エピローグ
ゆっくりと玄関ドアが閉まり、俺は名残惜しく思いながらそれを見つめた。
しかし、それはすぐにもう一回開いて、茶髪に眼鏡の男が眉を下げて顔を出した。
「薫~」
「何、忘れ物?」
「うん。薫の補給。」
亮は勢いよくぎゅっと抱き着いてきた。ふわっと身体を包み込む亮のぬくもりは心地良くて、つい力を抜いて身体を預けてしまいそうになるのを頑張って堪えた。
「亮、もう時間ヤバいんでしょ。俺に構ってないで早く行きなよ。」
「えー、薫は冷たいな。俺と会えなくて寂しくないの?」
亮は俺の肩口に額を押し付けながら言う。
「また夜には会えるから。」
「うぅ、俺はそれでも寂しいしつらいの!」
それに、亮はこうやってストレートに愛情を表現にしてくれるから。
だから、俺は五年のハンデがあっても卑屈にならずにいられている。
亮は俺を抱く腕に少し力を込めて、勢いをつけて離れた。
「じゃ、薫、行ってきます!」
途端にあわただしく出て行ってしまう。
最近、出かけるときはいつもこうだ。亮曰く、ゆっくり出てくとまた離れたくなくなるから、とのことで、それはぐずぐずとした態度を見れば納得はいくけれど、置いて行かれる側としては少し寂しい。
俺はスマートフォンを開いた。電源をつけると浮かび上がるロック画面は ”moment”、俺が自殺しようとする前に作ったあのブログのスクリーンショットだ。亮が保存していたものをくれた。
東京に来て、この家で暮らして始めてから知ったことなのだが、亮は”moment”に投稿された写真を見て、あの田舎町への旅行を決めたらしい。
5年前から、自分がこうやって亮に救われて愛される運命だったのかな、と思うとくすぐったくて、不思議な気分になる。でもそれは嫌な感じではなく、ただひたすらに甘い幸せな感情だ。
亮にはまだその話をしていないけれど、もし話したらどんな反応をしてくれるんだろうと考えるその時間が楽しい。
あんなに、亮に見捨てられたらどうしようと不安だった気持ちは、今では微塵も残っていない。亮のあふれるような愛情のもとでは全て跡形もなく消えてしまうのだ。
亮には一生かかっても返しきれないほどの愛をもらった。
俺が隣にいることで
、亮は幸せだと言ってくれる。
ずっと、亮が死ぬその時まで、あいつに寄り添い続けたい。
そして、その時までの全ての瞬間を、それぞれの”moment”を大事にしたい。
それが、今の俺の願いであり、目標だ。
つたない小説ですが、読んでくださりありがとうございました。
少しでも読者の方の心に触れることができたら幸いです。
また別の小説を投稿することができましたら、そちらもよろしくお願いします。