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第3話 幼馴染は勝ちヒロイン?

 月曜日の朝。


 その日は、心地のいい朝だった。


 本来なら憂鬱な気分になる曜日だが、中間テストが終わった月曜日の朝は格別だ。テストが嫌ってわけじゃないが、気分が楽になる。


 心地がいい理由は他にもある。


 現在、俺の隣には幼馴染である月姫がいる。学園一の美少女との登校にテンションが上がらないはずなかった。


 もっとも――


「兄貴が一緒とか最悪なんだけど」


 こいつが居なければ最高だったけど。


「ねぇ月姉、どうして兄貴が一緒なわけ?」

「たまにはいいじゃない」

「よくないんだけど。朝からテンション下がる」

「兄妹が一緒に登校するとか微笑ましいじゃない。それに、これならゆう君と一緒に学校まで行けるし。だよね?」


 声を掛けられ俺は頷く。


 月姫と一緒に登校すると多くの男子から睨まれる。だから二人きりで登校とか無理だ。だがそれも彩音と一緒なら話は別だ。周囲の奴等はこっちをおまけ扱いするだろう。


「けどさぁ」

「文句言わないの」


 彩音の奴はまだ不満そうだが、月姫がそれを宥めている。


 てか、告白しろとか言ってたくせにその態度はおかしいだろ。付き合ったら一緒に登校とか当たり前になるって気付かないのかよ。


 ……月姫と付き合うか。


 関係を修復してからすぐに中間テストがあったので恋愛に関する感情はひとまず横に置いておいたが、そろそろ本気で考えなければ。


 月姫に対する恋心はあるのか?


 自分に問う。


 正直、今も昔も月姫は可愛いとは思う。こうして一緒にいるとドキドキする。ただ、それが恋なのかと言われたら微妙なところだ。何故なら過去に一度諦めてしまった恋だから。


 それにあの時と違い、俺には推しのVtuberとネトゲの嫁がいる。


 推しも嫁もリアルで出会っているわけじゃないが、最も強く意識している異性であることは間違いない。


 他にも考えるべき点はある。月姫の本心がわからない。


 従姉の彼氏とはいえ、こいつが中学時代にイケメンの先輩と出掛けたのは事実だ。ということは、月姫はイケメンが好きなのだろう。イケメン嫌いの女のほうがめずらしいけどさ。


 認めるのは癪だが、俺はイケメンじゃない。


「ジッと見て、どうしたの?」

「っ、何でもない」


 慌てて視線を外す。


「どうせ変なこと考えてたんでしょ。胸とか脚を見てたんだよ」


 失礼な奴だ。


 まっ、あれこれ御託を並べてもしょうがないな。彩音の奴を姫にしなければ俺の黒歴史が晒される。全力を尽くすしかない。

 

 攻略候補として一番手なのは月姫で間違いない。


 幼い頃から知っている相手だし、弁当を作ってくれた点から少なくとも俺を嫌ってはいないだろう。まずは総選挙で愚妹を姫にして、身の安全を確保するのが最優先事項だ。


「そういえば、もうすぐ球技大会だね」

「来週だったな。中間テストのせいですっかり忘れてた」

「テスト後のご褒美みたいな感じだからね。ゆう君はどの種目に出るの?」

「サッカーだな。運動は別に得意でも苦手でもないけど、サッカーならさほど目立たないだろうし。適当に後ろのほうでちょろちょろしてるよ」


 運動は苦手ではない。


 苦手ではないのだが、別に得意ってわけでもない。少ない人数の種目だとミスった時に目立つので、こういう時は人数が多い種目のほうが好きだ。


「月姫は?」

「バスケだよ」

「人気あるよな、バスケ」


 俺のクラスの女子もバスケ希望者が多かった。


「頑張ってね。応援にいくから」

「応援は嬉しいけど、月姫のほうも頑張れよ」

「兄貴はどうせ役立たずでしょ。オウンゴールはしないでよ。恥ずかしいから」


 やかましい。


 そんな感じのやり取りしていながら歩いていると、学園に到着した。相変わらず至るところ視線を浴びる。


「じゃ、また後でね」

「またね、お兄ちゃん」

 

