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第1話 追放されました

 私、ジュリーナ・コランダムは聖女と呼ばれる人間だ。


 聖女といっても大層なものではなく、私のいるアルミナ王国を魔物と瘴気から守る結界の維持・管理役というだけでしかない。


 結界さえ維持できていれば仕事は基本それだけ。おかげで衣食住には困らないし、贅沢を言わなければ好きなことをして過ごせる。


 先代から受け継いだこの仕事、それなりに気に入っていたのだが……


────────────────────────────────


「聖女、いや偽聖女ジュリーナ・コランダム! 貴様を追放処分とする!」


 突然王様に呼び出された私は、唐突な追放命令を受けて目をパチクリさせた。


 はあ? 王国を守っている私を追放? 正気ですか?


「あの王様、まず理由を……」

「そんなもの決まっている! 貴様が日々奢侈(しゃし)に溺れ、贅沢の限りを尽くし、王国の財を食い潰し続けるからだ!」


 はああ~? 私が? 贅沢?


 むしろ贅沢しすぎないよう、毎日贅沢三昧の王侯貴族たちを尻目に、日々の食事は市民と同じものにして、服も寝具も一般の品を使っていたのに? 結界の管理は当然の役目だ~とか言われて無給だったし。


「あの王様、私がいったいどんな贅沢を……」

「とぼけるのもいい加減にしろ! 貴様が幾度となく要求する、『紅の宝玉』のことだ!」


 ……『紅の宝玉』?


 それを求めることが、贅沢??? 本気で言っているのだろうか。


 『紅の宝玉』はその名の通り真っ赤な色の宝石だ。その美しさもさることながら、その本質は中にこもったエネルギー。魔力に満ちた場所で自然生成されるいわば魔力の塊、かつ自然の魔力によってできるため、魔物が本能的に嫌う力を持っている。


 この王国を守る結界も、私が『紅の宝玉』の魔力を抽出・純化し、昇華させることで成り立っているのだ。だから私が『紅の宝玉』を要求するのは当たり前だし、そうしなければ国を守れない。それが贅沢などと、本当にふざけた話だ。


「いやいやいや待ってください! 『紅の宝玉』は結界の維持に必要不可欠なのです! けして私が贅沢なのではなく……」

「そんなことはわかっている! だが貴様が要求する『紅の宝玉』の量は明らかに異常だ! そのせいで国の金が底を突きかけているのだぞ!? 先代まではこんなことはなかった!」

「はあ~!?」

 

 そんなこと知ったこっちゃない、私は先代に教わった通りにただ宝石の力を抽出し、結界を維持しているだけだ。必要量も先代に教わった通りそのままやっているし、なんなら先代よりも少ない量で同じ規模の結界を維持できているはずだ。


 数多くいた聖女候補から私が任命されたのは、その抽出の技量を見込まれてのことだったし……


 だいいち、国の金が尽きかけているとしても結界の維持は最優先、切り詰めるなら王侯貴族たちの贅沢生活の方だろうに。


「聖女の立場をかさに着て、宝石をため込む業突く張り女め! 恥を知れっ!!」


 王が私を指さして唾を飛ばす。すると周りの兵士や大臣たちも、そうだそうだ、この悪女めが、と私を非難した。


 そのころには私はもうすっかり冷めていた。ろくに原因究明も対策を練ることもしようとせず、私が悪いに決まっている! と決めつけて……彼らの中での私がどんな扱いなのかが伺える。今まで誰が守ってやったと思ってるんだ、恩知らずどもめ。


 もう、知ったことか。


「本来ならば死罪なのを追放で済ますだけありがたく思えっ!!」


 王様の言葉に周囲がさすが王、寛大だ、と歓声を上げる。あの、魔物がはびこる国外へ、私みたいな女1人での追放は事実上の死罪なのですが? 王の格好つけと、それに気付かない周囲にもう呆れしかない。


「あの~、一応聞きますけど、私がいなくなった後、どうやって魔物から国を守るんですか?」

「フン、貴様以外にも聖女候補だった者たちはいる、今後は彼女たちによって正しく結界は維持されていくであろうな! 残念だったな」

「あーそうですかそうですか、わ・か・り・ま・し・た!」


 こりゃもう何を言っても無駄だろう。私がいなくなったらいったい国がどうなるか、もう知ったことか。王の愚鈍さから魔物への備えを失う国民たちには悪いけれど……恨むなら王を恨んでくれ。


「追放、甘んじてお受けします! 今までありがとうございました!!」

「フン、ようやく諦めたか。言っておくが貴様の部屋にため込んだ宝石を持ち出せると思うなよ? 今からすぐに国外へと出るのだ! 兵士、この悪女を監視しておけ!」


 宝石は結界のために全て使ってきたので部屋に残っているわけがない。しかし着のみ着のまま追い出すとは、完全に死罪と同じだ。いよいよ王への同情が消え失せていく。


「宝石の悪女よ! 二度とこの国に近寄るな!」

「はいはい……」


 勝ち誇った王の悪態を背に受けつつ、兵士たちに挟まれて王宮を後にする。


 王宮を出てからは、国民たちの冷たい視線にさらされた。


「見て、あれが聖女様……いえ元聖女が追放されるみたいよ」

「やっぱり噂通りの悪女だったのね」

「あいつのせいで私たちの生活が……! とっとと出ていけ!」


 1人が声を上げたのを皮切りに、罵詈雑言が私に浴びせかけられた。その声から察するに、宝石の購入による財政逼迫が、国民たちの生活を苦しめていたらしい。


 私はまんまとその元凶に仕立て上げられたというわけだ。しかし仮にも今まで国を守ってきた聖女にこうも手の平を返すとは、少しくらい私の無実を信じてくれても……


「つっ!」


 私の顔に石が投げつけられた。兵士たちが、やめろ、他の者に当たったらどうする、と声を上げる。私に当たるのはどうでもいいらしい。ほんっとにもう。


 まあいい、もう知ったことじゃない。私がいなくなった後、この国がどうなるか……今から楽しみだ。


 こうして、私は追放されたのだった。

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