第16話 苦しむアルミナ王
アルミナ王国にて。
「陛下! ただいま報告が入りました」
王の前へ兵士が駆け込んでくる。
「国中より集められた『紅の宝玉』、そして、陛下から寛大にも民のため下賜をたまわった宝玉を合わせ、宮廷魔術師並びに聖女候補の方から、結界の見積もりが出ました」
「おお、そうかそうか」
『紅の宝玉』からの魔力抽出は何もジュリーナだけしかできなかったわけではない。相応に魔法の知識のある魔術師はもちろん、アルミナ王国では次代聖女を育てる仕組みが構築されており、その候補たちも当然それができるのだ。
技術を持つ者に集められた『紅の宝玉』を与え、これでどれくらい結界がもつかを計算させていたところだ。かつてはその裁量をジュリーナに一任したがために着服を許したため、今度は王自らが管理しようというわけだ。
「あれだけの量の宝玉だ、これでしばらくは安泰であろう。あのジュリーナは与えども与えどもこれでは足りない結界が弱まってしまうと世迷言を言っておったが……ようやく正しい形に戻るわけだ」
「い、いえそれが……」
「ん?」
悠長に構える王に対し、兵士は恐る恐る切り出した。
「げ、現状の宝玉全てを使い、どれほど工夫しても、ひと月が限界である……とのことです」
「な、なんだと!?」
その報告に王は思わず立ち上がった。
「我が秘蔵の宝玉を3割も預けたのだぞ!? ひと月? そんなバカな!」
王はこの期に及んで意地汚く宝玉を出し渋っていたが、それを吹き飛ばすほどの計算違いだ。すでに国中から集めに集めた宝玉と合わせてなお、ひと月。
「ほ、報告ではそのように……」
「ええい、魔術師どもを呼べ!」
「は、ははーっ」
怒り狂う王に怯えつつ、兵士は去っていった。
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やがて王の前に宮廷魔術師、そして数名の聖女候補たちが連れてこられる。
「貴様ら、あれだけの宝玉を預かっておきながらひと月しか結界を維持できぬとはどういうことだ!? よもや貴様ら、ジュリーナのように欲に目がくらみ、着服を企てたのではあるまいな!?」
「け、けしてそんなことはございません!」
「ではなんだ、理由を言ってみろ!」
「お、恐れながら申し上げます……」
宮廷魔術師と聖女候補たちは怯えながら答えた。
「『紅の宝玉』からの魔力抽出の際、どうしても大気中に放出されてしまう魔力がございます。抽出する者の技量によってその量は減り、より効率よく抽出できる者ほど優秀なのですが……」
「ジュリーナは私たちの中その技術がもっとも優れていたんです、ありえないくらいに!」
「ジュリーナほどの効率で『紅の宝玉』を扱える人はいません、も、申し訳ありませんけれど、あれは……天才としか言いようが……!」
「そ、そもそもジュリーナが聖女に選ばれたのはその技量を見込まれてのことでしたし……」
なんということだ、と王はショックを隠し切れない。ジュリーナが優秀? あの悪女が?
「馬鹿を言うな! それでは結界の維持しているうちに国がすっからかんになってしまうわ! 先代まではどうしていたというのだ!?」
「わ、我々に聞かれましても!」
「もうよい、下がれっ!!」
慌てて魔術師たちが去っていく。王は玉座で頭を抱えた。
宝玉が足りない。あれほど集めてひと月では、年の巡りひとつ待つ間に国が滅んでしまう。
他国から輸入しようにも金がない、というより、輸入が追い付かなくなったからジュリーナを追放したのだ。
まさかジュリーナの言う通り本当に結界の維持にあれほどの量の『紅の宝玉』が必要だったのか? しかしそれでは、先代はどうやって国を維持してきたんだ?
先代も聖女に『紅の宝玉』を渡して結界を維持させてきた、だがその間に国財が尽きるようなことはなかった。
何か、何かがおかしい。それがわからない。
「陛下、瘴気の拡大の報告が! じき農作物に影響が……」
「結界が目に見えて弱まっていると! 魔物の侵入も……」
追い打ちをかけるように届けられる凶報。
「ぐぐっ……!!」
王は苦しみにうめく。
「……宮廷魔術師どもに、与えた『紅の宝玉』を使って結界を維持しろと伝えろっ!」
やむを得ず宣言する。しかしそれでもその場しのぎに過ぎない。
「ぐぐぐぐぐっ……!!」
王は苦しみにうめき続けるのだった。
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