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第2話 幼馴染は負けヒロイン?

 彩音が部屋から出ていき、晩飯を食べた後。


 俺はパソコンの前で待機していた。予定されていた時刻になると、待ちに待った配信が始まった。


『今日も元気に舞い降りました。あなたの心に小さな灯火を、毎日を楽しく生きる個人勢Vtuberの不死鳥フェニです』


 今日は久しぶりに推しである不死鳥フェニの配信がある。


『みなさん、こんフェニです。ようやく中間テストから解放されて、配信が出来るようになりました。今日はいっぱいお喋りしましょう』


 脳が溶ける甘い声に俺の気分も高まってきた。


 いつもの挨拶から始まり、フェニは話を始める。最初は近況報告だった。フェニが通っている学校でも中間テストを行っていたらしい。


 本人いわく成績は結構良いらしいが、今回のテストではちょっと不調だったらしい。直前に集中力を欠くような出来事があったそうだ。心配になるが、体調とかの問題ではないと言ったので大丈夫だろう。


 近況報告があった後。


『さて、雑談のテーマを募集します』

 

 フェニがそう言うと、コメント欄が加速する。


 コメントの多くはフェニの親友との関係についてだ。以前、フェニは親友から告白されたことで悩んでいた。その後の配信で無事に仲直りをしたと言っていた。続報が気になっている視聴者は多いようだ。


 ――親友との関係は気になるかも。


 俺もその後が聞きたかったのでコメントを打つ。


『あっ、ヴァルハラ君いらっしゃい。心配してくれてありがとね。無事に仲直りした親友とは今も仲良しだよ。昨日もテストの打ち上げで遊びに行ったんだ』


 仲直りできて何よりだ。


 フェニは親友と仲直りしてからの日々を語る。楽しそうな声色で、本当に仲のいい相手だとわかる。

 

 それからいくつものコメントを拾い、雑談は続いていく。


 数十分の時間が経過した頃、コメント欄で最近話題になっているラブコメ作品についての話題が出た。


『あっ、その作品で思い出した。これは前々から言うつもりだったけど、この場を借りて言っちゃうね。あのね、幼馴染は負けヒロインが似合うと思うの』


 不意にフェニがそう言った。


 急にどうした?


 そう思ったのは俺だけじゃなく、突然の発言にコメント欄がざわつく。


『突然だったよね。実はフェニね、最近ラブコメマンガとかラブコメ小説をよく読むの。それでね、どの作品でも幼馴染は最終的に負けヒロインなんだ。幼馴染ってかなり有利な立場なのに、最後には必ず正ヒロインに負けちゃうんだよ。いつも負けてるから、幼馴染は負けヒロインが似合うと思うようになったんだ』


 言われてみれば幼馴染が負けヒロインの作品は多い。


 創作で登場する幼馴染はツンツンしてしまったり、素直に気持ちが伝えられなかったりする。最終的に幼馴染は噛ませ犬となり、正ヒロインに主人公を奪われて後悔ですすり泣く。


 フェニの発言に視聴者の反応は半々くらいだ。ここがフェニの配信だからか、若干賛同が多いだろうか。


『それに、幼馴染の女の子はいつも浮気するんだよ。酷いよね。フェニならそういうこと絶対しないのに。だから、幼馴染は負けて当然だと思うんだ』


 幼馴染は負けヒロインか。


 頭の中で月姫の顔が浮かぶ。


『あっ、ちなみにフェニのおすすめヒロインはギャップがある子だね。普段とは別の一面がある女の子っていいよね』


 フェニはギャップ萌えだったのか。


 昔から男女で人気がある。普段はツンツンしてるのに、家では甘えたがりみたいな感じとか。


 女子目線でもギャップ萌えはあるらしい。いつもは軽々しく振る舞っているのに実は真面目だと判明した時だったり、強面の男子が可愛い動物が好きだと知った時などに感じるという。


『具体的に言うね。例えば、普段はイケメン風なのに実は乙女だったりとかね。そういう女の子って素敵だと思う』


 イケメン風といえば、身近な存在では不知火翼がそのポジションだ。


 あいつの中身が乙女なのかは知らないが、ギャップがあるのはいいかもしれない。もし不知火に乙女っぽい一面があれば人気がアップしそうだ。例えば可愛いぬいぐるみを抱いて眠っていたりとかさ。


