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第7話 球技大会 前編

 姫ヶ咲学園の球技大会は春と秋に実施され、2日間に渡って行われる。


 男女共にいくつかの種目はあるが、最も注目される競技は一番参加人数の多いサッカーだろう。学年別ではなく、学園全体での勝負となる。


 初日はブロックごとでリーグ戦を行う。このリーグ戦で2位以上の成績だと明日の決勝トーナメント進出となる。


「絶対に優勝するぞ!」


 迎えた球技大会初日。


 グラウンドの中央でそう宣言したのは我がクラスの誇る王子――山田であった。いつになく気合いが入っているが、無論それには理由がある。

 

 俺が立てた作戦は無事成功した。


 山田は彩音から出された条件を受け入れた。優勝したらデートをして、もし優勝出来なかったら距離を置くと。

 

 その条件を取りつけた後、山田と話す機会があった。どうも山田側にとってもありがたかったらしい。風間に失恋したのが人生初の失恋で、そのせいで臆病になっていたという。猛アタックはしているものの最後の一歩を踏み出せないでいた。


『球技大会の結果で俺の運命が決まる。デート終わりに絶対告白する』


 と、真顔で言っていた。


 あのクソみたいな妹のどこがいいのかさっぱりわからないが、優勝デートの暁には告白もセットらしい。


 まあ、最初から結果はわかってるんだけどさ。


 結果が最初から判明している点については黙っている。ショックを受けるだろうし、俺に八つ当たりとかされたら困るからな。

 

「一緒に頑張ろうな、神原」

「お、おう」

「絶対優勝しよう」

「……そうだな」


 ちなみに俺は頑張らない。


 頑張りはしないが、積極的に足を引っ張るようなマネもしないつもりだ。


 ここまで男子を中心に周囲の評価を下げ続けてきた。さすがにこれ以上はまずい。姫と仲がいいだけでも敵視されているのに、球技大会でふざける野郎と噂が広まったら最悪だ。

 

 だから普通にプレイするつもりだ。


 そもそも優勝はありえない。サッカー部に所属する奴が多いクラスには勝てるはずないのだ。我が校の球技大会では、部活動所属者は出場禁止、みたいな決まりはない。だ優勝はサッカー部が多数所属するクラスに決まっている。


 クラスメイトも適当に流す奴が多いだろう。

 

 と、思っていたのだが。


「よっしゃ、やるぞ!」

「絶対優勝だ!」

「アピールするぜ!」


 我がクラスの男子は気合い入りまくりだった。ほぼ全員が山田と同じように優勝を目標に掲げている。


 これも理由は簡単だ。目的は彼等の視線の先にある。


 その視線が向かう先は体育館。そう、我が校が誇る姫たちだ。


 格好いい姿を姫に見せたい。


 ただそれだけだ。あまりにも単純だが、美少女にいいところを見せたいというのは男の本能である。こればかりは仕方ない。

 

 クラスの男子のお目当ては風間幸奈だ。クラスメイトであり、ワンチャンある可能性が一番高いからだ。そもそも他の姫は別のクラスだったり、別の学年なので俺たちの試合など見ない。

 

 ……おまえらの内の半分くらいはフラれてるだろ。


 呆れる気持ちもあるが、恋心を止められるはずがない。それだけ風間が魅力的ってわけだ。さすがというか、怖いというか。


 その時だった。


 体育館からクラスの女子数人が出てきた。その中には風間の姿もある。ちなみに女子の種目はバスケと卓球とバレーボールで、すべて室内競技だ。


 風間は俺たちに気付くと近づいて来た。


「頑張ってね、みんな!」


 笑顔で手を振る。


 たったそれだけの行動でクラスの士気が上昇する。中にはテンションがおかしくなっている奴もいた。


 祭り会場のように盛り上がる中、風間はこっそり俺に近づいてきた。


「応援してるからね、神原君」

「おう」

「かっこいいところ見せてね。時間があったらこっちに来るから」


 風間は俺の手を握った。


 週明けから風間は以前の状態に戻った。


 いや、以前よりも魅力的だった。笑顔が本物っぽくなったというか、何となく可愛らしさが上昇しているような気がする。今も俺の手を握りながら顔が赤くなっている。赤面している顔も妙にリアルというか、あの腐れ妹と重ならない。


 何があったんだ?


