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幕開け

カクヨム様の方で初めから投稿しています。

悲しいことにあちらでは誰も見てくださっていないので立ち寄ってくれると嬉しいです。それとカクヨム様限定で新たな物語を書いてるので、読んでくれると嬉しいです。


 ブルー・パレス南の内側関所に人だかりが出来ていた。およそ数は50人だろうか、ただの市民とは違うようで一人一人が武装に身を包んでる。

とはいえ街の衛兵や騎士という訳でも無い。

武装はしているが一人一人の格好はてんでバラバラ。身軽な格好をする者がいればマントを羽織る魔法使いのような格好の者もいる。


そう、それらの正体は冒険者だ。

とある依頼を遂行するために集まって来たのである。


そしてその人混みの中に四人の冒険者がいた。

剣を持った二人の男性に弓とステッキを持った二人の女性。


星空星ステラと言われる冒険者グループに所属する彼らもまた、今回の依頼を受けるためにここに集まったのである。


リーダーであるロサは隣を見る。


「ヴァルテル、装備はバッチリか?」


「ああもちろん。これからお姫様の城に向かうっていうのに武器が錆びてたらカッコ悪いことこの上無いだろ?」


「全くその通りだ」


それにしても。


ロサは周囲を見渡す。

多数の冒険者が関所の一角に集まったことで現在自分達がいる場所はぎゅうぎゅうのすし詰め状態だ。

関所は広いので散開すれば良い話だが、生憎街の復旧が急がれる現状では通りの通行の邪魔になるために迷惑はかけられない。


その結果ロサの左手が前方の女性のお尻を触った。

触られた女性がくるっと振り返って睨みつけてくる。


「……おっと失礼」


落ち着いたように慌てたように謝罪すると彼女は不満げではあるが前を向き直した。

危ないところだったがどうやら助かったらしい。


「ん、どうかしたか?」


「いや…なんでもない」


それにしても。


「ここまで受注者増えるとは。

やっぱり皆んなお姫様に会いたいのかもしれない」


ロサは誤魔化すように話を続ける。

どうやら隣のヴァルテルには気付かれてないようだ。

というかそれよりも後ろにいる恋人であり同じ冒険者グループのリアネにバレてない方が嬉しいのだが。


「それはどうか分からないけど報酬としては破格。

前払いと後払いの2回払いで信用もあるし、辺境ではあるけど立派な城と噂のホワイトローズ城も見られる。何より徴兵される心配がない。こんな高待遇で美味しい仕事を受けない訳にはいかないだろ?」


「確かにそうかもな」


「てかあれなんだろうな?」


「ん、なんだ?」


「ほらほらあれだよ、他の馬車より一回り大きい漆黒の馬車と真っ黒の馬。他よりすごい高級な感じがするけどこの依頼でそんな大物が来るのか?」


「えーっと……」


武器と人々の間をすり抜けるように視線を奥へとやる。するとそこには無数の馬車に、ヴァルテルが言っていたであろう一際豪華な馬車があった。


「たしかになんだあれ?

もしかしたらブルーパレスにも王族だったり貴族が滞在していて、それを迎えに来た馬車とか?

それとも誰か大切な人を城に匿うためなのか?

う〜〜ん、よく分からんな」


「………」


それを聞いたヴァルテルは思わず首を傾ける。

彼にはどうしてもそうだとは思えなかったからだ。

どちらかと言うと、自分達と同じように城を守るための人員をブルー・パレスへ向かいに来たと言われた方がまだ信じられる。


では迎えに来た存在は一体誰か?

この国の防衛面のトップであり特殊部隊の隊長と言われる騎士長だろうか。かなりあり得る。

今は不明瞭だが先日まで騎士長が街に滞在していたという噂も残っている。実際、街の広場で勝鬨を上げたのは騎士長だと言う。


とはいえあまりしっくりこない。

なぜならこの国の防衛のトップであるならば東方の地へ向かっているはずだ。現在東方の地では領地を越え侵略してきた帝国軍と、それを防ぐ王国軍との間で激しくやり合っていると聞いている。


そんな一大事の時に言い方は悪いが、王女を守っている暇などあるだろうか。

自分には到底あるとは思えない。


では一体誰なのだろうか。


思考の渦に捕われていたヴァルテルはハッと気が付いたような表情をする。


まさか……。

あの馬車に乗るのは……。


「――蒼翠のフェンリル」


気付けば自分の口からその名前が飛び出していた。

少し前からこの街で名を轟かせ、とんでもない実力を見せつけて、危うく自分が戦いそうになった存在。

蒼翠のフェンリルと名乗る者の名を。


「おいおいマジかよ。

馬車にあの人が乗るって言うのか?」


「王女を護衛するってなら一番あり得ると思わないか?他の騎士達は戦争で忙しいしこんな高級そうな馬車でお出迎えするぐらいなんだ、かなりの大物で間違いない。そして今の条件でこの街に滞在している存在と言ったらあの人しかいないだろう」


