一年での変化
兵数の計算が難しい。完全に適当です。
≪天文3年(1534年)-陸奥国安積郡郡山城-≫
お七が転生者と明かし忍びの才のある村を召し抱えた安積家。それから一年が経過した。この一年はお七のもと安積家は伊達氏にバレないように秘密裏に動いてきた。
・1つ目は伊達家に不和をもたらした。
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それは祐重とお七の2人での会議中。
「伊達親子の仲はどうなのでしょうか?」
「決して悪いというわけでもないが良好でも無いだろう」
「やはり・・・歴史においても伊達親子は六年間も戦争を繰り広げております。で、あればそこを突きましょう」
「どのようにする?」
「まず、今回召し抱えた元月影村の住人たちに伊達郡の柔折西山城のお膝元にて噂を流させるのです。"伊達稙宗と伊達晴宗の親子はお互いを煙たがっている"と。もしかすれば上手くお互いを疑心暗鬼になってくれるかもしれません」
そのお七の提案に祐重は渋い顔をする。
「そう上手く行くものか?」
「上手くいかなくても良いのです。我々が行ったとバレなければ計略とバレようが構いません。その噂を流すという行為が大事なのですから」
「どういう事だ?」
理解できない祐重はお七に問う。
「その噂を流した後にしばらくしてから伊達晴宗に暗殺を仕掛けます」
「暗殺?」
「しかし未遂です。決して殺しません。晴宗に"殺されそうになった"と理解させることが肝心なのです。そうすれば己を殺そうとした人物は誰かと考えるはず。その時にあの噂が活きてきます」
「ふむ・・・しかし一度計略と思われた時にはそれ自体も親子の仲を割く計略のうちと判断するかもしれんぞ?」
祐重はお七を試すような表情でそう問うた。
「経験豊富な伊達稙宗ならそれも可能かもしれませんが、まだ元服したての経験が不足している伊達晴宗ならば父親への疑いを強めてくれる可能性の方が高いと私は思っております」
お七は自身の考えを述べた。あとは祐重の判断待ち。
「・・・いくぶん穴のある戦略ではあるが危険を犯さずして戦国大名への道は開けんか・・・」
こうしてお七の案は採用された。その際に元月影村の者たちをお七が黒蛇衆と名付けた。
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・2つ目は高玉鉱山の採掘。
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「高玉の山を探って欲しい」
それは祐重が共に酒を飲みながら目の前の男に頼んでいる所。
「高玉の山を?俺にそれを言うってこたぁ・・・あんのか?」
彼は富田新左衛門。安積家の山師であり祐重の幼少の頃からの友人だった。
「あると思われる、だな。確ではない。故にそれを秘密裏に探ってほしい」
「へぇ〜・・・秘密裏にねぇ〜・・・動くってことか?」
祐重を幼少より知っている富田新左衛門。伊達家に忠誠を誓っていないことなどは聞かなくてもわかっていた。
「何に対して言っているのかは分からないが細心の注意で頼むぞ。その分の禄は弾む」
「聞きたいこともあるが・・・いいぜ。お前がそこまで言うんだったらその話、受けてやるよ」
そうして富田新左衛門は祐重の命により高玉山を調べたところ確かに金銀各種鉱石が埋まっていると調べが付き祐重はそのまま富田新左衛門に採掘を依頼した。伊達家にバレないように少量ずつではあるが採掘をし安積家は財政的に潤う事になった。
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・3つ目は家臣の強化を行った。
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「ハア・・・ハア・・・」
「ゼエ・・・ゼエ・・・」
お七は伊達家に対抗するためにも家臣の強化は重要という事で祐重に家臣たちに金石丸と同様の鍛錬を提案した。安積家を支える家臣には大槻家の他にも複数存在し安積家の兵数は農民兵を省けば約120人前後。それら全員が金石丸と同様に山を登り下りを倒れるまで繰り返す。
「頑張れ!おじさんたち!」
「もっと走れるだろ!大人なんだから!」
「まだまだ始まったばかりですよ!」
「あの!怪我には気を付けてください!」
鎧を着た状態で子供たちに応援されながら山を登り下り。そして倒れた者から少しの休憩後に石を持たせて再び山の登り下りを再開。その後は岩壁を登ったり剣や槍の素振りを延々と。その地獄のような鍛錬に家臣の中には逃げ出そうと考えている者たちもいたが禄が格段に良いという事と八歳と子供の金石丸が共に訓練を受けているのをみて大人として武士としての矜持から途中で逃げ出すということを拒否。脱落者はいなかった。
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・4つ目は火縄銃の購入と兵器開発。
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「火縄銃の購入でございますか?」
「ああ、そうだ。出来るか?」
祐重が火縄銃の購入を依頼しているのは安積家の御用商人である倉田萬吉。
