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第13話 ダブル修羅場デート 後編

「さて、聞かせてくれるかな」

「わたくしとしては聞くまでもなく極刑を言い渡すのだけれど」


 怖い笑みの月姫と冷たい目の氷川が目の前に座っている。


 現在、俺たちはカラオケボックスにいる。ショッピングモールに併設された店の中だ。あの場で話をすると騒ぎが大きくなるので移動した。本来ならダブルデートのラストで来るはずだったが、どうしてこうなったのだろう。


 この場には俺の他に月姫、氷川、花音、土屋、不知火がいる。学園の誇る姫に囲まれて本来なら幸せな空間のはずだが、漂っている空気は天国ではなく地獄そのもの。


 しかし不知火までいるのは謎だ。不知火が登場してからは土屋の表情も曇っている。何がどうなってるのかさっぱりだ。


「だから、先輩は花音と楽しくデートしてただけ」

「っ、違うだろっ!」


 その説明だと誤解される。


 ほら、氷川は今にも俺を殴りそうだぞ。頼むから握った拳を解いてくれよ。


「しっかりと説明する。実は――」


 これがダブルデートであること。俺と花音は単なるオマケであること。別に恋人ではないことを丁寧に説明した。


「それホント? 彩音ちゃんの姿を見てないんだけど」


 月姫たちは彩音の姿を見ていないらしい。


「僕は見たよ。さっき神原君の妹が背後からそっと立ち去ったところをね。その時、球技大会で活躍した山田君が後ろから追いかけているように見えた」


 その場面を見ていたという不知火が証言してくれた。


 ほう、あいつ等はやはりバックレたわけだ。大方、ダブルデートの件が知られると評判が下がると思ったんだろうな。でもって、山田は彩音が心配だから付いていったわけだ。

 

 月姫は驚いた表情に変わる。


「えっ、じゃあ彩音ちゃんと山田君って付き合ってるの?」

「違うな」

「だったらどうしてデートしてるの?」


 月姫としても気になるよな。可愛い妹分なわけだし。


 仕方ない。ここで完全に否定しておかないと後々変な事態になる可能性が高い。あいつのためにも全部説明しておこう。


 そう決めて、ダブルデートするに至った経緯を説明した。山田の気持ちとか、球技大会の約束についてだ。


 山田の秘めたる恋心を勝手に言ってしまったわけだが、山田の行動は噂になっていたから問題ないだろう。それにあいつも俺を置いて逃げたわけだしな。これくらいの罰は受けてもらわないと気が済まない。


「へえ、山田君って彩音ちゃん狙いだったんだ」

「一目惚れだってよ」

「彩音ちゃんは可愛いからね」


 どこがいいのか全然わからないけどな。


「聞いて納得かも。球技大会で大活躍したのに、ゆう君ってばあんまりうれしそうじゃなかったよね。これが理由だったんだね」


 その通りだ。納得してくれて良かった。


 と、思っていたら。


「今は他のことなんてどうでもいいの。問題は、どうしてわたくしの花音ちゃんとあなたが付き添う形でデートしているのかという点よ!」


 バンッ、と氷川はテーブルを強く叩いた。


 怒りに震える声とテーブルを叩いた音に俺は「ひぇ」と小さく声を漏らした。他の姫もビックリしたようで押し黙った。


「大体、わたくしは聞いたはずよ。土曜日について何か知らないかって。誤魔化したってことは良からぬことを考えていたんじゃないの?」

  

