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プロローグ1 森林開拓

 王国騎士長であるカインから魔人討伐報酬として渡された土地は報酬というにはあまりに大きな面積を誇っていた。隣国との国境付近に広がるそれは北から南にかけて20km、東から西にかけて5km程続いている。しかし残念なことにそこは未開の危険な土地だ。


昼夜問わず危険な猛獣、魔物が獲物を狙ってうろついており、あたり一帯どこを見回しても木々が生い茂るだけのジャングルが広がっている。

本来ならば誰も欲しくない緑の海。


しかしそれも1ヶ月ほど前の話。

今はそんな場所の至る所にポツポツと穴が空いている。木々が伐採されて地表が浮き出している穴だ。


そんな秘境に蒼翠のフェンリル、ジーク・スティンは配下のアンデッドともに開拓作業に従事していた。


ジークは中心に立ってアンデッド達に指示をする。


「それはそっち、これはあっちだな」


大岩を持った首の無い上裸の化け物に配置場所を右指で示し、全身黒の鎧を着た騎乗アンデッドに左指でもう一方の場所を指示する。


開拓作業といっても肉体仕事はもっぱらアンデッドの役目であり、ジークは指示役に徹していた。

また指示役といってもやることは簡単。

配置図と現在の状況を見比べながら適正な指示を出し間違いが無いかを確認する。


これだけでいい。


至って単純な作業、だがその分責任重大だ。

軽いミスも気が付かなければ後々大きな問題になりかねない。人間と作業するなら胃がキリキリ痛むのは間違いないだろうが、自分の配下とできるのはかなりの救いである。どうせミスしたところで責められないのだから。


そんな真剣半分半ば軽い気持ちでやっているジークには一つどうしても気になることがある。

かなりむず痒いものの今まで我慢してきた。

だがそれももう限界。


配下のボロボロのローブを着た神官に仕事を任せ、中心部から離れてジークは地下拠点建設地区に向かう。そして周囲を見渡した。


「やっぱりここは木が無い方がいいよな」


ジークが指差したのは木々が密集する一帯だ。

配置図を見れば同じ位置に木と書かれている。

つまりそれは今の状況で合っているということ。

しかし自分からするとどうしても気になってしまう。

地下基地を林で隠すように設計したが、よくよく考えて見るとかなり見栄えが悪くなってしまいそうだ。


森に拠点を作る時点でそんなことを言っても仕方がないかもしれないが、それでも気になるものは気になるし他の背が高い建築物だって建てる予定である。


だったらここはいっそのこと隠密性など無視して少しでも見栄えを良くした方が良いのではないか。あの五人だってここを見物したらそう言うはずだろう。


「でもな〜」


この配置図はみんなで相談して考えた結果なので、自分の一声で取り消すのはなんだか申し訳ない。

しかし後で言っておけば皆んなも納得してくれるだろう。納得されない場合は再度修正し直して、林をまた作れば良いだけの話。


だから周囲のアンデッドに伐採を命令する。

大きな斧や長い剣を持った首の無いアンデッドがいとも簡単に次々と木を切り倒して行った。


ちなみにあれらの名前は首無しの奴隷兵(スレイブデュラハン)

破壊力あるスキルや身体能力を持ったアンデッドだ。知能は低めで小回りが効かない動きのために、繊細な戦いや強敵との戦いには向かないが、壁を破壊する攻城戦や雑魚処理、盾役には丁度いい。


そして良くも悪くも誰もが思い描く様な巨人のイメージの動きをしている。機動力は低いが巨人のようなパワーを有効活用すれば無類の有能さを誇るだろう。

ちなみに先ほどの大岩を持っていたアンデッドもこれと同種だ。


戦闘だけに用いるネクロマンサーは三流、労働に使用するネクロマンサーは二流、自分の分身のように扱えるネクロマンサーは一流だ。

自分もその一流になれる様に目指したい。


そしてこの森林拠点だが、ここでは魔法やスキル、ギフトなどの開発、情報収集を中心とする予定だ。


自分はまだまだ情報不足。

王国に足を踏み入れただけでも五公爵のシルバーと言われる存在、真祖と言われる存在と邂逅したのだ。

この世界全体で見ればまだまだ強い敵は数多く潜んでいることだろう。


現に王都にいるリエルからブラッドレイスを葬る化け物じみた力を持った金髪の女がいるとの報告を受けた。それらは敵ではない、むしろこちらと協力する意向があるらしいが、そのような存在ばかりがいるわけでもない。こちらに牙を向く組織や個人だって現れるだろう。


