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【書籍化】学園の姫攻略始めたら修羅場になってた件  作者: かわいさん
第2章

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第4話 憂鬱な妖精と山の王子

 教室に到着した俺は考えていた。


 最近、気になることがある。


 それは隣の席にいる女子生徒についてだ。風の妖精の二つ名で知られる我がクラスの姫、風間幸奈の様子がおかしい。


 姫の中でも圧倒的なコミュ力を持つ彼女は普段からニコニコして愛想を振りまいている。人懐っこい笑顔と、会話の引き出しの広さで絶大な人気を博しているのだが――


 ここ数日は物憂げな表情で退屈そうにしている。


 明らかにテンションが低く、誰かと喋っている時でも笑顔に陰りが見える気がする。


「おはよう」

「あぁ、おはよう」


 以前までなら明るい声で返ってきた挨拶も、最近では義務といった感じだ。俺が嫌われているわけではなく、誰に対してもこんな感じだ。


「元気ないみたいだけど、何かあったのか?」

「……他人事だと思っているあたりタチが悪いわね」

「えっ」

「別にいい。神原君に期待しても無駄だから」


 何故か怒られた。


 突然の説教に狼狽していると。


「元気がない理由は簡単よ。最初は楽にクリアできると思ってたゲームが実はめちゃくちゃ難易度が高かったの」

「……悪いことなのか?」

「全然。むしろ歓迎だったよ」


 風間は周囲に人がいないのを確認すると、露骨に嫌そうな顔をした。


「けど、問題はその先にあったんだよね。難易度が高いだけだと思ってたゲームが実は攻略不能に近いクソゲーだったんだ。ホント、世の中のクソさ加減を嘆きたい」


 後半は素が出ていた。


 しかしまあ、そいつはテンション下がるな。


 俺もゲームをよくプレイするので気持ちは理解できる。それなりに歯ごたえは欲しいけど、クリア不可能ってのは勘弁だ。


「ゲームのジャンル?」

「恋愛シュミレーション。狙ってた相手が自分よりも可愛い女の子に囲まれてるんだ。おまけにその内の一人は圧倒的に強くて、しかも凄くケンカ腰なの。さらに言えばそのケンカ腰の女の子には友達がいるんだ。で、友達のほうもその子と同じくらい強くて優秀な子。こっちに全然勝ち目ないじゃん」


 不利とかってレベルじゃないな。


 楽勝だと思っていたら、実は競争相手が複数いた。しかも全員自分よりレベルが上だったわけか。俺なら悲しくて白旗を掲げるね。


 風間が不調はゲームのせいだったのか。


 猫を被って男を弄ぶ妖精様がここまで憂鬱になるとはな。男に弄ばれる姿を見るのは新鮮っていうか、不思議な気持ちになる。


 さて、どうする。


 姫攻略をしている俺からすれば攻略優先の一番手は月姫だが、二番手は風間だったりする。というか、他に選択肢がない。


 土屋美鈴は不知火翼に惚れているので無理。

 不知火翼は土屋を敵に回すので個人的に遠慮したい。土屋とは友達だしな。

 氷川亜里沙はシスコンなので論外。

 氷川花音に手を出すと、氷川亜里沙と我が妹を敵に回すからありえない。


 消去法で候補の二番手は風間しかいない。


 月姫が人気を落として完全に姫候補から外れるならともかく、保険として風間とも距離を近づけておきたいところだ。


「えっと、内容はわかった。俺もそのゲームについて調べたいから、タイトルを教えてくれよ。一緒に攻略しようぜ」

「やだ」

「……」

 

 そう言われたらどうしようもない。


 風間としても自分の力で攻略したいわけだ。攻略サイトとか攻略本をみないでチャレンジしたい時もあるからな。


 眉間にしわを寄せていると、風間は愉快そうに笑った。


「困ってる顔いいね。神原君の困り顔を見るのは気分いいんだ」

「おい」

「ちょっとずつ元気出てきたかも」


 風間の行動と発言はイマイチ読めないな。まっ、それを言ったら他人の心とか誰も読めないわけだが。


 距離の寄せ方がわからずに戸惑っていると。


「すまない、少しいいかな?」


 声を掛けてきたのは、山田君だった。


 ◇


 山田遥斗やまだはるとは我がクラスを代表するイケメンだ。


 彼は元々女子から大人気だった。イケメンであり、身長が高く、成績も優秀で、運動神経もいい。性格だって良い。ボッチで二人組が作れなかった俺に手を差し伸べてくれる聖人で、誰に対しても優しい。