 さっきよりも冷たい視線が俺を射抜く。


 蛇に睨まれた蛙のごとく固まっていると。


「花音は友達を助けたかったから」


 口を開いたのは俺の隣に座る花音だった。


「……助ける?」

「そう。彩音ちゃんだけだと万が一にでも襲われたら危険。だから先輩と花音も付いてきた。一緒に居れば安全だし、変な噂にならずに済む」


 ナイスフォローだ。実際、噂を防ぐためだしな。


 氷川はジッと花音の顔を見つめる。


「嘘じゃないみたいね」


 花音の表情と口ぶりから真実だとわかってくれたみたいだ。こういう時はシスコンで助かるぜ。


「でも、それならわたくしを頼ってくれればよかったのに。付き添いの相手が神原佑真である必要はないでしょう?」

「お姉ちゃんは目立つからダメ。変な男が寄ってくる」

「花音ちゃんだって目立つわ。誰よりも可愛いわけだし」

「他にも理由がある。お姉ちゃんは花音の近くに男がいるってだけで山田先輩を睨みつける。それだと山田先輩が可哀想。本気で恋愛してる人の邪魔は良くない」


 俺からすれば山田の失恋は確定している。


 ただ、花音はそれを知らない。それに自分のクラスに山田がやってくる現場を目撃している。あいつがどれだけ本気なのかをわかっているのだろう。


「だから先輩はお姉ちゃんに言えなかったの。彩音ちゃんからしても兄である先輩がいたほうが安心できる」

「……確かに、一理あるかもしれないわ」


 凄いぞ。あの氷川を言い負かすとは。


 妹から正論をぶつけられた氷川は渋々といった感じだが、引き下がった。


「僕からも質問があるんだ。どうしてわざわざここに来たんだい。デートをするなら地元でも良かったはずだろ」


 不知火が疑問を投げかける。


「誰にも見られたくないからだ」

「その理由を聞いてもいいかい?」

「彩音は影響を気にしてるんだよ」

「影響って?」


 これは別に言ってもいいだろう。姫攻略さえのことさえ言わなければ問題ないし。


「現役の姫たちの前で言うのも変だけど、彩音の奴は新聞部の主催してる学期末の総選挙で姫の座を狙ってるんだよ」


 発言した瞬間だった。


「「「「「えっ!?」」」」」


 全員が声を揃えた。


 何だこの反応は?


「っ、姫の座を餌にすれば買収できるってことじゃない」


 さらっと月姫は怖い発言をした。


「盲点。けど、彩音ちゃんの性格を考えれば納得」


 花音は納得している。本性を知っているからな。


「完全に予想外だったな。そういう方向からアプローチも出来たわけだ」


 不知火は大きく息を吐いた。


 氷川は少し驚いた感じだったがそれほどリアクションはしていない。土屋は俯いてぶつぶつと何事かを考え出した。


 でも、意外だったな。あいつなら月姫と花音には言ってそうなものだけど。


「俺からも質問がある。月姫たちはこんなところで何してたんだ?」

「っ」


 気になったのはこれだ。偶然って可能性はないだろう。この辺りは地元から離れている場所だ。遊ぶにしても近場でよかったはずだ。


 何気ない疑問に答えたのは氷川だった。


「決まっているでしょう。可愛い妹が心配だったのよ。休日にこそこそしているから気になったの。妹の身を案ずるのは姉として当然のことよ」


 堂々と言い切ったな。

 

 シスコン宣言に近いが、これくらいなら過保護で済むのかもしれない。実際に花音は可愛いわけだし、心配もするか。


「そ、そうだね。氷川さんの言う通りだよっ。私たちはその付き添い」


 どうにも嘘くさい月姫の言葉に引っ掛かりつつ、土屋に視線を向ける。こっちは無反応だった。


 ビッグ3とは別方向から現れた不知火の顔を見る。


「僕はたまたま通りかかっただけだよ。ここで買い物していたんだ。そしたら騒ぎに気付いて近づいたわけさ。本当に偶然だったんだ」


 こっちは本当に偶然だったわけだ。 


「絶対嘘でしょ」

「嘘っぽい」


 月姫と花音がぼそっと漏らした。


 確かに奇跡みたいな確率だな。言及したところで本当のところはわからない。


「まあいい。とにかく、今回のダブルデートにやましいところはない。俺の服装とかも見てくれよ。本気でデートする気ならもう少し気合い入れるはずだろ」


 必死にアピールする。


「確かにそうかも」

「個人的にはまだ許せないところもあるけど、仕方ないわね。あなたも妹の恋路については思うところがあって当然だもの。妹を守るために動いた相手を責めれないわ。いいわ、裏切り者といったことは訂正しておく」


 忘れがちだが、氷川の中では俺もシスコンだったな。その設定のおかげでどうにか切り抜けられそうだ。


 場を支配していた緊張が緩む。


「誤解が解けてよかった。じゃ、俺は彩音を探しにいくわ。あれでも妹だし、何かあったら両親から怒られるしな」

「えっ、花音とのデートの続きは?」

「もう無理だろ。ダブルデートなのにすでに一組いなくなってるし」


 ダブルデートから”ダブル”を取ったら単なるデートだ。


 花音はしょぼくれた顔をしていたが、ここでデートを続行したら氷川に八つ裂きにされる。


「あっ、待って」


 出ようとした俺を月姫が呼び止めた。

 

「どうした?」

「ゆう君、明日のデート楽しみにしてるからね」


 最後に特大の爆弾を投下した。


 不知火と花音がサッと立ち上がった。


「神原君、どういうことだい?」

「先輩、聞いてないんだけど」


 俺が解放されたのはしばし後になってからだった。

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