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第29話 決着の姫ヶ咲祭~妖精とデート~

「こっちだよ、神原君」


 約束の時間になり、風間と合流した。


 風間の服装はメイド服のままだ。これは風間の要望だった。どうやらメイド服が気に入ったらしい。実際に似合っているし、目の保養になるので何も言わない。


 ちなみに俺のほうも執事服のままだ。着替えるのが面倒だったのもあるが、それ以上に変装に役立つと判断した。


 今回の文化祭デートは姫と行動を共にするのである程度の変装が必要になる。下手に絡まれると面倒くさい上に時間を無駄にするからだ。


 この服装なら風間と一緒に回っていてもクラスの宣伝と勘違いしてくれるはずだ。クラスにも貢献できるし、一石二鳥というわけだ。


「順番に恵まれちゃった。明日以降は外部の人が来るから大変だもんね」

「去年は酷かったからな」

「地獄だったよね。あの時は姫じゃなかったから良かったけど、もし姫だったら酷いことになってたと思う。同じクラスだった土屋さんは凄い困ってたし」


 風間は去年の二学期末の選挙で姫に選出された。文化祭では姫ではなかったのでそれほど困らなかったらしい。


 そう考えると称号は大事だ。風間自身の可愛らしさは去年から変わっていないのに、今年の我がクラスのカフェは”姫”を目当てに多くの生徒が集まったのだから。外部の人もこの称号に群がるだろう。


「今年は去年以上の来場者になる可能性があるらしいぞ」

「うわっ、勘弁してほしいんだけど」


 他校の生徒だったり、一般の人達が大量に訪れてぐちゃぐちゃになった去年以上と聞けば風間のげっそりした顔にも納得だ。


 思い返してみれば俺も去年は震えていたな。人の多さに嫌気がさして自分の教室から出なかったくらいだ。おかげで文化祭の記憶がほとんどない。


 正確なところはわからないが、間違いなく今年も多くの来場者が訪れるだろう。そういった意味では順番に恵まれたと言えるかもしれない。


「明日以降は考えてもしょうがないか。切り替えていきましょ」

「そうだな。で、今日のプランは?」


 文化祭デートのプランはすべて女性陣任せだ。これは別に俺が投げたわけではなく、向こうからの要望だ。


「色々考えたけど、劇の時間までブラブラしよっか。初日だからどこに何があるかよくわかってないし、神原君とお喋りしながら見て回るだけで楽しいと思うから」

「了解した」


 そうして風間との文化祭デートが始まった。


 今年の俺は文化祭の準備を頑張ったので他のクラスを見て回る時間がなかった。他のクラスの出し物は気になっていた。明日以降のこともあるし、場所を覚えておくのは重要かもしれない。


 談笑しながら歩くと、風間はある教室の前で止まった。


「ここ、入ってみよ」

「縁日系か」


 そのクラスの出し物は縁日だった。


 文化祭の定番の一つといえば縁日系だ。輪投げをしたり、ヨーヨー釣りだったり、射的といった出し物は定番中の定番だろう。


「好きなのか?」

「まあね」

「へえ、意外だな」

「昔は嫌いだったけど、中学の頃にいっぱいお祭りに誘われて好きになったんだ。人気者の宿命かな。男子がいいところ見せようと必死で可愛いんだよね。けど、私に才能あったみたいで全員残念な結果になったけど」


 得意気に言うと、風間は射的に挑戦した。


 めちゃくちゃ上手かった。


 射的から始まり、ヨーヨー釣りでも、輪投げでも、慣れた手つきで次々と景品を獲得していく。メイド服で縁日無双する姿は妙な格好よさがあった。


「ほら、神原君もやろうよ」


 誘われるままに俺もチャレンジしてみる。


「……意外と難しいな」


 風間とは逆に中学生から祭りに縁のなかった俺は悲惨なものだった。元引きこもりの限界とだろうか、まるっきり要領が掴めなかった。


 ゲームの中なら得意だったのに。


「コツを教えてあげる」


 風間からコツを教わったが、相変わらず俺は下手なままだった。ムキになって挑戦するが、結局最後まで振るわなかった。


 我ながら才能がない。


 隣で見ていた風間から「下手くそ」と笑われながらしばらく縁日系を堪能した。最後まで景品は取れなかったが、お祭り気分で楽しめた。


「さて、そろそろ今日のメインディッシュの時間だね」


 縁日の教室から出た風間は時計を見ながら言った。


「少し早くないか?」

「全校生徒が大注目している劇だから、早いところ行って前の席を確保しないと」


 四人の姫とデートをするわけだが、初日の今日だけは長めに時間が設定されている。これは風間を優遇したわけではなく、不知火と土屋の劇が関係している。


「明日以降だと外部の人が来るから大変になるだろうし、今日が最大の狙い目だからね。他の生徒もそう思って早めに来るはずだよ」

「それもそうだな。どうせなら最前列で観賞したいからな」

「あっちも神原君に近くで見守って欲しいだろうからね」

「……」


 二人の姫が主演となるこの劇の注目度は高い。一般の人が来たら体育館が埋め尽くされて観れない可能性もある。そういった理由から風間とのデートで強制的に組み込まれたのだ。


