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第19話 ネトゲの嫁に相談したら呼び出された

 パニック。


 今の状況をひと言で表すならそれしかなかった。


 帰宅した俺は自分の部屋にいた。どうやって家に帰ったのか覚えていない。それほど衝撃的な出来事だった。


 疎遠になっていた幼馴染と良好な関係になりつつあると思ったら、隣の席の美少女に告白された。これだけでも大事件なのに、推しのVtuberの中身が同級生だった。しかも俺を好きだと告白してきた。その直後、かつて惚れていた少女が崩れ落ちるようにして倒れた。


 怒涛の展開に頭の中がパニック状態だ。これで正気を保てる奴がいたら是非とも教えてほしい。


「けど、いつまでも混乱状態じゃいられないよな」


 体を起こし、頭を働かせる。

 

 考えるべき点は多い。あまりにも多すぎるのだが、ここは一つ一つ解決していこう。それしかない。


 まず、現状において一番大事なのは何だろう。


「……」


 告白の返事だな。


 確かに不知火がフェニの中身だと知ってショックだったし、長文投げ銭のことも気になる。風間だって俺が姫攻略をしていたと知っているわけだし、行動と発言に注目していきたい。ついでに倒れた土屋もちょっぴり心配だが、こればかりは受け入れてもらうしかない。


 一番大事なのは告白に対してどう向き合うかだ。

 

 昔の俺は告白する勇気がないチキン野郎だった。


 彼女達は勇気を出して告白してくれた。この勇気に向き合わないのは失礼だ。それくらいは俺にだってわかる。文化祭までに誠意のある返事を用意しなければならない。これは絶対だ。

 

 ……俺はどっちが好きなんだ?


 風間は二学期になるまで接点がなかった相手。隣の席になってから風間が隣の席の男子を惚れさせる遊びをしていると知った。今の彼女との関係は友達ってところだ。毎日のように顔を合わせ、教室では頻繁にお喋りをする。


 不知火のほうは恋愛に発展するなど頭の片隅にもなかったので完全にノーマークだった。接点は毎日のように話す風間と比べて薄いのだが、その中身は俺がずっと応援してきた推しのVtuberである。


 タイプこそ違うけど、どちらの容姿も整っている。


 これらの情報を頭に入れ、しばし唸ってみる。


「……ダメだ。決められない」


 そもそも、俺はどっちかと付き合うのか?


 頭の中で二人の存在は大きくなっているが、初恋を捧げた幼馴染の月姫がちらちらと顔を覗かせてくる。


「誰かに相談してみるか」


 これが逃げの選択肢なのは重々わかっているが、一人で悶々としていたら頭がおかしくなりそうだ。


 問題は誰に相談するかだな。


 家族はありえない。両親に恋愛相談とかしたくないし、彩音は論外だ。学校の連中もない。友達と呼べる相手が少ないし、何より男子に相談したら嫉妬とかで呪い殺されかねない。いや、不知火もいるから女子にも相談できないな。


 アドバイスが貰えるくらい恋愛経験豊富で、相談しても問題にならない相手。


 そんな都合のいい相手は――


「嫁がいるじゃねえか」


 ネトゲの嫁である”ノンノン”だ。

  

 彼女は恋愛経験が豊富で、しかも近しい人間ではない。どこで暮らしているのか知らないが、さすがにここら辺の人間じゃないだろう。奇跡的に近場で暮らしている可能性もあるが、同じ学校とかいう奇跡は起きないはずだ。


 恋愛相談に関してノンノンには確かな実績がある。


 花音と仲良くする際にお世話になったからだ。あれは恋愛経験が豊富なノンノンならではのアドバイスである。俺だけじゃ花音と接点は持てなかっただろう。


 早速ゲームに繋ぐと、ノンノンはすでにログインしていた。


『いいタイミングでダーリン登場』

『おっす』

『早速だけど狩りに行こう。ノンノンはやる気満々だよ。さっき新しいスキル覚えたから試したいんだ。というわけで、すぐに合流するから待ってて』


 いつもの調子でチャットしてくる嫁の姿に安堵した。


 間もなくして目の前に金髪エルフが出現する。いきなり恋愛相談するのも気が引けるし、気分転換に狩りをすることにした。


 しばらく嫁と楽しく狩りをした。楽しい時間のおかげで頭の中がすっきりした。

 

 清算を終え、家に戻ってきた。


『新スキルいい感じだったね。継続回復って便利』

『こっちもやりやすかったよ』

『でしょ。次までにスキルレベル上げておくから』


 狩りの感想が一段落したところで、俺は本題を切り出す。

 

