第20話 いざ謁見!
キセノさんが用意したドレスは、まさに貴族が着るような美しいものだった。全体の印象はけして派手ではないのだが、細部に至るまできめ細やかな装飾が施されており、上品な美しさをかもし出す。
色は全体的に控えめに見えたが……
「後ほど、『紅の宝玉』をあしらった装飾品をご用意いたします。きっとそのドレスとよく調和しますよ」
とキセノさんが言ったとおり、『紅の宝玉』と合わせることを前提とした色使いのようだ。
『紅の宝玉』の装飾品は後でぴったりのを見つけるとフェルドが張り切っていたそうなので、今はとりあえず普通の装飾品を身に着ける。これはこれでまとまりがよく、キセノさんのセンスに脱帽だ。
ドレスは綺麗だけど、私にはちょっと似合わないんじゃないか? 貴族でもなんでもない私には……と不安になっていたが。
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「おお……!」
私を見たフェルドの表情を見て、不安も和らいだ。
「すごく、綺麗だ。似合っているよ、とても」
フェルドには珍しく言葉選びがぎこちないが、キラキラ輝くその目を見れば言いたいことは伝わってくる。
「ふふっ、気に入ったようで何よりです」
フェルドのおかげで私も自信が出てきた。
「それで謁見はいつに?」
「ああ、すぐにでも可能らしい。どうする?」
「そうですね、ちゃちゃっと終わらせちゃいましょうか!」
「ちゃちゃっとか、君らしいね」
しっかりとした服装に着替えたおかげか、精神的にも余裕が出てきたようだ。オーソクレース王の前でもなんでも出てやろうじゃないの。
「それじゃ、行こうか」
「ええ。あ、クルはキセノさんと一緒にお留守番しててね」
『キュ!』
「え、わ、わたくしが、クル様のお世話を!?」
「はい、戻るまでの間よろしくお願いします」
「は、はわわ……」
かわいいクルとかわいいキセノさんを残し、私たちは謁見へと向かった。
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さて謁見。
まずはフェルドが王の前で報告をする。
「……というわけで、アルミナ王国の結界の弱体化は真実です。その余波はすでに出始めており、例の地の件もあって、対策は必要かと」
「うむ、ご苦労であった」
オーソクレース王は精悍なおじさまといった感じの人だった。フェルドよりもややがっしりとした体格で、いかにも頼もしい感じの王様だ。
「結界の弱体化の余波についてはすぐ宮廷魔術師たちに概算を出させ、それに基づき対応を考える。ひとまずは領内の宿屋町などに衛兵を派遣し防衛を強化せよとの触れも出すとしよう」
フェルドの父親らしく理路整然と指示を出す。いかにも賢王といった感じだ。なんかもうアルミナと比べるのもおこがましい。
オーソクレースは立地的にはけして恵まれた国ではなく、それゆえに王には資質が求められたんだとか。逆にアルミナは立地的に優れていた分……というわけだ。
「そして陛下、アルミナ王国の結界が弱まった原因についても判明いたしました」
「まことか?」
「ええ、それに関係しまして、こちらの方をご紹介したく、ご足労を願いました」
いよいよだ。フェルドに促され、王の前へ。一礼し、自己紹介をする。
「お初にお目にかかります、ジュリーナ・コランダムと申します」
「ジュリーナ? たしかアルミナの当代の聖女がその名だったな……まさか」
「お察しの通り、ほんの少し前までアルミナ王国にて働いておりました」
私が正直に打ち明けると、王はさすがに驚いているようだった。
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実は謁見の前、フェルドから偽名を使って素性を隠すのも相談されていた。アルミナの聖女だと公になれば私に不都合があるかも、と気遣ってのことだ。
私も少し悩んだが、一切を隠さないことに決めた。だって私には何一つ後ろ暗いところはないんだもの、堂々と胸を張って名乗ればいい。
それにもし何かあったら、フェルドが守ってくれるんでしょう?
そう問いかけるとフェルドはにっこり笑って、もちろんだ、と答えてくれた。
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私は王様にもことの経緯を話した。
「……なんと、アルミナでそのようなことが……にわかには信じがたいが……」
「ジュリーナが本物の聖女であることは私が保証いたします。現に、調査の際に不覚をとった私を、ジュリーナは『紅の宝玉』を使い救ってくれました」
「なんと、それはそれは。ふむ、お前が言うのならば事実なのであろうな」
フェルドは王様からの信頼も篤いようで、とんとん拍子に話は進んだ。
「ジュリーナよ、息子を救ってくれたこと、私からも礼を言わせてほしい。我らがオーソクレース、あなたを歓迎するぞ」
「もったいなきお言葉です、陛下」
「そう畏まらなくてもよい、あなたは聖女にして息子の命の恩人。フェルドはやがてこの国を導く男、すなわちオーソクレースという国の恩人といえる。本当にありがとう」
「こ、こちらこそありがとうございますわ」
王に至極丁寧に感謝を伝えられ、思わず変な返し方をしてしまった。うう、ちゃちゃっと片付けるなんて言ったが、こうもまっすぐに丁寧に扱われるとかえって緊張してしまう。
そんな私を横目で見てフェルドは楽しそうにしていた。こいつめ。
「褒美をとらせたいが……フェルド、その様子だと彼女の待遇に関してはお前が責任を持つつもりだな?」
「ええ、その通りです」
「ではお前に任せよう、恩人に礼を損なうでないぞ」
「もちろんです、陛下」
「彼女へ何を頼むか、それを受けてくれるか否かもお前に任せよう。例の件も含めてな。ジュリーナ嬢、あなたもそれでよろしいかな?」
「ええ、大丈夫ですわ」
『大丈夫』って王様に言っていいんだっけ? などと考えがよぎる。ともあれフェルドとのやりとりで完結するならその方が楽だ。今だってしどろもどろなんだもの。
「ではそのように。フェルドよ、視察ならびに報告、大義であった。ジュリーナ嬢、フェルドを救ってくれてありがとう。この国があなたの第二の故郷となることを願っている」
「ははっ」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「下がるがよい」
かくして謁見は終わった。短いが、濃密な時間だった。
ともあれ王様にこの国にいることのお許しをもらえて何より、むしろそれ以上の待遇で面食らってしまった。国からの厚遇って慣れてなくて。
……それにしても、『例の件』ってなんのことだろう?
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