第2話 追放されたけど平気です
城を出てから馬車に乗せられ、兵士たちの監視の目にさらされながら揺られることしばらく。
「降りろ」
乱暴に降ろされたのは国境付近、そして結界の境界だ。通常、国を覆う結界は不可視だが、この境界付近ではわずかに魔力の壁を見ることができる。私が『紅の宝玉』の力を込めた、魔物や瘴気を遠ざける聖なる結界。
(色が薄い……そういえば最近、宝玉貰えてなかったものね)
本来ならそろそろ宝玉の魔力を込められるべきタイミングだが、追放によりそれを逃したため、結界の力は明らかに弱まっている。これではそう遠くない内に……
「きゃっ!?」
考えを巡らせていたら、いきなり背中をドンと押され、前のめりに倒れた。そのまま結界を抜ける、結界は人間には無害なので問題ないが、単純に転んでしまった。
「寛大な王に感謝しろ。だがもしこの国にまた現れるようなことがあれば、今度こそその命はないと覚悟しておけ」
私を突き出した兵士は吐き捨てるように言った。結界越しに私を見る顔が憎たらしい。兵士はそそくさと馬車に乗り込んで去っていった。
はいはいわかりました。頼まれたって来ませんよこんな国。最後までよくもまあ……
「ま、いいや」
私はむしろスッキリした気分で立ち上がった。あのクソ国から離れられて、解放感でいっぱいだ。
辺りを見渡す。国境付近のそこは、レンガ造りの道が伸びているだけの平原だ。道は私のいたアルミナ王国と隣国を結ぶもので、辿っていけば隣国まで行ける。だが隣国までは歩いたら何日もかかってしまうだろうし、結界から離れるほどに魔物の危険は増え、隣国に辿り着くまでにまず間違いなく死んでしまうだろう。
だが私は特に焦ることもなく、道の端に腰かけて待った。
魔物の心配はない。聖女の力があれば私1人分くらいの魔物を遠ざける結界は簡単に作れるのだ。『紅の宝玉』はあくまで大規模な結界を維持するのに必要だっただけで、その力の本質は私自身の中にある。もちろん、宝玉があればより強力な魔法が使えるのは間違いないけれど。
孤児院で先代聖女様に教わった記憶を思い返す……魔法の他に、この国の歴史も教わった。
アルミナ王国の東西南北に伸びる四本の道は、ずっと昔に商人たちが『紅の宝玉』を運んでこれるよう整備されたもの。アルミナ王国は立地的に交易の要衝でもあり、たくさんの商人たちが毎日行き来する。
道に刻まれた轍、つまり馬車の車輪の跡は、長い間多くの馬車が行き来した証だ。だからここで待っていれば……
「あ、来た!」
そう長く待たずとも、アルミナ王国から続く方に馬車の影が近づいてくるのが見えてきたのだった。