「まあ確かに否定できなくもないな」


「……ちょっとあんたら何ぼさっとしてんの。

もう執事の方が来たわよ」


人混みの中、不意に後ろからグループのメンバーであり、ロサの恋人であるリアネが声を掛けてきた。

急いで二人は身なりを整えると他の冒険者と同じように前を向く。


いつのまにかそこに一人の男性が立っていた。

それは背がピシッとした優しげな老年の男性。

黒いスーツに身を包み、赤い蝶ネクタイを胸元に付け、丸眼鏡をかけている。


いかにも執事という言葉が似合っている彼はあたりを見回して満足げにニコリと微笑むと、綺麗な一礼をする。そして口を開いた。


「お忙しい中、わざわざ私共の依頼を受けて頂き誠に感謝申し上げます。私は王女様の執事であるサウザーと申します。早速ですがこれから王城までの詳しい日程、ルートを説明いたしますので、是非ともご傾聴下さい」


△△△△


辺境の城に護衛へ向かうといっても簡単に到着するわけでは無かった。一向はブルーパレスから南に向けて丸一日馬車で移動したが、まだまだ城の様子は伺うことは出来ない。


それもそうだ。今から向かうホワイトローズ城は別荘としてもだが、主に王族や重要人物を匿うため使われてきた。そのため王国の中でもかなり辺境に位置する。とはいえあと1日2日もあれば城にたどり着くことは間違いない。幸いなことに夜盗や帝国の暗殺者部隊とも遭遇していないので、この一団が帝国にバレているというわけでは無いようだ。


陽が沈む平野で一団は野営の準備を終えていた。

これだけ数が多いとキャンプ場ではないかと錯覚さえしてしまうが、辺りを警戒する冒険者もいるのでそんなことはない。


夜空が見え三日月が顔を出す。

ロサ達は放射状に組んだ焚き火で体を温めていた。


「しかし最近はよく冷えやがる。

秋ももうすぐそこまで迫ってるのかもしれないな」


「寒いのはやめてほしいところだ。

朝がキツイのと魔物が山に篭ってしまって稼ぎが悪くなるからな」


ロサの発言にヴァルテルはそう返す。

するとロサの隣のリアネは笑って、


「それより寒くなるのは懐なんじゃない?」


「それは俺じゃなくてロサの方だろ。

なぁロサ?確かお前は結構浪費癖があるよな」


「まぁ否定はできん。

それでも寒くなると街の外からあんま出ねぇから街を散策してるとどうしても使っちゃいたくなるんだよ」


そう言ってロサは誤魔化すように頭を掻く。

その様子を見て二人は笑った。


まぁ確かにロサの言い分も分かる。

何も目的はないとはいえ、通りを歩いているとついつい店に寄ってしまうのはよくある話。それに冒険者という一度で大金が入るような職業は財布の紐は緩くなりがちだ。


しかしそれでもロサは何かと買いすぎである。

彼は収集癖がありマジックアイテムや高級な衣服を買ったりしている。人に迷惑与えない範囲の趣味なのでそれは大いに結構だが、まるで下流階級の貴族が見栄を張るために一流ブランド品を集めているように見える。自分だったらあまりなりたくはない。


「ちょっとはレトを見習って欲しいわね。

レトはしっかり倹約してるのに使う時は使うから、分別がしっかりしてるわ。それにしてもあんなに大量の魔導書を買ってどうするの?

大魔法使いにでもなるつまり?」


「いやそんなのにはなれないし、ならないよ」


レトは遠慮気味に手を振って否定する。

しかしその後彼女はでも、と話を続けた。


「どこかの国の魔法に関する施設だったり機関に勤めてみたいかな〜って思ったり…思ってなかったりはする」


「えっすごいわね。

つまりそれは公務員って事でしょ?」


「うんまぁそういうことになるね。

でも公務員じゃなくても魔法に関する仕事に付けたらそれで良いし、公務員もなれるか分かんないけど」


レトは誤魔化すように笑った。

こんなことを人前で話すのはだいぶ恥ずかしい。

それでもこれがレトの夢だ。冒険者をやってるのはつまりそれに対する資金集めと、他の職業より空いた時間が多くできるのでその時間を勉強に費やすためであった。


「ほら〜ヴァルテルったら不味いわね。

一人だけ置いてきぼりになるかもしれないわよ〜。

大丈夫?」


「全く何が大丈夫だ。

別に構わなねぇよ。俺は俺の道を進むだけだ……」


ニヤニヤといつものようにからかう彼女に空元気で彼は返す。しかし内心ヴァルテルの気持ちは極めて複雑な心情だった。


それはもちろん彼女に、レトに対する気持ちからくるものである。思いは告げていないがヴァルテルはレトに片思いをしているのだ。


いつか伝えなくてならない。

そう思っているが、どうしてもこの気持ちを伝えられないのである。


ヴァルテルは心の中で溜息を吐く。

そして夜空を見上げた。それはそれは美しい星空が広がっていた。


……全くリアネの奴め。

でもいつかは伝えないとな……。

叶うかは分からないし彼女には夢がある。

こんな事を伝えても迷惑にしかならないって思ってるけど、それでも離れ離れになる前に言わなきゃ一生後悔する。それにもしかしたら四人で冒険できる時間も残り僅かなのかもしれない…。


そんな事をしみじみ愁っていると、静かな夜空に警鐘が響いた。周囲を警戒している冒険者達がマジックアイテムを鳴らしたのだ。


「な、なに!?」


「敵襲か魔物の襲来だっ!

急いで準備をするぞ」


四人は急いで武器を手に取って音のする方向に走っていった。


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