エピローグ
――クリスマス。
それは男女が仲睦まじく過ごすリア充専用のイベント日である。
今までの人生ではクリスマスという行事に全然興味がなかったのだが、今年からは違う。俺の隣には愛する彼女がいるのだから。
「……」
愛する彼女がいるはずなのに、どうしてこうなってしまったのだろう。
本来なら今日は愛する彼女であり、初恋の幼なじみでもある宵闇月姫と家でまったり過ごすはずだった。両親がいないこともあり、大人の階段を上るかもしれないとか考えていたのだ。
甘酸っぱい夜になると思っていた。平和で落ち着いた聖夜に。
しかし、目の前に広がっているのは予想とは甘い光景とは全く異なる光景であった。
「いつもいつも邪魔しないでよ! 負けを認めたでしょ!」
気合いの入った服を纏った月姫が吠える。
「別にいいじゃん。一度失恋したら終わりとか言ってないし。大体、そっちは最初からアドバンテージあったんだからハンデ戦みたいなものでしょ」
悪びれる様子もなく風間が答える。
「その通りだ。簡単に諦めきれるようなものではないからね。それに、今日の僕等はしっかりと招待されているんだよ」
不知火は俺の隣にいる彩音に視線を向けた。
「……先輩に同意。クリスマスくらい休戦。ついでに言えば花音は略奪愛も全然アリのタイプ」
花音が付け加える。
どうしてこうなってしまったのか。俺はその答えを聞くためにこいつ等をわざわざ我が家に招いた愚妹を詰めた。
「えっ、そりゃ現役の姫と仲良くするためでしょ」
「仲良くって――」
おまえはもう姫になったから満足しただろ。
「冗談言わないで。あたしがこの順位で満足できるはずないじゃん。だって今の順位って5位だよ?」
「……はぁ?」
「姫になってまだ日は浅いけど、上位の姫の人気ぶりを見て思ったわ。もっと上を目指そうって。あたしはもっと上を目指せる女だって。先輩達も花音もそう言ってくれたし、手伝ってくれるって」
おいおい、何か言い出したぞ。
「だから目指すのよ、最高の姫を。1位を目指すの!」
「……」
「そのためには現役の姫と仲良くする必要があるわ」
「だからって――」
「隙があったら蹴落とさないとダメでしょ。男と仲良くしてるのは汚点になるからさ。おまけにこの連中が狙ってる兄貴は彼女持ちだよ。これを上手く利用すれば評判をガクッと落とせる。いずれはこいつ等を全員蹴落としてあたしがトップに立つの。これはその為の布石よ」
邪悪な顔で邪悪なこと言いやがったぞ、こいつ。
俺と姫を仲良くさせて人気を落とすつもりかよ。自分は妹だから大丈夫って感じで。ホントに最低な奴だ。
本来ならふざけるなと俺の正論武装が火を噴くところだが、残念ながらここに俺の味方はいなかった。
「わたしルートになるはずだったのに。最低だよね……佑真君って」
「お姉ちゃんルートになるはずだったのに。最低ね……神原佑真」
俺が月姫を選択した時は手を取り合って喜んでくれた土屋と氷川にはゴミを見るような目で罵倒された。
っていうか、こいつ等も招待したのかよ。
……この分だと、当分は続きそうだな。
姫攻略は終わってもこの修羅場はまだまだ終わりそうもない。
これにてweb版完結です。
楽しいと感じたら評価をお願い致します。
また、書籍版は12月15日に発売となります。興味あったら手に取ってくれたら嬉しいです。