忍びの村?
≪天文2年(1533年)-陸奥国安積郡郡山城-≫
お七が祐重に未来の知識があると話した次の日。金石丸は父親祐重から呼び出されていた。
「父上から呼び出しか・・・貞光はなんだと思う?」
「なんでしょうな?もっと勉学に精を入れろとかですかな?」
「うっ」
金石丸は最近になって傅役の大槻貞光からそれまで許されてきた勉強についても教わるようになってきた。しかし身体を動かす方が好きな金石丸はその勉強の時間が苦手であった。
「お七様を守るためにも賢くなる事は大事ですよ?」
「む〜・・・それは分かっているんだが・・・」
そんな話をしながら歩いていると部屋に到着。貞光が部屋の中へ声をかける。
「金石丸様をお連れいたしました」
「そうか。入れ」
促され部屋の中へと入る。すると中には祐重が座っていた。
「父上?お呼びと伺いましたが?」
「うむ、そろそろ金石丸に小姓をつけるべきと判断した」
「小姓でございますか?」
とりあえず叱られるということではなさそうで安心する金石丸。
「貞光。お主のところに手頃な息子がいたな。どうだ?」
「はは!ありがたき幸せにございます!」
大槻貞光が恭しく首を垂れる。こうして金石丸に小姓がついた。
「では、さっそく呼んできてくれるか?その間に金石丸と話すことがあるのでな」
「かしこまりました。それでは急いで呼んでまいります」
貞光が息子を呼ぶために部屋から出ると祐重は金石丸に昨晩にお七と決めた今後の安積家について話す。
「金石丸、これから話すことは他言無用ぞ・・・事はお七の事だ」
「お七がどうかしたのですか!?」
祐重からお七の事と聞くと大声で声を荒げる金石丸。
「お前は・・・他言無用の意味も知らんのか・・・」
金石丸の突然の大声に呆れる祐重。すると横の襖が開きお七が入ってくる。
「お兄ちゃん落ち着いて。私の身に何かあったわけじゃないから」
「お七!?」
お七に駆け寄る金石丸。そして身体を見て怪我など変わったことが無いかを調べる。祐重の言葉によりまったく話を聞いていない金石丸。すると、お七が金石丸のおでこを叩く。
ペシ
「まだ知られるわけには行かない事だから、そのために貞光さんを離れさせたんだよ?だから落ち着いて?」
「こいつはお前のことになると面倒くさくなる。あまり時間もないだろうから手短に言うぞ」
そこからは祐重が簡潔にお七の事を説明した。
「・・・未来の知識・・・」
「この事を金石丸に話したのはお七がそれを求めたからだ」
祐重としてはお七の未来知識は無闇矢鱈に話していいものではない。故に話しても意味がないと判断して金石丸にも秘密にするべきと意見したがそれをお七は拒否した。
「何故か分からないけど・・・私とお兄ちゃんは一心同体・・・そんな気がするの・・・だからお兄ちゃんには知っておいて欲しかった・・・」
祐重は利害が一致したために受け入れた。だが、金石丸も同様に受け入れるかは分からない。未来の知識を持っているなど人によっては気味悪がる対象でしかないかもしれない。そう考えてお七は溺愛してくれる金石丸に拒絶されたらどうしようと恐怖心を抱いていた。
金石丸は口を開く。
「・・・よく分からないが・・・つまりお七が可愛いという事でいいですか?・・・」
「は?」
「え?」
その返答には2人とも理解が出来ず目が点となる。
「お前は・・・どこからどうなったらそうなる?ちゃんと理解したのか?」
「はい。お七は未来にて死んでこの時代にやってきた・・・未来でのお七は歴史が好きでこの時代の知識を豊富に持っている・・・と、いう事ですよね?」
言われたことはちゃんと理解している金石丸。しかしそれを理解してなお金石丸の結論はお七は可愛いに帰結する。
「くすっ・・・もう・・・少しでも心配した私が馬鹿みたい・・・」
お七はそのいつも通りな兄に安堵した。そこからは今後の安積家の方針について話す。
「金石丸・・・我ら安積家はのちに伊達家から独立するために動く・・・だが、お前が気にするべきは強くなることだ。それは個人としての強さのみならず兵を動かす強さに当主としての強さ・・・お前は日の本一の戦国大名とならねばならん・・・」
「だから勉強も頑張ってね!お兄ちゃん!応援してる!」
「ああ!お兄ちゃん頑張るよ!お七!」
勉強が苦手な金石丸。しかし一言お七が応援すればやる気を出す。その様子に息子を呆れ心配する祐重だった。
すると、金石丸がこちらにやってくる廊下の方を見る。
「足音がこっちに近づいてきます・・・もしかしたら貞光かも・・・」
そう言った数秒後には祐重やお七でも足音が聞き取れるように。
「たしかに・・・良く聞こえたものだな・・・」
感心するだけの祐重。しかしお七は関心と同時に真っ先に欲しかったあれの可能性に至る。
「(あとでしっかりと聞いておかないと・・・これがお兄ちゃんのポテンシャルなのか・・・もし忍びに教わったんだったら・・・)」
お七は欲していた忍びの可能性に内心で期待する。
そうしていると貞光が息子を連れて戻ってきた。
