮らしていけるが、それがないオーソクレースは色々と苦労があるらしい。我ながら役立っていたんだなあ、結界。
「オーソクレースでは貴重な農作物を生産できる場所で、長年オーソクレースの食を担う重要な場所だったんだけれど……」
『だった』? 風向きが怪しくなってきた。
「最近、そこに魔物が出没するようになったんだ。それも強力な魔物が、多数。瘴気もだんだんと濃くなっている、本来ならあり得ないことだ。今は国から衛兵を手配して守らせているが……なにせ農村は広大だ、人は守れても農作物の全ては守り切れない」
たしかに、魔物は人を襲うだけでなく作物を食い荒らしたりもする。いくら兵士がいてもそれら全てを一日中守り切るなんて不可能だろう。
「同じように魔術師によって魔物除けの結界を張らせようにも、規模が大きすぎて守り切れないんだ」
なるほど、話が見えてきた。
「つまり私が、農村を守る結界を張ってあげればいいんですね!」
「実はそうじゃないんだ」
外した。恥ずかし……
「もちろんそうして貰えると助かるんだけど、結界を維持し続けなきゃならないし、それじゃ根本的な解決にはならない。それより大事なのは原因究明だと思うんだ」
「あ、たしかに」
そもそもなぜ、これまで来なかった魔物が来て、瘴気が流れ込んでいるのか? そっちの方が重要だ。
「だから君には……聖女の力で瘴気を感じ取り、その出所を辿り、探り当ててもらいたいんだ。普通の魔術師ではある程度までは辿れても、どうしても限界があるからね」
なるほど、話はわかった。
聖女は聖なる魔力を宿す存在だ。その分、悪しき魔力である瘴気に対しては人一倍敏感で、それを感じ取ることもできる。
私が初めてクルと出会った時、その額の宝石に混ざってしまっていた瘴気を感じ取ったように。
「瘴気の気配を辿るということは魔物に遭遇する恐れもある。大変な仕事だが、君にしか頼めないんだ。お願いしても、いいかな……?」
不安げに尋ねるフェルドだが、返事は決まっている。
「もちろん! このジュリーナにお任せください」
困っている人がいるなら放っておけない……
というわけではないが、『あなたにしかできない』と頼られるのは悪い気はしない。我ながら聖女らしからぬ俗っぽさとは思うが、そういう性分なのだ。
ましてフェルドの頼みだ、断る理由はない。誠実なフェルドなら仕事に見合う報酬は必ずもらえるだろうし。
「ありがとう! 君は本当に優しい人なんだね」
フェルドはそう言って私を持ち上げるが、優しいのは彼の方だろう。国の未来、国民の未来を本気で憂い、考え、行動できる。そんなフェルドだからこそ私も協力したくなるのだ。
フェルドのため、オーソクレースの人々のため、そして私自身のため。この仕事、完遂してみせる!
聖女としての仕事にここまでやる気が出るのは初めてかもしれない。環境って大事だなあと、しみじみ思った。
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