木下家
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≪天文3年(1534年)-尾張国愛知郡中村郷-≫
熱田から出て約半刻ほど。一行は中村郷に入って周囲に聞きながら中中村を目指していた。
「はあ?金石丸の親父の直感で陸奥から尾張までやってきたってのか?」
「久助!仮にも主君となられるお方だぞ!紀伊守様とお呼びしろ!」
「分かったよ。うっせえな・・・で?その紀伊守様の直感でここまできたってのは嘘じゃねえのか?」
「事実だよ。父上は直感の働く方だからな」
「いやいや・・・直感っても限度があんだろ・・・ていうかお前が俺を誘ったのって親・・・紀伊守様譲りの直感か?」
「それもある・・・久助は離してはならない・・・そう感じたんだ・・・」
「はあ・・・意味わかんねえ・・・」
久助が頭を振り理解できないと告げると我慢の限界を迎えた佐吉が怒鳴りだす。
「久助!貴様は安積家に来るのならば主君の嫡男である金石丸様には様を付け敬語でお話しせよ!」
「いいじゃねえか。金石丸がいいっつってんだから」
「家臣となるのならば!家臣としてのふるまいをせよと言っている!」
久助の金石丸への口の利き方に佐吉は怒鳴るも久助も負けずに言い返す。そこに金石丸が自分の意見を述べる。
「俺は別に何でもいいんだが」
「ほら見ろ!金石丸もこう言ってんじゃねえか!」
「これを許せば金石丸様が侮られます!今もただでさえ金石丸私兵団の面々は金石丸様に敬語を使わん輩がいるというのに」
「既にいるんならいいじゃねえか」
「あの者達はまだ家臣ではなく守るべき民だ!家臣であるお前とは違う!」
佐吉は元来内気で本が好きな子供だった。それが金石丸の小姓となり様々な人物とふれあい地獄の鍛錬をした結果、肉体も精神も強くなり性格は実直に悪く言えば頭が固い性格になっていた。
尚も揉める大槻佐吉と滝川久助。それを受け金石丸は大人の意見を求めた。
「萬吉はどう思う?二人のどっちが正しい?」
そう金石丸が萬吉に聞くと言い合っていた佐吉も久助も耳を傾けた。
「そうですな~・・・いくら金石丸様が仲間として誘ったとしても立場としては家臣と主君の嫡男となったからには敬語で話さなければいけないでしょうな」
その言葉に佐吉は我が意を得たりと言わんばかりに佐吉を見る。
「しかし紀伊守様に富田さんがいるように気軽に話し合えるご友人はいてもいいのかもしれません」
そう言えば今度は久助が佐吉にニヤリと笑いかける。
「結局萬吉はどう思うんだ?」
「公的な場と私的な場で使い分ければいいのではないでしょうか?そういうのが出来るようになるのも大人への第一歩ですよ」
という萬吉の意見は二人も納得したのかそれ以降言い合う事は無かった。
「さあ着きましたよ。ここが中中村のようですね」
そこからの流れとしては中中村にいる将来の天下人を産む木下家を訪れ勧誘に向かう。ちなみにそれら勧誘は基本的に萬吉が行う事となっている。
「木下さんの家かい?それならあそこの家だよ」
「どうもありがとうございます」
教えられた家に向かう。
「どうやらここに様ですね・・・すいません!木下さんはいますか!」
木下家に呼びかける萬吉。するとその声に反応して人が出てきた。
「はい?どちら様でしょうか?」
それは腕に赤ん坊を抱いた若い女性であった。
「あなたが木下仲さんでよろしいでしょうか?」
「はい・・・そうですけど・・・あなた方は一体・・・」
木下仲。彼女はのちの天下人豊臣秀吉の母親で晩年に天下を統一した息子秀吉の影響で自身も従一位大政所に叙されることとなる人物。
今は普通の主婦をしている仲は知らない人物が自分の名前を知っておりさらに子供を複数連れていることから少しの困惑を起こしていた。
「私は倉田萬吉と申します。すこしお話がありますのでよろしいでしょうか?」
「まあ・・・はい。どうぞ・・・」
怪しみながらも子供を連れていることで変な輩ではないかもしれないとして家に中に上がる許可を出す。
「その赤ちゃんの名前はなんですか?」
金石丸が仲が抱えている赤ん坊について尋ねる。
「この子は智っていって今年生まれたばかりなのよ」
「女の子か・・・妹を思い出します・・・お七・・・お七ー!!」
女の子の赤ちゃんを見てお七を思い出した金石丸は空に向かってお七の名前を叫んだ。