 ただ、不知火は無理だ。


 あいつには親友である土屋がくっ付いている。


 俺としては土屋と揉めたくない。彼女とは俺の都合で話さなくなっていたが、その関係も修復できた。友達に戻ったのに揉めたくないし。


『じゃあ、次の話題に行くね――』


 少しばかりもやもやした気持ちになり、配信は終わった。


 ◇


 フェニの配信が終わると、俺はネトゲを起動させる。


 中間テストがあったので最近は繋いでなかった。


 ログインして間もなくすると、待ってましたとばかりに嫁からチャットが届く。場所を教えると、すぐにノンノンがやってきた。


『ダーリンだ。久しぶりっ』


金髪エルフの姿を見ると妙に心が落ち着いた。

 

『すまない。中間テストがあった』

『ノンノンもテストでしばらくログインしてなかったから別にいいよ。まっ、ホントは昨日ログインしてくると思って待ってたんだけどね』

『悪い。ログインしようと思ってたけど忙しくてさ』

『罰として今から狩りにいく場所はノンノンが決めるから。はい、行くよ』


 ノンノンの独断で狩場を決め、準備をしてから出発する。


 久しぶりなので難易度が低めの場所でしばし狩りを楽しむ。嫁とあれこれ話をしながらプレイするのは相変わらず楽しかった。多少繋いでなくても連携がばっちりなのは夫婦の絆かもしれないな。


 狩りが終わり、家に戻ってきた。


『狩りも終わったし、いつもみたいにお喋りしよ』

『だな。最近はあまりログインできなかったから話したいことも色々あるし』


 近況報告も兼ねてノンノンとお喋りした。


 推しの配信を聞いてると幸せな気持ちになれるが、嫁との会話も最高だ。気分が高揚し、時間を忘れてしまう。


 中間テストやゲームの話題を経て、話は高校生らしく恋愛の方に向かっていく。


『そういえば、ノンノンは最近考えてるんだ』

『何を?』

『幼馴染は負けヒロインだなって』


 さっき似たような話を聞いたな。


『急にどうしたんだ?』

『最近読書にハマってるの。それで思ったんだ。最終的にはどの作品でも別のヒロインが勝つんだなって。登場する幼馴染は学校で一番の美少女とか多いけど、結局主人公を盗られて負けちゃうんだよね』


 推しも同じようなこと言ってたな。

 

『そういう作品は多いよな。でもフィクションの話だろ。現実じゃない』


 そもそも学校で一番の美少女が幼馴染とか奇跡みたいな確率だろ。まあ、俺の場合はたまたまいるけどさ。


『幼馴染が負けヒロインなら、勝ちヒロインは誰だ?』

『そこは作品によるけど、個人的なおすすめは下級生かな。ノンノンは後輩ヒロインを強く推すよ』


 後輩ヒロインね。


『理由を聞いてもいいか?』

『可愛くて健気な後輩は最高だよ。同級生だと見慣れてるけど、後輩だと新鮮な気持ちになるでしょ。アニメとか小説でも後輩ヒロインはかなり強いし、最終的に主人公が幸せになるエンドが多いんだよね。ハッピーエンドを迎えるには後輩ヒロインを落とすのが最善だと思うんだ』


 ラブコメ作品を頭に浮かべるが、なるほど後輩ヒロインは数多く存在する。最近は後輩ヒロインが勝利するタイトルが結構人気だったりする。


『相手が大人しそうな子だとさらにベストだと付け加えておくかな』


 大人しくて可愛い後輩か。

 

 その条件に当てはまるのは花音か。花音は確かに可愛いし、彩音のような性格ブスと友人が出来ているくらい凄い奴だ。


 ただ、残念ながら花音も無理だ。


 あいつにはシスコンで過保護すぎる姉がいるし、我が妹からもストップを掛けられている。

 

 ……しかし、幼馴染は負けヒロインか。


 推しと嫁が放った言葉が脳裏に強く残った。

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