 月姫と彩音が去っていく。


 しかし相変わらずの猫の被りっぷりだな。あそこまで行くと怖いってレベルだぞ。

 

 ◇


 学校に到着した俺は教室に向かう。


 その途中だった。


「おはよう。今日も朝からアツアツだったね、神原君」


 声を掛けてきたのは土の女神の二つ名を持ち、俺が人生二度目の恋をした相手でもある土屋美鈴だ。


 妙に嬉しそうな顔をしていた。


「お、おはよう。別にアツアツじゃないぞ。俺は単なるおまけだ」

「嘘吐かなくてもいいって。宵闇さんは運命の相手なわけだし」

「だからあの噂は――」

「でも、幼馴染がいるっていいよね。勝ちヒロイン確定だし」

「……勝ちヒロイン?」


 昨日は散々負けヒロインと聞いたから意外だった。


「うん、勝ちヒロイン」

「……そうなのか?」

「完全に勝ちヒロインだよ。国民的なアニメだとヒロインの多くが幼馴染でしょ。ほら、思い出してみてよ」


 頭の中にいくつもの国民的アニメを思い浮かべる。


 体が小さくなってしまう探偵作品だったり、未来から猫型のロボットがやってくる作品だったり、亡くなった双子の弟のために美少女を甲子園に連れて行く作品などは確かにヒロインが幼馴染だ。


 ある意味では当然だろうな。


 国民的な作品でヒロインが浮気するわけにはいかないし、負傷退場とかさせたら炎上するだろう。幼馴染がヒロインの時点で勝利が確定しているようなものか。


「幼馴染ってだけで最強だもんね。幼い頃から思い出を共有してるし、お互いに性格も知ってる。夫婦みたいなものだからね」


 土屋がそう言うと。


「わたくしも同意見ね。幼馴染は勝ちヒロインよ」

 

 そう言いながら登場したのは氷の女王の二つ名を持つ、氷川亜里沙だった。

 

 またこの二人か。最近、よく一緒にいるところを見かける気がする。

 

「……今さらだけど、二人は仲良しなのか?」


 尋ねると、迷わず肯定した。


「以前、少しお喋りする機会があってね。すっかり息が合ったのよ」

「そうそう、話してみたら気が合ってね」


 意外な組み合わせな気もするが、妙にしっくる来る気もする。


「話を戻すけど、幼馴染は完全に勝ちヒロインなのよ」


 氷川は断言した。


「宵闇さんの前に1位だった姫も幼馴染の男子とくっ付いたのよ」

「えっ、そうなのか?」

「昨年卒業してしまったけどね。生徒会の副会長を務めていて、本当に素敵な人だったわ。わたくしは彼女に憧れていたのよ」


 へえ、あの氷川にも憧れの人がいたのか。


「先輩も宵闇さんと同じく入学からずっと1位で、姫ヶ咲学園史上最高の姫と謳われていたわ。わたくしでも目を奪われるくらいの美しさだったわね」

「あっ、わたし知ってるかも。チャラ男っぽい人とカップルになったって聞いた」

「その方で合ってるわ」


 俺も見たことあるな。去年卒業したが、チャラ男っぽい人とめちゃくちゃ美人な先輩が仲良く歩いてる姿を。


 二人の周囲が幸せな空間で満たされていたのをよく覚えている。


「実はチャラ男の先輩も凄くモテたのよ」

「意外だな」

「見た目はチャラ男だけど、内面が凄くしっかりしていたらしいわ。その人を巡って争いが起きたのだけれど、先輩が勝利したのよ」


 初耳だった。

 

「つまり、幼馴染は勝ちヒロインというわけよ」

「間違いない。これはもう世界の真理だね」


 結論が強引すぎるだろ。


「だから神原君も宵闇さんを大事にするといいわ」

「同感。他の女子には目もくれないほうがいいよ。例えば、イケメン女子とか」

「後輩も止したほうがいいわね」


 思考を誘導されているような気もするが、つまりこの二人は幼馴染は勝ちヒロインと言いたいわけだ。


 友達と同盟相手の言葉はちょっとだけ頭の片隅に残った。

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