だから今は着実かつ急速にブラック・ヴァルキリーとしての組織力や団員個人の力を上げることが先決。

そしてこの基地完成の暁には両方が飛躍的に上昇し円滑に支配することも望めるだろう。


そんなことを考えていると木々を切り倒した影響か見晴らしも良くなった。それと同時に日差し受けて自分の腰元の剣も強く輝く。


それはただの光の反射。

しかし自分には違うように見えた。

ジークは美しい剣を撫でるように触る。


……もしかしてこの剣が使ってくれって言ってるのかもな。よし分かった、初めて使ってみようか。


ジークは誰に対してでもなく軽く頷くと、帯刀していた剣を引き抜いた。


残りの木々も首無しの奴隷兵に任せてもいいが、それではつまらない。丁度いい、どうせなら自分も働くとしようか。


右手に持ったのは銀製の剣。

しかし他の剣とは圧倒的に違う特徴がある。持ち手、刀身のあらゆる部分に紫の結晶がこびり付いているのだ。


これは以前、魔力付与の実験の際に作り出すことのできた偶然の産物。製作して以降、飾ってばかりで性能すら試していなかったが、少し気になっていた。


「もういいその程度で結構。

あとは俺に任せてくれ」


そんなことを言ってスレイブデュラハンたちを引かせる。彼らは少し後ろに下がってこちらを観察するようにじっくり見ていた。彼らに頭などないが。


持った剣を上下に動かす。重さチェックだ。

剣は極めて軽く、かなり見た目に反している。

自分はこの剣の具体的な重量を知っていた。

以前測った時に1.5kgと表示されていたのである。

剣としては標準的な重さだが、この結晶が加味されているとかなり軽い部類だろう。もしかしたらそれは魔力付与による特殊効果なのかもしれない。


ジークはまず空中でぶんぶん、と素振りをする。

すると剣筋が結晶と同じく紫に光っては一瞬で虚空に消えていく。


「おぉ、なんだこれ?」


そしてまた一振り、二振り。

またもや剣が通った通り道が紫色に光っては消えていく。


「なんかの特殊能力か……?

それとも魔力付与の剣はこうなるのか?」


よく分からないので取り敢えず後ろを向いた。

すると後ろで控えていた2体のスレイブデュラハンが「自分は分かりません」と言う風に右手を振る。


ただ後ろを向いただけなのだが返答してくれるのか。

全く可愛いものだ。(声は帰ってきてないが)


そんなことを思って再び前を向く。

そして大きな木と相対した。

かなり分厚いが、この剣を持ってすれば余裕だろう。


そして横一線。

地面に根を張った巨大な一本の木は嘘のように真っ二つとなり等しく倒れていく。


「おぉすげぇ…これが魔力付与の実力…?」


はしゃいだジークは右手に力を込める。

すると自分の手から噴き出した闇の炎が剣を纏うように広がっていった。もはやこれは闇の剣。

かなり厨二臭い武器が出来上がった。


そんなこんなで眷属と自分の伐採による結果、目の前に残る木々は数えられる数本だけ。


この剣が切れ味抜群なのは今ので分かった。

ならば今度はどれほどの力に耐えられるのかの検証だ。いざという時に剣が折れてしまっては興醒めだ。


ジークの闇は剣を通り越して右腕全体にまで広がっていく、そして蝋燭が辺りを灯すように闇の光が虚空へと揺らめいていった。仮にこの闇に触れるものがいるならばその者は闇に飲み込まれて汚れ死ぬだろう。

それほどまでに強烈で危険な力。

一般的に闇属性が人々から恐れられる所以である。


そして弧を描くように斬撃を放つ。

波紋の如き一閃の闇がスパッと木々を貫通していく。

範囲内にあった木は全て倒れ、ジークはわざと鍔鳴りの音を森に響かせて納刀した。


……決まった。


ジークは心の中で謎の達成感を感じていく。




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