第19話 謁見の準備とメイドさん
フェルドの父親に会う、それはつまり、オーソクレース王に謁見するということだ。
正直迷った。聖女としてアルミナでも王城に住んでいたが、アルミナ王と話したことはほとんどなく、せいぜい任命の際に一声かけられただけだ。
貴族でも王族でもない私が王と言葉を交わすなんて畏れ多いと思っていたし、周囲もそう考えていたので、私にそうした上流階級との交流経験はない。
今となっては逆にぶん殴ってやりたいが。
……そうした王族への怒りをオーソクレース王に向けてしまわないか? という懸念もある。
でも結局、私はフェルドの提案を受け、オーソクレース王との謁見に臨むことにした。
今後オーソクレースで世話になるのなら変にコソコソするのも考えもの、ここは堂々と挨拶した方が胸を張ってこの国にいられるだろう。
そうと決まれば早速準備。さすがに王の前に今のまま出るわけにはいかないもの。
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「それじゃあキセノ、ジュリーナのことをよろしく」
「かしこまりました」
メイドに言い残し、フェルドが部屋から出ていく。部屋には私とキセノと呼ばれたメイドが残された。
「あらためまして、キセノと申します。ジュリーナ様のお召し替えを手伝わせていただきます」
挨拶するメイドは私とそう変わらないくらいの年齢に見えるが所作は丁寧で、さすがに王族付きのメイドといった感じ。アルミナでの私の世話は使用人の中でも最底辺の仕事で、実に雑に行われていたのとはえらい違いだ。
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
なんだかメイド相手だというのに逆に緊張してしまう。高貴な人に仕える相手もなんだか高貴な感じがするものだ。
「うふふっ、ご心配なく、全てお任せくださいませ。さあ、こちらへ」
そうしてキセノさんに色々整えてもらう。髪をすき、肌を綺麗にし……
その間、キセノさんと話をした。
「キセノさんはいつからメイドをやっているんですか?」
「わたくしは代々オーソクレースに仕えるメイドの家系でして、幼少期より訓練を受け、10歳の頃から見習いとして働かせていただいております」
「へー、それじゃ若くてもけっこうなベテランなんですね、王子のフェルドに重用されるぐらいですもの」
「とんでもないことでございます、わたくしなどまだまだです。ただフェルド様と年齢が近く、それで扱いやすいと思っていただけているようでございます」
フェルドもまた私と同い年ぐらい。私の世話を彼女に頼んだのも、私が緊張しないようにというフェルドの計らいなのかもしれない。
「ジュリーナ様、お召し物を換えさせていただきます。一度ジュリーナ様のお体を採寸させていただき、謁見用のドレスをお渡しいたしますので」
「あ、はーい」
そう言ってキセノさんが私の服を脱がし始めた時。
『キュキュッ?』
と、ポケットからクルが顔を出した。
「あっごめんクル、うっかりしてた」
服を着替えるなら一旦クルは出さないとね。謁見の時もお留守番かな?
「ジュリーナ様、こ、この生き物はまさか……カーバンクル!?」
クルを見たキセノさんが大げさに驚く。フェルドもそうだったが、クルはよっぽど珍しい動物のようだ。
が、今回はちょっと違ったようで。
『キュ~』
「はあああああっ……! な、な、なんと愛らしいお目目……ちっちゃなお手手が……ああ、ああ……っ!!」
キセノさんはそれまでの丁寧な所作はどこへやら、はわわわ、と、クルにメロメロになっていた。
「キセノさん、動物好きなんですか?」
「はっ……! し、失礼いたしました、つい冷静さを……オホン、た、たしかにわたくしはそうした生き物を好みますが、オーソクレースに仕えるメイドとして恥ずべき振る舞いをいたしました、申し訳ありません」
露骨に取り繕うキセノさんだが、目でチラチラとクルを追ってるのを隠せていない。
ちょっとした悪戯心が湧いた私は、クルをポケットからひょいと出して……
「よかったら触ってあげてください」
と、キセノさんに手を出させ、そこにぽんとクルを置いた。
「えっ!?」
『キュ~?』
驚くキセノさん、クルはそんな彼女の顔を見上げる。初めて見る人の顔が気になるのか首を傾げていた。
「は、はわわわわわ……!」
そんなクルを見てキセノさんは目をハートにせんばかりの勢いだった。
「じゅ、じゅう、ジュリーナさまあ、こ、この子をどかしてください。わ、わたくしの手の中にいるのは、あ、あまりにも、あまりにも……!」
「はいはい、クルもごめんねー付き合わせて」
『キュ』
限界のようなのでクルを回収する。
「はわあっ……柔らかで……軽くて……ああっ……♡」
緊張から解放されたのもあってか、ぺたんとキセノさんはその場に崩れ落ちてしまった。さっきまでの真面目さとのギャップに思わずキュンと来るなこれは。
「はっ! し、失礼いたしました! お、お戯れを、ジュリーナ様……こほんっ」
慌てて体勢を整え模範的メイドへと戻るキセノさん。うーんかわいい。
とはいえこれ以上は準備の邪魔だ、私も自重し、その後は順調に準備を進めていったのだった。
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そして。
「こ、このドレス、大丈夫ですか? 高貴すぎて私には似合わないような……」
「いえいえ、お似合いですよ。さあフェルド様、どうぞ」
ドアが開かれ、準備を終えた私とフェルドが対面する。
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