警戒態勢
その日、王宮では上層部の緊急会議が開かれた。
西部の国で相次ぐ怪死事件についてだ。
密偵の集めた情報から、各国は、裏組織《 シヴァ 》の関与があるとして、警戒態勢をとることになった。
クロードもアンジェリーナも、その日は各々会議が長引き帰りが遅くなった。
アンジェリーナがクロードを迎えに行くと、執務室ではまだ話し合いが行われていた。
ぐぅぅぅ
誰かのお腹が鳴り、休憩としてアンジェリーナが空間魔法からだした料理を食べることにした。
緊迫していた空気が少し緩む。焦っても答えは出ないのだ。
「西部の5つの国で、夜会会場での怪死が5件。どれも、屋外の者は何者かに殺されているが、ダンスホール内の人間はほとんどが死因不明。
5件目でやっと隠蔽前に現場の確認ができた密偵の“甘ったるい匂いがした”との証言から、カシムカズラの分泌液が使われた可能性が高い」
アルフォンスは、食後の紅茶を飲みながら考えをまとめる。
「でも、カシムカズラだけじゃ死なないよね〜?」
香水の被害にあったウィリアムは、カシムカズラと断定することに懐疑的だ。
「会場で匂いは確認できましたが、香水の確認は取れていません。被害者の家も捜索しましたが、該当の香水はなかったそうです。匂いの元は持ち去られたとみて間違いないでしょう」
カルロスは、未知の毒の可能性が高いとみている。
「夜会会場で死んでた奴らは、あー、そのー、全員アレなんだろ?」
ルーカスは、死に方について疑問があるが現場の状況が言い辛い。
「全員の死に顔が笑っていたそうですね。魔術師団では、他国で見つかった原材料不明の麻薬が使われたんじゃないかって話が出ました。あれは資料から、使うとかなり強い多幸感があることがわかっています。媚薬と混ぜたのでは?」
アンジェリーナは、現場の状況をうまく誤魔化し魔術師団での考察を話す。
「それにしても、西部の国の対応は酷過ぎる。現場の状況から、どの国も隠蔽したいのはわかるけどさ。火事に偽装して証拠まで燃やすなんて。しかも、偽装したの結局バレてるし」
クロードは、うんざりした顔で語る。
ナズィールに攻め込む予定だった連合軍は、人員を再調整して、ナズィール国の調査、大陸の西側の内偵、各国で捕まる売人と薬物の調査協力や情報共有を行っている。
特に、未知の薬物は各国の脅威となり、今まで放置していた北西部の調査は急務となった。
また、あまり国交がない西側の国々にも調査の手は拡がった。
裏組織《 シヴァ 》が姿を消したことから、またナズィールのように滅ぼされている国があるかもしれないからだ。
皮肉にも、共通の敵の存在が各国の同盟を強化した。
一月程前の西部のある国に潜む密偵からの第一報は、火事による貴族の大量死だった。これには、誰も興味を持たなかった。
しかし、次に届いたのは噂としては具体的過ぎる事件の真相。
『仮面舞踏会で、快楽を求めて新しい薬が使われ、会場にいた貴族は皆、快楽に狂って情交中に笑顔で死んだ。その中には、王子と側近もいた。余りに異様な死に方に、国は事件を隠蔽する為に屋敷に火をつけた。爛れた貴族達でも隠す死に方ってどんなだろうな?』
最初は噂を訝しんだが、翌週には別の国でも火事による貴族の大量死が起こった。
事件が隠蔽されたと判断した上層部に、西部の国に潜む密偵達にはこの事件の調査が命じられた。
噂に出た“新しい薬”が、裏組織《 シヴァ 》を連想させたからだ。
そして、翌週にも別の国で同じような死亡事件が起こる。
同じ国での事件ならば誰かが気づき、少しは調査がされたのだろうが、公表できない事件の現場は、どの国も被害者と共に早々に片付けてしまった。
密偵達は、それでも少しずつ情報を集め、どの事件も仮面舞踏会や秘密サロンといった催しの会場だったことを突き止めた。
努力の甲斐あって、5件目の事件では燃やされる前に調査に入ることが出来た。
「今は、まだ被害が出ていない国の、そういう目的の屋敷を探らせている。次回の犯行があれば、国に発覚する前に見つけられるだろう」
「それよか西部の国に通達しないのか?」
「問い合わせても、どの国も肯かないでしょうね」
「証拠は燃やしちゃったし、嘘の事件を公表しちゃってるし、無理でしょ〜」
「あんまり関わってまたあの王女みたいなのが送られてきても困る」
「せめて、何が使われたのか突き止めて欲しいですね。現状だと、対策が難しいです」




