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尾張へ  

≪天文3年(1534年)-陸奥国安積郡郡山城(こおりやまじょう)-≫


それは昼間。祐重が家臣と話をしていた時に黒蛇衆がやってきた。祐重は家臣に少しの休憩をいいつけ家臣たちを追い出した。


「紀伊守様。ご報告いたします」

「どうであった?上手くいったか?」

「はっ。任務成功いたしました。伊達晴宗は今回の事により父親稙宗に対して怒り心頭です。現在は家臣が必死に宥めていますがいつ爆発してもおかしくないかと」

「おお!まさかそんなに上手くいくとは!」


祐重と話しているのは元月影村の村長であり月影戸丸の父親で黒蛇衆をまとめる頭領・月影飛門(とびかど)。飛門が祐重に報告したのはお七が提案した伊達稙宗・伊達晴宗の親子の仲に不和をもたらすための策である伊達晴宗暗殺未遂。どうやら作戦は上手くいたようだ。


「緊張したであろう?よく成功させたな?」


元は気配の消し方や身体能力が高いだけのただの農民。忍びの訓練などは祐重が召し抱えてから行われたこと。いくら一年間の鍛錬期間があったとはいえ見つかれば殺されるような任務。元農民が緊張しないわけがない。


「はっ・・・終始緊張で汗が止まず・・・正直成功したのは偶然が重なった奇跡といってもよいかもしれません・・・同じことをもう一度せよと言われても出来るかどうか・・・」

「よくやってくれた。成功の祝いとして禄を多く弾むこととしよう」


祐重がそう言えば驚きの表情となる飛門。


「なんと!ただでさえ頂いているというのに!よろしいのですか?」

「かまわん。今後はお主たち黒蛇衆には山ほど活躍をしてもらわなくてはならんのだ。これぐらい安い物だろう」

「ははぁ!ありがとうございまする!」


こうして着々とお七の思惑通りに事は進んでいく。

/////

その日祐重に金石丸は呼び出されていた。


「また父上から呼び出しだ」

「今度はなんでしょうね?」

「前は私が小姓になったときですよね?」


金石丸の周りには金石丸の傅役である大槻貞光と小姓の大槻佐吉が共に祐重の元に向かっていた。


「最近は勉学にも集中して励んでいるつもりだが」

「褒められるのでは?」

「ただ褒めるだけで金石丸様を呼び出したりせんだろう。なにか言うべきことがあるから呼び出されておるのだ」

「まあ、父上に会えば分かる事か」


そんな話をしていると一行は祐重のいる部屋へとついた。


「失礼いたします。金石丸様をお連れいたしました」

「うむ、入れ」


その声を受け貞光が戸を開ける。部屋の中には安積家の御用商人の倉田萬吉がそこにいた。それに不思議に思うも金石丸たちは中へと入る。


「父上?俺は今日はどういった用件で呼び出されたのでしょうか?」

「うむ・・・今から金石丸には()()に行ってもらう・・・」

「尾張・・・ですか?」


突然尾張に行けと言われて理由が分からない金石丸は首を傾げるばかり。それに聞き返したのは貞光だった。


「紀伊守様。金石丸様が尾張に向かう理由をお聞かせください。何故金石丸様は尾張へ?」

「うむ・・・そのだな・・・」


貞光の当然の質問に少し動揺する祐重。それもそのはずで祐重がこう言ったのはお七の提案であるゆえ。お七が金石丸を尾張に向かわせる理由として二つ。

1つが尾張国愛知郡中村郷中中村にいる()()()()()()を生まれて来る前から仲間にしてしまおうという事。もちろんそれは()()()()の事である。産まれてくる場所が分かっているお七は金に物を言わせてなんとしてでも家臣にしようと考えた。

2つが金石丸に安積郡という小さい場所だけでなくもっと広い世界を体験することで少しでもなにかの良いキッカケになってくれればというお七なりの金石丸の成長を促すための事だった。


祐重はお七の提案という事を隠して自身の直感であるとしてなんとか説明した。


「なるほど・・・直感、でございますか・・・」


なにやら疑っている貞光。祐重が直感に優れてるのは分かっているがそれはこんな神じみたことまで出来るものではなかった。そうして疑いの目を向けてしまう貞光。


「ごほん・・・目的の場所までや勧誘も含めて萬吉がやってくれる。金石丸はついて行くだけでよい・・・」

「かしこまりました。行ってまいります」


金石丸は今回の件を聞いてはいない。だが、このようなことはお七の提案だろうというのはすぐに理解した。そんなお七を溺愛している金石丸はお七の言う事であることを理解して何か聞くこともなく二つ返事で引き受けた。そうして今から出発しようと部屋を出てしまった金石丸。