「まあ・・・伝手はございますが・・・今までにないご依頼でございますね?何かおありでしょうか?」
倉田萬吉が突然の火縄銃の購入に不審感を覚える。だがその質問を予想していた祐重。言い訳も考えていた。
「なに息子に話したところ興味を抱いてな。どうだ?買ってきてくれるか?」
「それは問題ございませんが・・・少なくない金額が必要でございますよ?」
「分かっておる。これは前払いだ。おい!」
その祐重の合図で部屋の中に人が入ってきて金銀を倉田萬吉に。
「これは・・・・・お聞きしない方が良いのでしょうか?」
「お主を信頼していないわけではないがな・・・もちろんだが持ってきたものの購入費用は別だ。どうだ?やってくれるか?」
「・・・かしこまりました・・・紀伊守様に拾われたこの命・・・あなた様のために・・・」
そう言って倉田萬吉は部屋を後にする。すると横の襖をあけてお七が入って来る。
「あの商人は信用できるんですか?我が家になにかあると感づかれましたよ?」
「問題ない。あいつは俺が子供の頃に命を助けた時から俺を慕っている。俺を裏切る事は無いだろう・・・あいつが裏切るのなら俺は戦国大名の器ではなかったという事であろうしな」
「お父様がそこまでおっしゃるのであればいいでしょう」
そうして1カ月強ほどが経過して倉田萬吉のもとに届いた火縄銃を事前に説明していた鍛冶師たちに研究させた。そしてお七の予想通り現在伝わっている火縄銃は明国製であり南蛮製ではなかった。1543年に種子島で起こる鉄砲伝来にて南蛮製の火縄銃が日本にも出回るためにこの時期に無いだろうことは予想していたお七。
しかしお七の頭の中の知識には火縄銃の設計図も収められている。その設計図や他の大砲の設計図も一緒に鍛冶師に渡し研究をさせた。その際に黒色火薬の硝石を手に入れる硝石丘法を実施するのも忘れない。もちろんこの硝石丘法は高玉鉱山と並び安積家の秘密事項のためにごく限られた人物しかその場所はおろか行われている事自体も知り得ない。
そしてこれらすべてにお七が関わっているのだがそれを知るのは祐重と金石丸のみ。他にもお七の知識によって出来ることは多く存在するがこれ以上やり過ぎれば伊達家にバレる危険性が高まる。その為にこれ以上は独立がなった時とした。
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カン!カン!
それは金石丸と貞光が木刀で打ち合っている音。2人は毎日のように打ち合っておりこの四年の戦績は金石丸の全敗。いかに異常な鍛錬をして日々強くなっていようとも相手は安積家でも有数な剣術槍術の使い手であり、さらに言えば四年もの間金石丸の鍛錬について来ていた大槻貞光。貞光もまた日々成長していた。
「金石丸!そこだ!いけー!」
「もうちょっとですよ!金石丸様!」
「貞光様とはいえ俺以外の奴に負けんじゃねえ!」
「あわわ!?あわわ!?」
「おお!ああ!?惜しい!?」
「頑張ってー!二人ともー!」
「・・・僕はどっちを応援したらいいんだろう・・・」
いつもの金石丸私兵団のメンバーに金石丸の小姓にして貞光の息子である佐吉も二人の勝負を見学していた。佐吉はどうやら父親にも金石丸にもどちらにも負けてほしくなくどっちを応援したらいいか分からないらしい。
「ハア・・・ハア・・・やりますな・・・金石丸様・・・ハア・・・ハア・・・」
「ハア・・・ハア・・・今度こそ・・・勝たせてもらう・・・ハア・・・ハア・・・」
先程まで行われていた激しい攻防から一転して両者睨み合いが続く。
「・・・この一撃で決まるね・・・」
赤澤一朗太が言った通り両者共に既に数時間もの間戦っており体力も残りわずか。二人ともが最後の一撃を入れるために隙を伺っていた。
このままでは埒が明かないとふんだ貞光。わざと隙を見せることで金石丸を誘い込む。
「!!ハア!!」
ダッ!
誘い込まれたと気付かずに金石丸は貞光の懐に飛び込む。
「(かかった!)」
貞光は獲物が罠にかかったように待ち構えていた貞光は返し技で終わらせようとする。振り上げられる木刀。斬るは金石丸の胴体。それに対して完全に意表を突かれた金石丸。
「(まだだ!)」
金石丸は貞光の予想を上回る驚異の反射神経にて貞光の木刀を身体を捻って躱した。
「な!?」
完璧に決まったと思った返し技を躱されたことに驚愕する貞光。
「はあ!!」
ダン!
「がはっ!?」
貞光の罠を掻い潜ることに成功した金石丸。隙だらけの貞光を木刀で斬った。
こうして安積金石丸vs大槻貞光の仕合は初めて金石丸の勝利で幕を閉じた。
「凄いな!金石丸!貞光様に勝つなんて!」
「さすが金石丸様です!一層尊敬いたします!」
「へ!それぐらいしてもらわねえとな!今度は俺がお前に勝ってやる!」
「ほっ・・・とりあえず怪我がなさそうでよかった・・・」
「すごいなー・・・子供が貞光様に勝っちゃうなんて・・・」
「金石丸様は普通の子供じゃないからじゃない?」
金石丸は満8歳という年齢には似つかわしくない異常な強さを手に入れた。
・【富田新左衛門】:安積家の山師。祐重とは友人同士。
・【倉田萬吉】:安積家の御用商人。幼少時に祐重に助けられて祐重を慕っている。
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