第24話 卒業アルバム
急にどうした?
さっきまで不知火の話だったのに、前触れもなく花音の話に切り替わった。何がどうなったらそっち方向に話が流れたのか。
疑問はあっさり解消された。
「氷川さんから凄い怒ってる感じのメッセージが届いたの。その内容だけど、妹の花音さんがゆう君に告白したって」
氷川が目覚めたのか。
無事らしいのでひとまず安心するが、安心した後で疑問が浮かぶ。
何故その情報を月姫に送ったのか。どうして怒りが月姫に向かったのか。そもそも二人は連絡先を交換していたのか。まあ、連絡先については最近仲良しだったから全然おかしくはないか。
「ねえ、本当なの?」
隠しても無駄と悟った俺は小さく頷いた。
「……そうなんだ」
月姫は再びスマホの画面に視線を落とす。
「ネットゲームで結婚してるって書いてあるけど」
「そんな情報まで送ってきたのか!?」
「長文でわかりにくいけど、書いてあるね。怒り過ぎて何度も同じ言葉使ってるし、相当危ない精神状態みたいだけど」
目覚めた氷川は怒りのままに文章を打ったわけだな。
怒りが月姫に向かった理由はさっぱりわからないが、そこは怒りすぎて我を見失っていると言ったところだろうか。最愛の妹が告白した現場を見ちまったからしょうがないけどさ。
「前に話してくれたネットゲームのお嫁さんって、花音さんのこと?」
ぎろりとした目で見られた俺は否定しても無駄だと理解し「その通りだ」と素直に答えた。
「最初から知ってたの?」
「いや、知ったのは今日だ。こっちも驚いたよ。花音のほうはちょっと前から気付いてたみたいだけどな。で、ここに来る前に告白された」
氷川から情報が洩れているのなら隠蔽しても無駄だ。花音には悪いが、ここで誤魔化すのは不可能だな。
月姫は色々と納得した様子だ。
「なるほど。告白の現場に氷川さんも居たんだね」
「ああ」
「ゆう君が疲れた顔してる理由がわかったよ。彼女は花音さんを大切にしていたし」
告白されて疲れたわけではない。相手は美少女でネトゲの嫁なわけだしな。そもそも美少女じゃなくても告白されたら普通にテンションが上がる。
無駄に疲労していたのは氷川の存在だ。隣に猛獣が佇む中での告白だ。あれは想像以上にメンタルを削られていたらしい。
その後、気絶したから罪悪感からまたもメンタルを削られた。一応ではあるが、あいつとは同盟関係にあったわけだし。ここに来る途中だって倒れた氷川を心配していたので気苦労があった。
「返事はしたの?」
「文化祭の日にする予定だ」
「……文化祭」
「他の人に合わせてもらったんだ」
俺がそう言うと、月姫の表情が曇った。
「風間さんだけじゃないんだ」
「えっ――」
「相手が風間さんだけならその言い方はしないよね」
しまった。何気なく口にしたが、俺は頭の中に風間と不知火の顔を浮かべて口に出した。確かに相手が風間だけなら「風間に合わせる」で良いはずだ。
「他の人って不知火さん?」
「……」
「隠さなくてもいいよ。不知火さん、ゆう君のこと好きって言ってたから。時間の問題だと思ってた」
そういう話をするくらい仲良しだったのか?
「予想だけど、風間さんが告白したって聞いたから動き出したんでしょ。あの身バレしそうな配信内容もこれなら納得できるし」
不知火の気持ちを知っているのならこれ以上は隠さなくてもいいか。
「その通りだ。律儀に自分の正体を明かしながら言ってくれたよ」
俺は大人しく白状した。
その後、しばらく沈黙があった。何となく気まずくて黙っていたが、月姫は何かを考えていた様子だ。
沈黙を破ったのは月姫の笑い声だった。
「さすがだよね」
「へっ?」
「世の中の女の子は見る目がないって思ってたけど、姫に選ばれるだけあるってところかな。見る目があるよ。それに勇気もある」
月姫がふむふむと頷く。
「あっ、気にしなくて大丈夫。風間さんの時は突然すぎてビックリしたけど、今は普通に受け入れてるから。ゆう君が格好よくて素敵な人なのは昔から知ってるからね。いつかゆう君の魅力に気付く人が現れるって思ってた」
それはさすがに過大評価だろ。
「まあ、ここまで多くて魅力的な子ばっかりなのは想定外だったけど」
「……俺としては最初の一人で想定外だったけどな」
「ますます自分を許せないよ。氷川さんにも怒られるし。言われなくても私が不甲斐ないのはわかってるよ。けど、こんな早く事態が動くとは思ってなかったんだって」
再び膨れた月姫はぺしぺしとベッドを殴る。
数十秒程そうしていると気が晴れたのか、今度はベッドから降りて机に向かった。ある物を抱えて戻ってきた。
「それは?」
「お見舞いに来るって聞いたから、準備してたの」
そう言って取り出したのは中学校の卒業アルバムだった。
「卒アル?」
「一緒に見ようと思って」
「……」
「露骨に嫌な顔したね」
中学時代は俺にとって黒歴史だ。イケメンに負け続けた俺の中学時代はまさに負け犬時代。趣味に走ったことに後悔はないが、楽しい思い出はない。実際、卒業してから一度も卒業アルバムを開いていない。
今にして振り返るとイケメンに負け続けたってのは幻想だったわけだが。
「私ね、一度も卒業アルバムを開いてなかったの」
「そうなのか?」
「嫌な思い出が多いから」
意外だな。
中学時代の月姫は当然モテモテだった。それに友達も多かった。楽しい思い出ばかりだと勝手に考えていた。
「あれ、でもスマホには大量に画像とかあったよな?」
「大半は小学生の頃のだよ。中学のもあるけど、最初の頃だけ」
知らなかった。
「失敗ばっかりだったからね。今思い出しても無駄な時間を過ごしていたなって後悔してる。私にとってこれは黒歴史の集まりだから、見たくなかったんだ」
月姫にとっても黒歴史だったのか。
「高校生になっても無駄な時間は長かったけどね」
そうして自嘲気味に笑う。
「月姫?」
「余計な話だったね。じゃ、開くよ」
校舎やら校長の写真の後、クラスの顔写真が並ぶ。
「懐かしいね」
「そうだな」
見覚えのある同級生の顔に自然と記憶がよみがえる。
顔写真の次は運動会に文化祭、修学旅行など行事の写真が並ぶ。黒歴史ではあったが、こうして振り返ると結構覚えているものだな。
「あっ、ゆう君が写ってる」
「我ながらやる気ない顔してるな」
「こっちには私がいる」
「友達と一緒で楽しそうだな」
くだらない話をしながら卒アルを堪能した。
これまで忌避していたが、読み終えると特に何も感じなかった。恐らく土屋と月姫に関する誤解が解けたからだろう。過去のトラウマみたいなものはすっかり無くなったようだ。
読み終えた月姫は再び卒アルを開いた。
「さっき、黒歴史って言ったよね」
「言ってたな」
「中学の頃に失恋したからなの」
「マジか?」
「……相手は初恋の幼馴染」
顔を上げた月姫と目が合った。
初恋の幼馴染?
俺以外に幼馴染がいたのだろうか。しかし無論、俺ではない。むしろ逆で、俺は勝手に振られたと思っていたくらいだ。それでちょっと優しくしてくれた土屋に惚れたのだから。
「相手はこの男の子だよ」
卒アルを指さす。そこにはやる気のない顔をした俺がいた。




