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熱田での出会い 

≪天文3年(1534年)-尾張国愛知郡熱田郷-≫


「・・・ここが・・・熱田か・・・」

「・・・こんなに人が・・・」


ここは熱田神宮でも知られる尾張の熱田。自分たちがいた安積郡での街の賑わいとは大違い賑わいを見せる熱田を見て金石丸と佐吉は呆然とする。


「この熱田は東海道と伊勢湾に面している尾張でも有数な湊ですからな。ここは織田三郎信秀様が発展させた街で他にも尾張には津島湊もあり尾張は全国を見ても相当栄えている国と言えるでしょう。金石丸様も将来に向けてよい参考になるでしょうな」

「・・・・」


安積郡しか知らなかった金石丸はその熱田の人が多く賑わう栄えっぷりに圧倒されるもすぐに意識を変える。


「萬吉!少し見て回ってもいいか!」

「少しなら良いですよ。熱田も治安は良い街ですからな。私も仕事がありますから・・・そうですな・・・では少ししたら熱田神宮にて待ち合わせというのはどうでしょうか?」

「わかった!いくぞ佐吉!」

「はい!」


金石丸は佐吉と共に熱田の街に繰り出した。


「おお!なんだこれは!」

「金石丸様!お待ちください!」

「佐吉!次はこっちだ!」

「ちょっ!?金石丸様!?」


金石丸は己の興味のままに全速力で街中を駆け回る。それに振り回されながらもなんとかついて行く佐吉。ちなみに金石丸の全力は武士である大人と同等程度はあるが上手く身体を操作して誰にもぶつかることなく移動している。


すると金石丸は1つの店の前で止まった。金石丸の視線に止まったのは櫛だった。それも赤漆塗(あかうるしぬ)り櫛といい赤い漆を使用して美しくきれいに仕上げられている上流階級の女性たちに人気のある大変()()な櫛。


「店主!これはいくらだ!」

「これかい?これは結構するぜ?・・・買えんのかい?」


店主は相手が子供という事でお金を持っているか疑問の声を上げる。


「佐吉、これで足りるか?出来れば二つ買いたいのだが?」


金石丸は佐吉に確認する。ちなみに金石丸は祐重からお小遣いをもらっておりそれを全額持ってきていた。


「十分足りますね。しかしこんなに持ってきていたんですか?」

「ああ。せっかくの旅だからな。なにか買えればと思ってたんだが・・・店主!この二つを買うぞ!」

「おう!まいどあり!」


こうして金石丸は母と妹のために赤漆塗り櫛を購入した。


「菊乃様もお七様もお喜びになるでしょう」

「ああ・・・そうだといいんだけどな・・・」


赤漆塗り櫛を目にした時から母親と妹に買って帰りたいと考えた金石丸。


「ですが、それならば紀伊守さまの物も買う必要があるのでは?」

「う〜ん・・・父上へのお土産か・・・なにがいいか・・・」


そんな風に金石丸が悩みながら歩を進めていると二人の後ろから不敵に笑う子供が近寄っていく。


「(へっ!坊ちゃんかよ!ちょろいぜ!)」


その子供は歳の頃は満八歳の金石丸と同じか少し上ぐらい。少年が狙うは金石丸と佐吉のお金。


まずは手慣れた手つきで佐吉の懐からお金を抜き取ると続けざまに金石丸のお金と先ほど買った櫛を抜き取ろうとした。


ガシ!


「それを渡すわけにはいかない」

「なっ!?」


盗みの腕には自信があった少年は同じぐらいの子供に見抜かれ腕を掴まれるとは思いもしておらず驚いだがすぐさま反撃に移す。


「くそっ!?離しやがれ!?」


少年は掴まれていない片腕で金石丸の顔面に拳を振るう。金石丸は鋭いその拳を避けずに額で受け止める。


ゴン!


「くっ!?」


金石丸の額を殴ってしまい痛がる少年。その隙に金石丸は背負い投げの要領で少年を投げ飛ばす。


ドン!


