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第18話 フェルドと聖女

【SIDE:フェルド】


 国を守るのが王族の責務。その矜持と共に僕は生きていたし、その矜持を誇りにしていた。


 だからこそ……憧れがあった。


 アルミナ王国の守護神、宝石の聖女。たった1人で広大な領地に結界を張り、国民を守り続ける存在。


 姿も見たことがない噂だけの存在だが、その在り方に憧れていた。自分にはそんな力はないが、宝石の聖女のように国を守り、民を安心させるような人間になれればと願い、努力してきた。


 宝石の聖女は僕の憧れだった。


────────────────────────────────


 アルミナの結界が弱まっているという報告を受けて視察に赴き、実際にそれを目にした時は愕然としたものだ。


 聖女に何かあったのか。聖女は無事なのか。恥ずかしながら自分の国のことを一瞬忘れ、それを心配してしまった。


 その隙を突かれたというわけではないが……魔物相手に不覚を取り、撃退はしたものの、自分も護衛たちも大怪我を負ってしまった。己の未熟さを突き付けられた気分だった。


 なんとか宿屋街に辿り着いたが、優秀な治癒師(ヒーラー)が見つからなければ死もありえた状況。国を守れず死にゆく自分を恥じ、諦めかけていた。


 そこに現れた救世主が、彼女だった。


 初めて見た時、その姿が輝いて見えた。それは命の恩人だからだろうか? 正直、自分でもわからない。ただ言えるのは……僕の目に彼女は、とても美しく尊いものに見えたという事実。


 美しい女性の宝石術師……まさか聖女? すぐに頭によぎった。しかしアルミナの国防の要たる聖女がこんな場所にいるはずないと、その時は憧れのあまりよぎった妄想だと振り払った。


 食事を共にし、楽しい人だな、と思った。オーソクレースへの案内を申し出たのも純粋にお礼をしたかったから。もし本当に聖女なら……という下心が微塵もなかったといえば嘘になるかもしれないけれど。


────────────────────────────────


 ひょっとしたら、と思い始めたのは、やはりカーバンクルを連れていたことだ。


 カーバンクル、幻の聖獣。その額に宝玉を宿し、不思議な奇跡の力を持つという。いつの間にかジュリーナが連れていたのは、まだ子供だが、間違いなくその聖獣だった。


 カーバンクルが人に懐くなど聞いたことがなかった。もっともそれは、たまたまジュリーナが動物に懐かれる体質だっただけかもしれない。だが幻の獣と戯れるその姿は、僕がジュリーナは聖女ではないかと本気で考え始めるのには十分なものだった。


 会話の中でそれとなく情報を探り、ジュリーナがアルミナから来たこと、アルミナからほとんど出たことがないことがわかった。それは王子である自分を知らないという点からも明らかだ。


 そしてオーソクレースについた後、一旦ジュリーナと別れ、密かに情報収集をした。宿屋街でも出会った商人を見つけて、どこでジュリーナと出会ったのか聞きだした。他にもアルミナを行き来する者……主に『紅の宝玉』を扱う商人を中心に話を聞いた。


 正確なことはわからなかったが、少なくともアルミナで何か異常事態が起こっていることがわかった。そしてそれが、聖女がアルミナの外に出たと考えればすべての辻褄があうということも。


 疑惑は確信へ。いや、本当は確信に至るほどの情報はなかった。でも僕は……ジュリーナが聖女であってほしい、そう願うあまり現実を歪めて見ていたのかもしれない。我ながら恥ずかしい話だ、為政者たるもの常に正確に物事を捕えなくてはいけないのに。


 でも、結果的にはよかった。


 ジュリーナは聖女で。


 僕たちは、打ち解け合うことができた。


────────────────────────────────


 ジュリーナは僕が憧れていた聖女とは少し違ったかもしれない。人間的で、打算的。無償の愛を分け隔てなく与えるというタイプではなかった。


 だがだからこそ逆に1人の人間としてジュリーナを見て思う。優しく、軽やかで、明るい、光のような人だと。


 王子と聖女である以前に、1人のフェルドと、1人のジュリーナとして……立場を越え、彼女とわかり合えたことを、僕は心から嬉しく思った。


 ああ、ジュリーナ。君と出会えてよかった。


────────────────────────────────


「フェルド様、お待たせいたしました」


 ジュリーナの声がする。謁見の前に身だしなみを整えてもらっていたところだ。ドレスを選んでもらって、髪も整えて……


 そして現れた彼女の姿を見て僕は……その輝きにまた、目を奪われた。

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