人類皆ぶりっ子説
私は、とにかく可愛いものが大好きだ。
好きな色はピンク。ズボンよりスカートがテンション上がるし、メイクも好き。
自分が好きな自分でいると、私は1日ご機嫌でいられるのだ。
だから
「ほんと毎日芦部さんって、すごいわよねぇ。いつもメイクばっちりで、髪をしっかりセットして。
今からデートに行っても万全って感じでー。www」
「えー、褒めていただいてありがとうございます。メイクとか髪とか色々いじるの好きなんで、嬉しいですー。」
人から馬鹿にされても、私は好きなものをやり続ける。
あの女嫌味も通じないなんて、おめでたいぶりっ子女
ぼそっと後ろで聞こえた小さな声は無視をして、颯爽とその場を離れる。
芦部莉子。25歳。
好きなもの:可愛いもの
私はよく人からぶりっ子と言われている。
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「「かんぱーい!!」」
今週も疲れた日々のストレスと解消するために、ぶり子はサバ子と飲みに出かけている。
「あんたもよく絡まれて大変よね。」
「うん??」
「遠目だったけど、また安田さんに絡まれてたじゃない。どうせろくなこと言われてないんじゃない?」
「あー・・・・まぁ。」
見られてたかーと思いながら、ぶり子は少し苦笑いで、本日の会話を思い出した。
とわいえ、あれくらいの嫌味など慣れているので、そんなに今更傷つくということなどないが、正直、よくわざわざ嫌いな私に絡んでくるものだ。
好きの反対はたしか無関心ではなかったのかな。
「というか、結局のところさぁ・・・」
ぽつりと漏らした言葉にサバ子は相槌を打ちながら、美味しそうにビールを煽っている。
(相変わらず、ほんと飲みに関してはいいリアクションするよねぇ)
そう思いながら、ぶり子は続けた。
「昔から、よくぶりっ子だって言われて、嫌なことそれなりに言われてきたけどね。
そんなこといったら、人類皆ぶりっ子なんだし、どうして、可愛いものが好きっていうだけで、私だけそう言われちゃうのかなーって。」
「・・・・はい?」
不意に手を止めてサバ子は怪訝そうにこちらを見つけた。
どういう意味かと聞くサバ子にぶり子は続ける。
「だって、いつも思うんだよ。
ぶりっ子って本来は【可愛こぶってる】ってことでしょう?つまりは、人から可愛く思われたくて装ってるってことでしょう?
それって、他の人だって、誰かからかっこいいとか可愛いとか思われたくて、お洒落したり、メイクしたりっていうのと違いないと思わない?」
束の間サバ子は珍しくぽかんとした表情の後、刹那爆笑した。
「アッハッハ!!・・・・おっかしー。あんたにかかれば、人類皆ぶりっ子かぁ・・・・・。
・・・・・でも、ほんとねぇ。自分の外見を他人の目から気にしない人間がどれだけいるでしょうね。」
そう、人はいつも他の人の目を気にして生きている。いつもそう思う。私だってそうだけど。
「そう・・・みんな少なからず、思っているはずなら何でこう・・・・、私は色々言われちゃうのか・・・わかんないんだよねぇ。」
ぽつり、と。心底不思議そうに、そして静かにぶり子は語る。
そしたら、皆んなwin-winになれるんじゃないだろうか。ありのままの好きな自分で入れて、周りもただそれを受け入れるだけ。理想論だって、分かってはいるが、絶対にそっちの方が誰だって生きやすいんじゃないのか。
ほろ酔いのせいか、そんな珍しくやや子供のような理想を語る友人にサバ子はふっと、笑う。
「そりゃ、ぶり子。あんたのその性格が本心だと思われていないからでしょ。」
「え?何それ、サバちゃんひどくない??」
ぎろり、とぶり子は睨みつけているが、その様はサバ子からは、上目遣いに可愛らしい女の子が不機嫌そうに見つめられるようにしか見えなかった。
まるでドラマのワンシーンのように、わかりやすく可愛らしい女の子が怒っている。
ここまで顔が可愛いと、不機嫌な表情さえ愛らしく見えてしまうのだから、本当に「可愛い」とは才能だともサバ子は思った。
「きっと言われ慣れているでしょうけど、あんたのその格好や仕草。世間的に、男受けするって言われているやつでしょ?で、世間では、それを自分の好みとは別で、ただモテたいから擬態して装う女が一定数いるわけだ。あんたは、そういう人間だと思われやすいってことなんじゃないの?」
「やだー、私これが素だもん。
でも、仮にこれが装いだったとして、何であんなに嫌われちゃうのかな。」
顔に手を当て、ゆっくりと首を捻るぶり子に、つまみの枝豆をつかみながら、迷わずサバ子は答えた。
「そりゃー、妬みとか色々あるかもだけどさ。一番は、中身のわからない女ほど怖いものってないからじゃない?」
今度は、ぶり子がぽかんと口を開ける番だった。
「なるほど・・・・・それならわかるー。」
わからないものは、怖い。だから、避けるし、嫌う。
なるほど、シンプルな答えだった。
ぶり子の場合、素であるためこの性格は男女問わずこれが通常運転。
逆に、これを擬態と思う人からすれば、いつも擬態して隙のない人間とも言える。
本心が読めない人間、そして、その人に異性がほいほい釣られ、鼻の下を伸ばしていては、女性が警戒心を抱くというのもわからないではないのだ。特に、サバ子だって、当初はそうぶり子のことを思っていたのだから。
「結局、でもどうやってこれが素って思ってもらえるのかなぁ。」
「それを知ってもらったとして、あんたこれまで嫌味をいってきた人たちと仲良くしたいの?」
もー、意地悪ー!
そういって、ぶり子は、サバ子の頬に綺麗なネイルがされた人差し指を突き刺した。
やめなさいと言いつつ今度は、ぶり子の頬をつねろうとするサバ子の手を牽制しながら、今日も2人はぐたぐたとその夜と過ごしていく。