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第25話 次なる標的?

 日曜日の夜、例の時間がやってきた。


 すでに恒例となった定期報告だが、その日はいつもと様子が違っていた。部屋に彩音が入ってくるのは普段と変わらないのだが、パッと見てわかる程にテンションが高かった。

 

「花音と友達になったわ!」


 そして、開口一番の台詞がこれである。


「ほう、そいつはおめでたいな」

「あっちがどうしても言うから仕方なくだけどね!」


 その割には満足気な表情を浮かべていた。めちゃくちゃ嬉しかったに違いないが、あえて突っ込まない。


「あの子、意外と見る目あるんだよね。あたしを凄い褒めてくれるし、実は前々から仲良くしたかったとか言ってくれたの。今までは悔しくて認めたくなかったけど、今ならあいつを認めてあげてもいいわ。よく見ればめちゃくちゃ可愛いし。さすがはあたしよりも先に姫になった女といったところかな」


 あれだけ敵意を向けていたのに、友達になった途端にこの豹変ぶりである。我が妹ながらチョロいな。


「今後も仲良くしていくのか?」

「当然でしょ。可愛い女の子同士は仲良くしておいたほうがいいから」

「……まあ、そうだな」


 姫レベルの可愛い子が一緒にいると華やかな雰囲気になる。性格はさておき、学園で7位に輝いた彩音も姫に近しいレベルだ。

 

 こいつに友達が出来たのはいいが、そこは俺には関係ない。今の俺にとって重要なのは別のところにある。


「で、花音の攻略をストップするように指示した理由を聞かせてくれ」


 引っかかっていた質問をすると、花音は眉をひそめた。


「聞きたいの?」

「気になるだろ」

「向こうから友達になりたいって言ってきた今だから話すけど、実はこっちから友達になってやろうかと思ったんだよね。ほら、兄貴が言ってたじゃん。花音と仲良くなるルートは存在するのかって」


 友達になりたいと言ってきたのは花音のほうだが、実は彩音のほうからも同じ申し入れをするつもりだったのか。


 上から目線なのが絶妙にムカツクが、今さらなのでいい。


「で、それが攻略と関係あるのか?」

「察しが悪いわね。もし花音があたしと友達になった場合のこと考えてよ。友達が兄貴みたいな気持ち悪い奴の彼女とか最低じゃん」


 はぁ?

 

 息を吐くように俺を馬鹿にしやがって。


 そこはいい……ってことはアレか、こいつは花音と友達になるつもりだったから俺の攻略をストップするように言ったのかよ。


「実際友達になったわけだが、今後はどうなるんだ?」

「攻略ストップに決まってるでしょ。あたしの親友が兄貴の恋人とか冗談でもありえないから。あたしと花音の尊すぎる美少女空間に兄貴みたいなのがいたらぶち壊しになるじゃん。常識的に考えてよ」


 いつから親友になったんだよ。てか、酷い言われようだな。俺の存在を汚物のように言いやがる。


 イラっとしたが、ある意味では救われたな。


 ノンノンには続行するよう言われたが、俺としては下級生の教室に行きたくなかったので攻略ストップはありがたい。


 それに、俺のせいで友情にヒビが入るとか絶対嫌だしな。後々恨まれてグチグチ言われるのは目に見えている。攻略ストップならこれ以上は関わらなくて済む。


「ただ、問題があるんだよね」

「問題?」

「演技とはいえ、兄貴とあたしが仲良しって言ったでしょ。そのせいで花音が勘違いしてるみたいなんだ。連絡してる時とかも兄貴の存在をいちいち気にしてるの」

「俺のせいじゃねえぞ!」


 仲良し兄妹とか言い出したのはおまえのほうだ。


「言われなくてもわかってる。これはあたしのミスよ。今さら嘘だったとか言いにくいし、今後面倒なことになりそう」

「自業自得だな。このアホ」

「うっさい!」


 アホな妹を嘲笑ってやると、彩音が短い足で俺を蹴ってきた。大した威力じゃないのでダメージはない。


「調子乗らないで。こっちが兄貴の秘密握ってること忘れないでよ」

「ぐっ」


 スマホをぶらぶらさせる彩音の顔面を殴りたい衝動に駆られながらも、俺は押し黙った。


「というわけで、本題。さっさと別の姫を狙って」

「……まだ続けるのか?」

「当たり前でしょ。あたしの目的は確実に姫になること。花音と友達になれた件は褒めてあげるけど、それとこれとは別だから」

「別の姫って言われてもな」


 接触していない姫は残り二人。


 片方は接点が皆無で誰も近づけない絶対零度の女王様。

 片方は接点ありまくりな疎遠になった幼馴染の聖女様。


 どっちも無理だ。女王様のほうは冷たい目で睨まれながら一蹴される未来しか見えないし、幼馴染のあいつに関しては俺のメンタルが辛くなりそうだ。


「どうせ女王様は無理だから、次の攻略相手は決定したようなものでしょ。さっさと話しかけてきなさい」

「……無理だ」

「家も近くなんだし、別に今から家に行ってくれてもいいんだけど?」


 この時間に行っても迷惑なだけだろ。


「まっ、あたしとしてはどっちでもいいから。別にその二人以外の姫を攻略完了してくれてもいいわけだし」


 そっちも無理だ。


 他の姫と進展はない。進展する未来も全然見えない。


 風間は相変わらず隣の席でからかってくるが、それだけだ。不知火と土屋はたまにやってきてお喋りするが、世間話をするだけで他には何もない。


 変化といえば周りの視線だろうか。男子と女子から様々な感情が入り混じった視線を向けられる。姫と仲良くしていることが影響しているのだろうな。ちなみに女子から視線を向けられるのは男子で唯一不知火と仲良しだからだ。


 周りの連中と攻略は全然関係ないのでやはり進展はない。


 さて、どうする。


 頭の中をフル回転させるが、打開策は見えない。


「……少し休憩していいか」


 俺の口から出たのはそんな言葉だった。


 残りの二人を攻略できる気が全くしないし、かといって今まで出会った姫をどうこうできない。対策を講じる時間が欲しかった。


「休憩?」

「ここまで毎週頑張ってきただろ。その、疲れちまってさ」


 風間から始まり、土屋と不知火と接触し、そして今回の花音だ。


 毎週のように姫と接触してきた。今まで女子とまともに喋って来なかったので精神的に疲弊していた。


「まっ、好きにすれば。どうせ二学期末まで総選挙はないんだし。その選挙であたしを姫にしてくれれば別に問題ない――」


 その時、彩音のスマホが音を発した。


「花音からメッセージだ!」


 相手はどうやら花音らしい。彩音は上機嫌で立ち上がった。


「これから楽しくお喋りするから部屋に戻るわ。今後の話だけど、あたしが姫になれれば休憩しながらでもいいよ。攻略のほうは兄貴のペースでよろしく」


 鼻歌を口ずさみながら悪魔が部屋を出ていった。しばらくすると非常に上機嫌な声が隣の部屋から聞こえてきた。家の中であいつの猫を被った声を聞くのは久しぶりだが、いつ聞いても慣れない。


「……はぁ、寝るか」


 考えるべきことは多いのだが、何もかも忘れたくて俺はベッドに潜った。次なる標的は未定だ。

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