『あのさ、話を聞いてもらっていいかな。またアドバイスが欲しいんだ』

『アドバイス?』

『アドバイスというか、相談に乗って欲しい感じだな。実はリアルで告白されたんだ。それで、色々と迷ってて』


 一瞬、間があった。


『詳しく説明して』


 金髪エルフの目が鋭くなった、気がした。


『詳しくか』

『アドバイスしてあげるから、丁寧に詳しくね。あの後輩と食事した後から今日までの全部を聞かせてほしい』


 全部聞かないとアドバイスはできないか。そりゃそうだな。


『わかった。名前は伏せるが、まずは幼馴染と関係を修復したところからだ』


 俺は名前を伏せつつ、状況を説明する。


 長く疎遠になっていた幼馴染の月姫と関係を修復し、いい関係になったこと。その後、成り行きでダブルデートをしたこと。更に翌日、月姫とデートしたこと。


『その幼馴染と出かけてる時に隣の席の女子から告られた。正直、ビックリした。人生初告白だった。不意打ちで想いを告げられてめちゃくちゃ焦った』

 

 ネトゲの中とはいえ、嫁に向かってこれを言うのは変な気持ちだな。浮気とか不倫じゃないけど、何かそういうのをしているような妙な気分になる。


 しばし返事はなかった。その代わりに金髪エルフが立ち上がり、杖でポコポコと俺のキャラを殴った。


『浮気者!』

『待ってくれ。告白されたけど、浮気したわけじゃない』

『幼馴染とデートしたじゃん』

『それに関しては、そうかもしれないな』


 浮気者と罵られても仕方ないか。ダブルデートのほうに関して怒っていないのは仕方ないと理解してくれたからだろうな。


『アドバイスって、告白した人に対してどうしたらいいのかってこと?』

『いや、問題はここからだ。実はその後、別の人にも告白されたんだ』

『嘘!?』


 ノンノンは短くそう打った後、しばしの間があった。


『相手は誰なの?』


 いくらネットでもさすがにVtuberの中の人って言うのはまずいよな。何かの拍子で情報が漏れたりしたら大事になるし。

 

『同級生だ』

『特徴は?』

『イケメン女子』


 聞いたノンノンは『なるほど』と納得した様子だ。余談だが、俺のキャラは未だにポコポコ殴られ続けている。


『すでに告白されてる状態だけど、ダーリンはノンノンに何を求めてるの?』

『迷ってるんだ。告白してくれた二人はいい連中だ。けど、頭の中には幼馴染がちらついてるんだ。どうしたらいいだろうって』


 素直に心情を吐露した。


 ノンノンは黙った。しかし俺に対する攻撃は継続したままだ。むしろ攻撃の速度がアップしていた。


『候補は他にないの?』

『他って言われてもな』

『あの後輩とか』


 花音のことか。


 そういえば、ノンノンは花音を積極的に口説けと言っていたな。ノンノンからしてみれば自分のアドバイスのおかげで接点を持てたわけだし、花音を推したい気持ちもわかる。


『残念ながらあの後輩は俺に興味ないぞ。そんな素振りないし』


 花音と接触できたのは彩音の存在が大きかった。あいつは彩音と仲良くなりたかったわけだしな。


 そう答えると、ようやくノンノンは攻撃するのを止めた。


『話は理解した。まず、この状態でアドバイスはできない。この問題はダーリンがじっくり考えて答えを出すべき。乙女の勇気を踏みにじるのは良くない。こうなったらノンノンもみっともない妨害はしない』


 尤も意見だな。


 アドバイスを求めたが、最終的には自分で決めるしかないと俺自身もわかっていた。誰かに聞いてもらいたかっただけなのかもしれない。


『ノンノンに出来るのは新しい選択肢を提示することだけ』

『新しい選択肢?』

『そう。ダーリン争奪戦にノンノンも参加する』


 争奪戦に参加?


『意味がわからないのだが』

『言葉のまま。ダーリンの彼女にノンノンも立候補する』

『ノンノンは嫁だろ……っていうか、俺が話してるのはリアルの話だぞ』


 確かにノンノンは嫁だ。しかし、それはあくまでもゲーム内の話だ。リアルでは互いを知らない間柄だ。

 

 いくら何でも顔も名前も知らない相手を彼女にするのはおかしいだろ。ノンノンが素敵なのは誰よりも知っているが、リアルでは面識ないわけだし。


『ダーリン、明日って暇?』

『普通に学校だけど』


 平日なので学校だ。


『学校以外の用事は?』

『ないな』

『なら、放課後に待ち合わせ。後輩と一緒にご飯食べた空き教室で待ってて。本当なら朝でもいいんだけど、さすがに朝から告白はテンション的に無理だから』


 えっ?


『じゃ、ノンノンは準備があるからこれで落ちるね』


 そう残して、ノンノンはログアウトした。


 一緒にご飯食べた空き教室?


 ご飯を食べたとは言ったけど、そこが空き教室って言った記憶はないぞ。というか、俺の学校を知ってるのは何故?

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