「がはっ!?」


投げ飛ばされ背中を地面に強く打ちつけた少年。その一連の騒ぎに周りがざわざわする。


「金石丸様!?大丈夫でございますか!?」


佐吉がすぐさま金石丸を心配して話しかける。金石丸は少年の懐に手を入れて袋を複数取り出す。


「あ!?これは僕の!?」


金石丸が少年の懐から取り出した財布の中には先ほど盗られた佐吉の財布もあった。


「お前・・・名前は?」

「はあ・・・はあ・・・チッ・・・・・()()()()だ・・・」

「そうか・・・久助、()()()()になれ」

「「は?」」


佐吉も久助の驚きの声が被る。


これがのちの安積家の四天王の1人滝川一益との出会いだった。

/////

仕事の終わった倉田萬吉は約束通り熱田神宮にて金石丸たちを待っていた。


「少々遅くはないですか?」

「うむ・・・やはり熱田であろうとも子供を2人で歩かせるのは不味かったか・・・」

「探しに参りますか?」


萬吉が護衛と共に金石丸たちについて相談していたそんな時に声が聞こえてきた。


「離せよ!?もう金は返しただろ!?」

「返せば良いと言う問題じゃない!盗みを働いた以上は罰を受けるのは当然のことだ!」


佐吉が久助に怒鳴りつける。久助は金石丸に両手を捕まれ逃げれない状態。


「ぐっ!?こいつ!?二つも年下のくせしやがって!?馬鹿力が!?」


なんとか抜け出そうと足掻(あが)くも金石丸に力でねじ伏せられて逃げられない。


「罰を受けさせるんじゃない。お前は俺の仲間になるんだ」

「ふざけんな!?勝手に決めてんじゃねぇ!?俺は断っただろうが!?」

「そうですよ!こんな盗人を配下になど!お考え直しください!」

「配下じゃなくて仲間だけどな」


そんな声が段々と近づいてくる萬吉。


「これは・・・なにがあったんだ?」


金石丸は萬吉と合流し事情を説明。


「ほう?だからこの少年を仲間にしたいと?」

「ああ。十歳にしては攻撃が鋭かった」

「金石丸様が言う言葉ではない気がしますが?」


佐吉が当然の言葉をつぶやく。しかしその佐吉の言葉は無視して金石丸は言葉を続ける。


「強さはあるし才能もあると思う。それに気配の消し方も上手かった。才能がある気がする」

「ふむ・・・そう言われている本人はどう思っているんだ?」


萬吉は久助に話を振る。久助は先ほどと違い暴れずに大人しくなる。


「お前おかしいんじゃねえの?俺より年下で俺より強ええのもおかしいし、盗人を仲間にしようとするのもおかしいだろ?」

「それだけの価値がお前にあると思ったからな」

「いやさっき会ったばかりだろ?俺の事を何も知らねえじゃねえか?」

「これから知ればいいだろう?お前も力を持て余してるんだったらこっちに来い。盗みを働くよりも楽しいぞ?俺たちはいずれ日の本一の戦国大名となる」

「日の本一の戦国大名?安積家なんて家は聞いたことねえぞ?そんな聞いたこともねえ家が日の本一の戦国大名とか笑わせんな。そんなのは無理に決まってんだろ?」


久助は金石丸のその言葉に鼻で笑い不可能と述べる。


「お前が来れば可能だ」

「だからなんで俺をそんなに・・・わけわかんねえ奴だな・・・でもいいぜ。どうせ俺は暇だしよ」


こうして久助は金石丸の仲間となった。


「盛り上がってるところ悪いがもちろんだが久助君の親御さんの許可が必要だぞ?」


萬吉が親の許可問題を告げると久助がその言葉を否定する。


「問題ねえよ。俺は家を追い出されてここの親戚の家に世話になってただけだし。喜ぶんじゃねえの?」


どうやら久助は滝川の家を相当悪さして追い出されたらしい。それを佐吉は呆れた表情で問いかける。


「一体何をやったんだ?」

「あ?いっぱいやったぜ?盗みはもちろん借金をするぐらい博打もしたし喧嘩も毎日のようにしたな。俺の親は六角に仕えてんだけど結構厳格な家だからさ。こんな俺の存在を許せねえんだよ」

「・・・まずはお前の教育から始めるべきだな・・・」


佐吉は久助の思っていたよりもな性格に安積家の家臣となるならば正さなければと考えた。


そうして一応久助を預かっている親戚の家に行き今回の経緯を話し久助を預かりたい旨を伝えると特に引き留められることもなく言葉も少なく話は終わりとなった。


「予想外の子供が1人増えましたがそれではこれより進みましょうか。今回の目的である愛知郡中村郷へ」


こうして一行は滝川久助を1人加え目的である尾張国愛知郡中村郷中中村にいる史実でのちの天下人を産む木下家の勧誘をしに向かう。

・【滝川久助】:史実では織田家に仕え一軍を任されるほどの名将である滝川一益。今は悪さ三昧で親に追放された悪ガキ。1525年生誕。

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