 体育館に到着した。


 メイドと執事という組み合わせで浮くかと思ったが、俺達以外にも変な格好の奴がいたのでそれほど浮かなかった。


 開演まで余裕があるせいか、無事最前列に座れた。


 時間が経過するにつれて体育館はあっという間に生徒で埋まった。二人の姫が主演だから注目度が高いのは当然だろう。


 演目はロミオとジュリエットだ。ロミオ役を不知火が、ジュリエット役は土屋が務める。


 劇が始まった。


 予想に反してかなり本格的だった。最初は姫目当てだった観客もいつしかその演技に圧倒されていた。特に土屋のほうは素人目に見ても別格だった。舞台の上で圧倒的な輝きを放っていた。


 その演技に俺も魅了された。


 土屋の上手な演技も凄かったし、不知火のロミオ役もそれに負けないくらい格好よくて魅力的だった。


 口を半開きにして眺めていると、不意に舞台の上にいる不知火と目が合った。気がした、ではない。確実に目が合った。


 すると突然、隣に座っていた風間が俺の腕に抱きついてきた。


「っ、風間!?」


 慌てて風間のほうを見ると、口元には薄っすらと笑みがあった。視線は俺ではなく後ろのほうを見ていた。


 ……っ、不知火に対して挑発のつもりか?


 それにしては全然違う方向を見ているな。それに、背後のほうで誰かが呻くような声が漏れ聞こえたけど。


 ハッとして視線を前に戻すが、不知火は気にした様子はなかった。


 その後は特に何もなかった。静かに劇を鑑賞した。全体的にとてもクオリティが高く、劇は大満足で終わった。俺は自然と手を叩いていた。


「いやぁ、最高の劇だったね!」


 風間が満足そうに感想を述べる。


「凄かったな」

「どっちも演技上手だね。私にはとても無理だよ」


 同感だ。


「……って、劇は良かったけど途中のあれは何だよ。妨害のつもりか?」

「妨害?」

「不知火に怒られるぞ」


 風間は小首を傾げた。


「不知火さんの妨害なんてしてないよ」

「あれ、違うのか?」

「私が挑発したのは、あそこ」


 風間が振り返ったので、俺もそれに続く。


 視線の先には挙動不審な花音と月姫がいた。こっちを覗いていた二人は慌ててその場から退散した。


「気になってチェックに来たのか、それとも単純にあの二人の劇に興味があったのかもね。けど、人のデートをじろじろ覗くとかマナー違反でしょ」

「あいつ等に対してだったのか」

「ずっとこっち見てたよ。まさか、気付いてなかったの?」

「……全然」


 風間がため息を吐いた。


「大体、いくら私が性格悪くても劇の邪魔はしないって」


 奇跡的なタイミングで妨害みたいになっていたわけだ。変に勘違いして風間には悪いことをしてしまったな。


「疑って悪い」

「別にいいよ。気にしてないから」


 不知火が気にしてなきゃいいけど。


「さっ、気を取り直してデートの続きしよ」


 風間に引っ張られる形で一緒に校内を回った。


 途中、風間の友達が何度も声を掛けてきたり、屋台で買い物したら店員の男子生徒が風間にサービスしてくれたり、メイド服姿の風間にハートを撃ち抜かれた男子が群がってきたりした。

 

 風間と一緒だと常に人の輪の中心にいる気分だった。


 以前ならそれが鬱陶しいと感じたかもしれないが、今では心地良いと思えるようになっていた。我ながら成長したものだ。


 そして、デートも終わりの時間を迎えた。


「今日は楽しかった。ありがとね、神原君」

「俺のほうこそ楽しかったよ」


 この感想は本音だ。


 風間と一緒に居ると楽しい。多分それは風間がずっと楽しそうだったからだろう。常に笑顔で、会話を振ってくれたからずっと楽しくいられた。


 何となく風間と付き合った時のビジョンが見えた気がした。


「やっぱり神原君と一緒だといいね。会話のリズムもいいし、ノリも悪くないしさ。おまけにからかい甲斐もある」

「こっちも同じ感想だ。からかい甲斐は余計だけどな」

「でも、本当に楽しかったよ。去年以上だった」

「そういえば、去年はどうだったんだ?」


 俺の質問に風間はしばし考える。


「うーん、普通に楽しかったよ。友達と一緒だったし、それから攻略中の男子がいたかな。その男子を連れ回してた」


 この悪女め。


 風間が去年から姫だったら大問題になっていたな。今年の場合は俺も執事服だったし、これで上手く誤魔化せたはずだ、多分。


「攻略中の男子と一緒に回ってたけど、神原君と一緒の時とは全然違ったかな。どうしてだろ。多分、全然好きじゃなかったからどこか退屈だったのかも。あの時の私はほら、ゲーム感覚だったし」


 ゲーム感覚か。


 これに関しては姫攻略をしていた俺がとやかく言えることじゃないな。俺にとっては死活問題ではあったが、相手からしたらそんなのは関係ないだろうし。


「とにかく、神原君とのデートでは大満足だった。これからも神原君にいっぱい悪戯したいなって思った」

「……悪戯は勘弁してほしいけどな」


 俺の言葉に風間は何も答えなかった。どうやら悪戯を止めるつもりはないらしい。


「さっ、そろそろ教室に戻ろうか」

「そうだな。戻って仕事するか」


 先導するように歩き出した風間は何かを思い出したように振り返ると。


「返事、楽しみにしてるから!」


 その言葉通り、風の妖精は本当に楽しそうに笑っていた。

読んでいただきありがとうございます。

ここから2~3日間隔で更新して、12月中旬に完結します。

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