 夏休み明けからは更に人気がアップした。夏休み前よりも明らかにレベルアップしていた。おしゃれに気をつかい、肉体を鍛えたとの噂だ。

 

 姫がいるなら王子が存在してもいいだろうと一部の女子が言い出し、裏では”山の王子”と呼ばれているらしい。


 そんな王子でも残念ながら姫には届かなかった。


 山田は隣の席になった男子を落とすことを楽しみにしていた風間の餌食になり、二度も告白して失恋した。そもそも夏休みにレベルアップしたのも風間を落とすためだ。


「あっ、風間に用事か。どうぞ」


 譲ろうとしたら。


「いや、用があるのは君だよ。神原」

「俺に?」

「ちょっといいかな」


 クラスメイトなので喋った経験はあるが、別に仲良しってわけじゃない。とはいえ断る理由もないので了承する。


 山田は隣に立った。

 

「俺は神原が羨ましいんだ」

「えっ?」


 意外すぎる発言だった。

 

 こっちからしたらイケメンで女子からモテモテの山田のほうが遥かに羨ましいけどな。

 

「最近、神原のことがよく話題になるんだよ。姫と仲良しで羨ましいって。さっきも一緒に登校していただろう」


 なるほど、そういう用件か。


 姫と仲良くしている俺はかなり目立っている。悪い意味で。

 

 ただ、悪目立ちも仕方ないと思っている。姫攻略とかいう行為には誠実って言葉の欠片すらない。最低の野郎だと後ろ指をさされるのは覚悟している。だから周囲に何を言われても受け入れようと思っている。


 非難されても長文投げ銭という黒歴史が晒されるよりマシだ。あの投げ銭を晒されたら恥ずかしくて生きていけないからな。今の時代なら情報を拡散され、全世界で笑いものにされかねない。


 要するに俺が目障りと言いたいわけだな。


「あっ、勘違いしないでくれ。別にそれをとやかく言うつもりはないんだ」

「……?」

「実は、ある女性が気になっているんだ」


 それって風間のことだよな?


 夏休みが明けて数日後、山田は風間に告白した。その現場を俺はたまたま目撃した。風間が猫を被っていると判明した時だ。


 ……本人が隣にいるのによく言えるな、こいつ。


 隣を見ると、風間は興味なさそうにしていた。大きな声で喋っているから聞こえてはいるだろうけど、あえて反応はしていない。風間からしてみればすでに攻略済みだし、別に興味はないってわけだ。


 ちなみに、山田は俺が告白現場を見ていたことを知らない。


「彼女のことを考えるだけで心がざわつくんだ。誰かとお喋りしている姿を見るだけで心が締め付けられるようだ」

「……」

「相手は大体わかったよな? 神原の近くにいる女性だ」


 だから隣にいるだろ。


 あっ、もしかして山田は反応してほしいのか?


 あえて本人に聞こえるように言っているのは「失恋したけど未だに君が好きだ」という話を遠まわしに風間に伝えようとしているんじゃないだろうか。


 やり方は男らしくないかもしれないが、これも気持ちの伝え方の一つだ。


 イケメンでありながら何度でもぶつかっていくメンタルも所持しているわけか。


 どうやら彼を低く評価していたようだ。俺は相手に恋人がいるかもしれない程度で簡単に折れてしまったというのに、この諦めの悪さは本物のイケメンだ。攻略済とはいえ、ここまで気持ちを向けられたら風間も嬉しいだろう。


「ここまで言っても伝わらないらしいな」

「伝わらないというか――」

「わかった。俺も男だ。ここは濁さずにはっきり言おう」


 山田はまじめな顔で口を開く。


「君の妹に惚れている!」


 ……はぁ?

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