「大槻貞光が嫡男大槻佐吉でございます。金石丸様の小姓に任じていただいたこと誠に嬉しく思っております」
大槻佐吉と名乗った少年は年齢を満12歳。見た目的にも武闘派な父貞光とは正反対の印象を受ける。
「金石丸の小姓として金石丸と同じ鍛錬に勉学に励んでもらう。辛いかもしれんが小姓として金石丸にしかとついて行くように」
「かしこまりました」
こうして身体を動かすよりも本を読んでいたい佐吉はこの日より地獄の日々を送る。
/////
翌日となり金石丸はお七の言葉もありそれまでよりも意欲的に勉学に励むようになった。そうしていつも通りに山にて金石丸私兵団のみんなと稽古。この日にはあの時にはいなかった2人がいる。
「ヒィ・・・ヒィ・・・ヒィ・・・」
満年齢12歳と子供たちの中では赤澤一郎太と共に最年長の大槻佐吉。しかし普段よりの鍛え方が違うのか女の子の青山みやよりも遅くみんなに見守られている。
「佐吉!もう少しだ!頑張れ!」
「佐吉さん!もう少しです!」
「貞光様の子供とは思えねぇ軟弱さだな」
「佐吉様!頑張って!」
それぞれ子供たちが佐吉を応援する。それを少し離れたところで見ている金石丸と貞光。そしてお七と2人の母親である安積菊乃。
「はあ・・・我が息子ながら情けない・・・本人がやりたがらないから鍛錬は強制してこなかったが・・・甘すぎたか・・・」
「だが、根性はあるぞ?座り込んだりしていないしな」
「佐吉さ〜ん!がんばれ〜!」
「もう何十往復しているのかしら・・・相変わらず凄い鍛錬ね・・・」
お七と菊乃がいる理由。それはお七が行きたがったために母:菊乃と共にやってきた。お七はもちろん昨日の気になった件を聞くために。
「ねえねえ!お母様!お兄ちゃんすごいんだよ!昨日ね!離れているのにお父様でも聞こえなかった足音を聞いたんだよ!」
「あら?そうなの?そういう鍛錬もしているのかしら?」
お七が子供っぽく母:菊乃に語る。そして菊乃がお七の誘導通りに金石丸に質問をした。
「ああ、それはあの子たちだよ」
そうして赤澤たちと共に佐吉を応援している2人の男の子と女の子を指差した。
「佐吉さん!あと一歩!」
「足が動かなくなって自然と倒れるまでよ!」
貞光以外の2人は金石丸の指差す2人に視線を移す。
「あの子たちは森の奥の月影村の子たちなんだけど近くには猪とか熊とか蛇とか獰猛で危険なヤツらが多いらしくて自然と音に敏感になるらしいんだ。彼らと遊んでたら自然とこうなるよ。俺が気付かないうちに背後にいたりするし」
金石丸の話を聞いている限りは忍びの類ではなく危険から身を守るためにそうならざる負えなかったといった感じだろう。だが、それを聞いたお七はそんな彼らに惹かれた。
「(忍びの役割は情報収集。敵国の情報を拾い集め報告するのが役割。それには人一倍の体力や身体能力はもちろん耳が重要になってくる。耳が良ければ多少遠くからでも情報を拾えるし近づいてくる足音も逃さない・・・月影村の人たちは適してるかもしれないわね・・・)」
お七は月影村の人たちが忍び働きに向いていると判断した。その日の夜に祐重に報告。彼らを忍びとして召し抱えるようにと。最初は渋っていた祐重。理由としては召し抱えるにはお金がかかりそんなお金は安積家には無いというもの。それはお七の知識にある高玉鉱山の採掘を提案して解決する。
高玉鉱山は史実では天正元年(1573年)に蘆名盛興の手によって採掘され約400年後の昭和51年(1976年)にまで採掘され続けた日本三大金山の1つ。
この鉱山があるためにお七はお金に困る事は無いと分かっていた。後はいかにして主君の伊達家にバレないように秘密裏に採掘するかだがそれは祐重の手腕に尽きる。
/////
数日後になり金石丸がいつも通り山に向かっていると月影村にいるために滅多に町には来れない仲間を発見。
「戸丸!瑠璃!2人がどうしてここに?」
それは数日前の月影村の男の子と女の子だった。
「いやぁ・・・なんか・・おっ父たちが急に町に住むって言いだして・・・」
それは月影村の村長の息子の月影戸丸(満10歳)。足の速さや気配の察知や消失などは金石丸以上。金石丸私兵団の一員。
「村の人もみんなでだよ?びっくりだよ・・・なんでって聞いても教えてくれないし・・・」
戸丸の妹の月影瑠璃(満9歳)。言葉が上手く村人の秘密を握っていたりする。金石丸私兵団の一員。
こうして着々と安積家の伊達家独立準備は整えられようとしている。
・【大槻佐吉】:大槻貞光の息子。武闘派な貞光とは正反対の性格。1522年生誕。
・【月影戸丸】:月影村の村長の息子。忍びの才を買われて村ごと町に引っ越してきた。1524年生誕。
・【月影瑠璃】:戸丸の妹。身体能力や気配関係には戸丸には劣るものの子供ながら言葉が上手く相手の秘密を聞き出す術を持っている。1525年生誕。
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