僅かな違和感
意識がある時の証言と、自白剤を飲んだ時の証言に、少しだけ矛盾がある。それは、ある程度は必ずある事なのに、何かが引っかかる。
私は、報告書を読みながら違和感の正体を探っていた。
捕えた売人達は、全員が不幸な生い立ちで、全てを憎んでいた。
そこに、裏組織の人間が接触し、「世界を壊そう」と勧誘している。
裏組織の名は、《シヴァ》
ナズィールには、来月には連合軍が攻め込む。
なのに何故、私はこんなにも不安が拭えないのか。
彼らの、その異常な程に憎悪を抱く姿に、違和感が募る。
捕まって後がない犯罪者が、何故そこまで。
まるで、洗脳されているような…
ハッとした私は、報告書を読み直す。
違和感は、ココだ。
『家族に愛されたことはない。母は狂っていて、幼い俺を殺そうしたが失敗して、自害した。最低な家族だ』
『優しかった母は、突然狂って俺を殺そうとした。正気に戻った母は、泣きながら「愛してる、ごめんね」と笑って目の前で自害した』
自白剤を飲んだ時の証言が真実のはず。
それなら、彼は少なくとも7年前まで母に愛されていた。やはりおかしい。
彼らに魔力痕はなかった。
しかし、麻薬で魔力回路は狂っている。どこかに洗脳の痕跡が隠されているのか。
記憶をみるか…?
私は、この違和感を無視することをやめた。胸元の浄化水晶に、そっと触れる。
ウィリアム様が言っていた不思議な感覚は、この事なのかもしれない。
彼らは操られている。その正体を掴まなければいけない。
記憶をみる魔法は、リスクが高い。触れる相手の感情が、自分に叩き込まれるのだ。
可能な限りの対策をし、私は彼の記憶をみた。
7年前までの記憶は、憎しみで溢れていた。
しかし、それ以前の記憶は靄がかかっていたり、ノイズが混じっている。
つまり彼は、洗脳されている。
しかし、方法は魔法ではない。
私は、国に報告をあげることに決めた。
そして、その報告は連合軍に共有され、各国で確認されることとなった。
「アンジー顔色が悪いよ」
「臭い…」
「ああ、私もキツい」
久々に夜会に出席したら、珍しく若者に囲まれた。
香水の匂いが混ざり合って悪臭がする。
いや、もう、お前ら香水つけ過ぎだよ…
そっと“ウインドバリア”で自分達を覆う。
「新鮮な空気、最高です」
「はぁ、アンジーに移り香が…」
「クロード様もですね。不快です。今すぐ消しましょう」
クロードとアンジェリーナは、周りに聞こえないようにボソボソと話していた。
“モテる香水”と謳った商品は、今年に入ってからほとんどの商会で販売している人気商品だった。
あんな事件があったのだから、他の商会の香水も売れなくなるかと思いきや、安全性を押し出して、まだ売れてるらしい。何故だ!
夜会では落ち着いた大人達と交流してばかりだった二人は、ほとんど知らない若者達に囲まれながら、若者の品のない話と勢いにドン引きしていた。
「そういえばぁ、ハルトン伯爵夫妻が離婚するって噂があるんですよぉ」
「ああ、愛人と再婚するとか聞きました」
「噂は本当なんですか?」
えぇ?噂の真偽くらい自分で確認しなさいよ。貴族でしょう。
家を継がない就職出来ないチャラチャラしてる男と頭がお花畑で婚約者が決まらない女は、会話もヒドいのね。
これなら、そんなに言葉を選ぶ必要もないな。
「私達に相手にされなかった負け犬の遠吠えでしょうか。それとも、自分の不幸を嘆いて私達の幸せそうな姿を妬んだ可哀想な方かしら。クロード様はどう思います?」
「王宮にいる人なら私達の仲の良さは周知の事実だから、王宮に就職出来なかった人の僻みかもね」
「まあ、そうですわね!王宮だと、王太子殿下に仲が良すぎて注意されるくらいですもの。フフフ」
「私は休み明けに陛下にも揶揄われてるよ。お土産はないのかって。フフフ」
思ったより毒舌な回答と王族を絡めた惚気がきて、若者達は困惑しているようだ。
もっとキツいことも言えるよ?でも、面倒くさいからそろそろ脱出しよう。
「あちらに閣下がいらっしゃいましたわ。クロード様、挨拶に行きましょう。それでは皆様、ごきげんよう」
侍女「あの激甘夫妻に離婚するって噂がでる事が信じられない」
執事「情報規制し過ぎましたかね?他家の使用人に少し噂を流しますか」
アンジェリーナの許可が下り、使用人の暗躍が始まる…!