「金石丸様!?」

「あやつ・・・もう出ていきおった・・・今すぐに行くわけがないというのに・・・」

「いいじゃないですか。それでは私めもこれで。出発は数日後という事で」

「ああ、よろしく頼むぞ萬吉」


そうして佐吉は金石丸の後を追いかけ萬吉も用が済んだため部屋を後にして残ったのは貞光と祐重。


「・・・なんだ貞光・・・」

「・・・いえ・・・なんでもありませぬ・・・この貞光、紀伊守様を信じております故に・・・」


それだけ言って貞光は去って行った。貞光は考えても分からない事で主君が教えてくれないのなら黙って信じていようと決めた。

/////

それから数日後となり郡山城(こおりやまじょう)の前で出発する金石丸を見送るために家族はもちろん金石丸私兵団たちもやって来ていた。


「いいですか?金石丸?道中は大変危険です。あなたの強さは伝え聞いていますが萬吉さんや護衛の方のいうことに従い決して無茶をしてはなりませんよ?分かりましたか?」

「そんな何度も言わなくても分かってるよ」


金石丸の旅路に心配の声を上げる菊乃。ちなみに菊乃は祐重によって事後報告で知ったために怒りに怒った。だが最後は説得を受け入れこうして心配しながらも金石丸を見送ろうとしている。

その後は金石丸私兵団の面々も次々に声をかけて最後にはお七が。


「・・・お兄ちゃん・・・」


お七が心配そうにして金石丸に抱きついた。


「お七?」


金石丸がそんなお七に疑問の声を上げる。今回の提案はお七からのものと認識していた金石丸はその当の本人の心配そうな様子を疑問視。


「(なんで忘れてたんだろう・・・この時代の治安の悪さを・・・山賊や盗賊が当たり前にいる時代なのに・・・ちゃんと認識しないと・・・この世界はリアルの世界なんだ・・・)」


お七の様子でなんとなく伝わったのか金石丸はお七を強く抱きしめた。


「大丈夫だお七!お兄ちゃんは強いぞ!でも、笑顔のお七を見ればもっと強くなるんだがな?」


その声を聞いてお七は考えるのをやめて笑った。


「もう・・・お兄ちゃん!行ってらっしゃい!」

「ああ!行ってくる!」


こうして金石丸と小姓の佐吉は萬吉と合流すべく歩き出す。

/////

金石丸たちが出発してから約三カ月ほど。金石丸たちは萬吉の荷車に乗って移動している。


「・・・つまらん・・・」

「平和でいいではないですか?」


金石丸は予想していたような山賊や盗賊が襲ってくるという展開は今現在において訪れる事は無かった。


「はっはっは!金石丸様は豪胆でいらっしゃいますなー!ですが残念ながら我々が進んでいる道は各大名方が治安維持に力を入れておられる安全な道でございますからな!山賊などとはそうそう出会わんでしょうな!」

「治安維持か・・・そういうのも大名の仕事なんだな・・・」

「そうでございますよ!金石丸様も安積家の次期当主として民が平和に暮らせる街造りをしてもらわなくては!」

「・・・そういうのは出来るやつに任せよう・・・(主にお七とか)」


難しいことはお七に任せようと考える金石丸。金石丸はお七を溺愛しているが賢い事も理解しているためになにもさせずに囲い込むことはしない。金石丸が一番望むのはお七の幸せである。


「では今日はこのあたりにしますかな。明日にでも尾張には着くでしょう」

「よし、それじゃあ佐吉。やるぞ」

「わかりました」


刀を差している金石丸は暇な道中には佐吉との鍛錬を繰り返していた。護衛もその場にはいるのだが毎日のように行われる鍛錬にさすがに嫌気がさして護衛は周りの観察を理由に断る選択をした。故に金石丸の鍛錬の餌食になったのは佐吉だった。まあ、佐吉は慣れたものではあるが。


翌日となり一行はとうとう目的となる尾張国愛知郡に足を踏み入れた。

・【月影飛門】:月影戸丸と瑠衣の父親で元月影村の村長だった人物で現在は黒蛇衆の頭領。1502年生誕。

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