 金曜日の放課後まではやる気ゼロだったのに、急にスイッチが入ったようだ。まあ、こっちのほうが風間らしいから別にいいのだが。


「どうせなら男女共に優勝しよ」

「お、おう。そうだな」

「じゃあね。あっ、私の活躍も見に来てよね」


 可愛いじゃねえか。


 風間が去ると、今度は月姫が体育館から出てきた。俺と目が合うと、迷わずこっちに来た。


「ゆう君、今日は頑張ってね」

「任せとけ。月姫も頑張れよ」

「うん、絶対優勝するからね」


 月姫が口にすると。


「それは聞き捨てならないな。優勝するのは僕等だよ」


 不知火だった。


「やあ、神原君」

「よう。自信満々だな、不知火」

「バスケは昔から得意でね。よく男子に混じってやっていたものさ。というわけで、僕のクラスが優勝するよ」


 不知火はちらっと月姫のほうを向いた。


「優勝するのはわたしのクラスだよ」

「さしずめ前哨戦だね。楽しみにしてるよ、月姫」

「こっちこそ」


 両者は笑い合う。


 ……月姫?


 こいつ等いつの間に仲良くなったんだよ。それに前哨戦って何のだよ。


 キョトンとしていると、二人は話をしながら体育館のほうに向かっていった。どうやら本当に仲良くなったらしい。


 風間の変わりようといい、女子って生き物はホントにわからねえな。


 などと感想を述べていると。


「……先輩。ファイト」


 いつの間にか花音が隣にいた。


「ありがとな。花音も頑張れよ」

「頑張る」

「そういや、出る種目は?」

「バスケ」


 花音もバスケなのか。激しい接触でケガをしないか心配だな。


 心配していると、花音の後ろからぬるっと諸悪の根源が出てきた。貼りつけたような笑顔は風間とちっとも重ならない。


「頑張ってね、お兄ちゃん」

「……はい」


 無機質な声で答えると、彩音の奴はイラっとした表情になったが、すぐに顔色を変えて歩き出した。


「じゃ、じゃあね! 行こう、花音ちゃん!」


 急にどうしたんだ?


 疑問はすぐに解消された。俺の真後ろで山田が食い入るように彩音を見ていたからだ。さすがのあいつも耐えられなかったらしいな。


「……神原、絶対勝とうな」

「お、おう」


 球技大会が始まった。


 ◇


 俺は予定通りディフェンダーとして出場した。


 初戦の相手は下級生だ。見たところサッカー部はいないらしく、士気もそれほど高くない。適当に流そうとしているのがよくわかる。気持ち理解できる。春までの俺もそうだったし。


 良い勝負になるだろうと予想したが、予想は大ハズレだった。


「よし!」

 

 エースである山田が攻守に大活躍した。


 山田以外の男子も普段よりやる気があり、動きが格段に良かった。終始押せ押せだった。


 まっ、初戦くらい突破してもバチは当たらないだろう。


 そう考えた俺も必死にディフェンスしていた。活躍とまではいかないが、パスカットしたり、前線にパスを送りなどして無難にまとめた。足は引っ張っていないはずだ。


 無事に初戦を勝利で飾った。


「このままの勢いで優勝するぞ!」


 クラスに1人だけいるサッカー部の奴を差し置いて何故かリーダーに就任した山田だったが、誰も反対はしなかった。


 山田を中心に戦いは続いた。


 最初こそ俺もあれこれ考えていたが、途中からはただチームの勝利を目指してプレイした。いつの間にか球技大会を楽しんでいた。


 その結果。


「予選突破だ!」


 俺たちのクラスは予選リーグを首位で突破して決勝トーナメントに駒を進めることになった。


 ……ま、まあ、明日負ければ大丈夫だよな。

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