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第6話 緊急作戦会議

 日曜日の夜。


 俺の前にはどうにも形容しがたい表情をした彩音の姿があった。怒りと呆れ、そして喜びが入り混じったような複雑な顔だ。


 ちなみに行動に関しては複雑でも何でもなくいつも通りだった。ノックもなしに入室し、お菓子を強奪してバクバク食べている。


「これより緊急作戦会議を行うわ!」


 お菓子を食べ終えた彩音が発した。


「議題は?」

「あのイケメン」


 あのイケメンというのは、俺のクラスメイトである山田遥斗だ。

  

 あれから山田は猛アタックを仕掛けている。下級生の教室に向かっては、彩音と接触しようと必死らしい。


「あれって兄貴のクラスの人でしょ」

「うむ」

「友達?」

「単なるクラスメイトだ」


 俺が丸投げしたと知られるわけにはいかない。知られたら面倒だ。ここは何も知らないフリを貫こう。


「噂になってるよな。おまえと山田の関係」

「現在進行形で困ってるんだよね。まっ、姫を目指せばいつかこういう事態に直面することはあると思ってたけど」


 人気急上昇中であり、次の姫候補となれば狙う男はいる。俺の耳にも彩音を狙っている男子が結構いると情報が入っている。


「一応聞いておくが、付き合ってはないんだよな?」

「ない」

「予定は?」

「未定だけど、今のところはないかな。別に悪い人とは思わないけど、あたしの記念すべき初彼氏にはふさわしくないわ。勉強も運動もできるって自慢してるところはかなり寒いし」


 彩音としては悪くはないけど、交際する気はないって感じか。こいつが上から目線なのは気に食わないが、恋愛は惚れた奴の負けだから仕方ない。


 残念だったな、山田よ。


 この様子だと山田を慰めたというエピソードも覚えていないみたいだな。覚えていないなら言う必要もないか。


「ただ、好意を向けられるのは悪い気はしないわね。花音じゃなくてあたしを選ぶ辺りにもセンスを感じるわ」


 彩音はそう言って満足そうに頷いた。


 付き合うつもりはないけど、花音よりも自分に好意を向けられたのが嬉しいわけだ。花音のこと親友みたいに言ってたのに、女は怖いぜ。


「で、本題。あのイケメンをどうにかして」

「嫌なら自分で言えばいいだろ。話しかけるなって」

「それが出来たら苦労はしてないの」

「出来ないのか?」

「厄介なんだよね。距離感が絶妙っていうか、むしろあたしの友達が余計なマネしてるのがまずいんだよ」


 どういう意味だ。


「例えばあの人が近づいて来るでしょ。そしたら『あっ、お邪魔虫は消えるね』とか言って友達が離れてくの。気を遣ってるつもりなんだろうけど、余計なお世話なんだよね。そのせいで二人きりになるから変な噂が立つし」


 お節介が裏目に出るパターンか。あるいはわざとの可能性もあるか。


「告白とかしてきたのか?」

「まだ。話の内容も世間話ばっかり」

「好意はわかるのに?」

「そりゃわかるでしょ。休み時間の度に現れるんだから」


 どうやら山田は猛アタックをしているものの、告白はしていないようだ。風間の件から慎重さを学んだのだろうか。

 

 これは難しいな。


「友達に言って勘違いを解いたらどうだ?」

「それが全然ダメ。あたしとあのイケメンが出来てるって決めつけてるんだ。あたしってマスコット的な立ち位置だから、何言ってもイマイチ響かないの」


 面倒だな。


 しかしそこで俺に対策を期待されても困る。名案とかまるで思い浮かばない。


「どうでもいいが。もしこれで姫になれなかったら俺の秘密は――」

「バラすに決まってるでしょ」


 最低だ。


「当たり前でしょ。兄貴との約束はあたしを姫にするってものなわけだし。兄貴に責任がなくても姫になれなかったら秘密を漏らすのは当然でしょ」


 当然じゃねえだろ。


「というわけで、あのイケメンをどうにかして。このままだと姫になれないかも」


 大袈裟な気もするが、噂が広まればありえない話じゃない。


 放置しておけば周囲の人間はどう判断するかわからない。それにだ、この話題のおかげで月姫の話題が薄れつつあるのもまずい。


「そもそもの話をしていいか」

「なに?」

「どうして姫になりたいんだ」

 

 姫になりたいと言っていたが、肝心の理由を聞いていなかった。


「決まってるでしょ。ちやほやされるためよ」

「……」

「姫の称号はここら辺だと結構有名なの。姫になったらSNSで拡散されるし、姫ってだけでちょっとした有名人なんだから。ある種のブランドみたいなものかな」


 目的は箔をつけて人気者になることか。

 

 確かに注目度は高い。月姫を見ていればわかる。他校の連中からもよく見られてるからな。あれはルックスだけじゃなくて称号も相まってのことだったのか。


「兄貴には言ってもいいかな。実は、あたしには夢があるの」


 照れているのか、彩音の頬が少し赤い。


 こいつの夢とか初耳だぞ。


「まずは姫になって有名になる。そしたら多くのイケメンがあたしの彼氏の座を巡って争うの。あたしはその中央に立って『お願い、あたしのために争わないで』って言うのよ。きっと最高の気分になれるわ。想像しただけで涎が垂れるし」


 クソみたいな願望だな。よくそれで照れ顔になれたもんだよ。


 このくだらない願望のために俺は頑張らされていたのか。


「あの先輩も確かにイケメンだけど、あたしは姫になりたいの。姫になってもっと多くのイケメンに口説かれたいのよ」

「欲望に忠実だな」

「というわけで、即座にどうにかして」


 どうにかと言われてもな。

 

 俺が止めるように言ったところでどうよ。山田は完全に彩音に夢中だし、兄の言葉といえども制止してくれるか不明だ。


 その上、こいつの評判悪くならないように断る方法か。


 こういうのは何かイベントを絡めたほうが楽だ。どこかに都合のいいイベントは転がっていないのか。しばし頭を働かせる。


 ……閃いた。


「球技大会だ!」

「はぁ?」

「もうすぐ球技大会だろ。そこで優勝したらデートするって条件を突きつけろ。逆に優勝できなかったら弱い男に興味がないとか言って距離を離せばいい。あいつは運動ができるって自慢してきたんだろ。そこを利用してやるんだ」


 火曜日から球技大会がある。姫ヶ咲では2日間を使って行う大きなイベントだ。


 彩音は少しだけ考えて。


「もし優勝したらどうすんの?」

「安心しろ。山田は確かに運動神経抜群だが、俺のクラスにはサッカー部が1人しかいない。他のクラスとか先輩のクラスにはサッカー部の奴が大勢いる。優勝する可能性は限りなく低い」

「……なるほどね」

「もしもの保険として俺がいる。万が一の時は足を引っ張ってやればいい。悪目立ちしない程度にわざとミスしてやるから」


 彩音も納得した。

 

「確かにそれなら悪評が立たないか。運動できるとか言い出したのも向こうだし。人任せで好きじゃないけど、すぐに手を打つならこれしかないわね」

「名案だろ」

「まあね。じゃ、上手く足引っ張ってよね」


 面倒事が一つ増えたが、これは安心だな。うちのクラスがいくら頑張っても優勝とか出来るはずないし。

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