「うお!?びっくりさせんなよ!?なんだよ突然!?」
突然の叫びに久助や仲がびっくりする。
「すいません。この方は妹を溺愛してまして・・・我慢していたのが溢れたんだと思います・・・」
「・・・そ、そうなのね・・・」
「怖えよお前」
そんなこんながありながら家の中へと入った一行。ちなみに護衛は外にて荷車の番をしている。
「それでは回りくどいのもあれですから単刀直入で話します・・・陸奥国の伊達家家臣である安積郡を治める安積紀伊守祐重様があなた方を求めています・・・こちら来ていただくのならお渡しする前金です」
そう言って少なくない金を見せる萬吉。それに対して驚愕する仲。
「ちょ!?ちょっと待ってください!?こんな大金!?どういうことですか!?いったいどういう目的が!?」
驚愕する仲の裏では知らなかった久助も驚愕し咄嗟に手が出そうになっているところを佐吉に止められていた。
「その反応も当然でしょうね。では順を追ってお話いたしましょう」
そうして萬吉は仲に安積紀伊守祐重による直感でこれより生まれて来る男の子が凄い武将となる。だからぜひ安積家に欲しい。という内容を説明した。
「凄い武将・・・ですか?・・・私のこれから生まれて来る子供が?・・・それに直感って?・・・」
とても信じられない様子の仲。しかし目の前には金が積まれており萬吉の話が本当かそれとも騙そうとしているのか分からなかった。悩む仲。そんな時に仲の旦那が帰宅した。
「仲ー?家の前に荷車が止まってたけど、どうかしたのか?」
この人物は木下弥右衛門といい未来において秀吉の父親とされてきた人物。萬吉は祐重から母親の木下仲については教えられたがこの父親については分からないとされ知らない。それはもちろんお七が歴史において確定しておらず不確かなために祐重にそう伝えたから。
「あなた!実はね?」
仲は夫である弥右衛門に事情を説明。弥右衛門も家の中に金が置かれている現場を見て驚愕し話を聞いて混乱している。
「どうなさいますか?来ていただけるのならこの金は差し上げます」
そうして二人の方に金を少し近づける。
「ど、どうする?あなた?」
「どうするって言われても・・・少し妻と相談してもいいでしょうか?」
「ええ、もちろんです。それではその間我々は外にいますので結論が出れば声を掛けてください」
そう言って萬吉は金をしまって子供たちと共に外に出る。
「どうなりますかね?」
「俺だったら隙を見て金を盗んで逃げるけどな」
「それはお前だけだ!」
「萬吉は乗ってくると思うか?」
金石丸が交渉を担当していた萬吉に尋ねた。
「ふむ・・・私なら乗りませんな・・・話が旨すぎます。人攫いの口実と考える方が無難でしょう・・・」
「それじゃ駄目じゃねえか」
「そうです!それでは紀伊守様の命を成せません!」
佐吉がその萬吉のまさかの言葉に焦りの声を出す。しかし"自分なら乗らない"と言った萬吉には焦った様子は見られなかった。
少しして萬吉たちを呼ぶ弥右衛門。
「では、結論は出ましたかな?」
萬吉が弥右衛門・仲に問う。
「はい・・・ぜひお受けしたいと思います・・・」
「よろしくお願いします」
そうして二人は頭を下げて萬吉の誘いに乗った。それに対して断ると思っていた久助が理由を問う。
「なんで受けたんだ?怪しいとか思わねえのか?」
「久助!余計なことを言うな!」
佐吉が慌てて止めに入る。それは"もし心変わりをされたらどうする"という心配から。
「私は織田三郎信秀様の足軽として織田家に仕えておりますが・・・所詮は足軽です。裕福な暮らしが出来ているというわけでもありません・・・それにこの子が産まれさらにお金もかかります・・・子供ももっと欲しいと思っているんです・・・それには今のお金では足らず・・・」
「それにあんな金をチラつかせて子供たちを連れている犯罪者はそうそういないと思ったんです」
こうして木下家は安積家に来ることになりこれにより安積家にのちの安積家四天王木下藤吉郎秀吉が誕生することになる。
・【木下仲】:史実での豊臣秀吉の母親として秀吉を支え晩年には大政所となる。1516年生誕。
・【木下弥右衛門】:史実では豊臣秀吉の父親とされている人物であり不明な点もある人物。ここでは織田家の足軽とした。1513年生誕。
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