やり直し
「今日は、アンジーが一番美しいと思った景色のある場所に連れて行って欲しいな」
いつもはカフェに行ってから予定を決めたりするのに、会って早々にクロード様からこんなお願いをされた。
今まで行った色んな場所を思い浮かべる。なんとなく、人が少ない所がいいなと思った。
「一番美しいかはわからないですけど、誰にも教えたくなかった、とっておきの場所へ連れて行きましょうか」
「そんなとっておきがあるの!?」
「ふふっ、目を瞑ってください」
クロード様が目を瞑ったのを確認して、転移した。
ここは、大森林の中にぽっかり空いた空間にある泉だ。エメラルドブルーに輝く泉は、覗き込めば底まで見える。
泉の周りは一面にスタープラティアが咲いている。ここには何故か魔物もこないので、青空の下、一人で寝転んで過ごすのが好きだった。
「さあ、クロード様、目を開けて」
「わあ!とても綺麗だ!」
「私のとっておきですもの」
「連れてきてくれてありがとう、アンジー」
ゆっくりと泉に向かって歩いていると、クロード様が私の前に跪いた。
「アンジェリーナ嬢、愛しています。私と結婚してください」
まるで、あの日のやり直しだ。
全く、この人は。
ずっと気にしていたのね。
「私も愛していますわ。喜んでお受けします」
あの日のような投げやりな返事じゃなく、心からの笑顔で返事をした。しょうがないから、許してあげますわ。
「ありがとう、アンジー」
立ちあがったクロード様に抱き締められると、幸せだと素直に思えた。
私が前に来た時に作った、岩のベンチに二人で座る。木陰で風が気持ちいい。
「アンジー、少し話を聞いてくれる?」
「ええ、もちろん」
「私は、公爵になるとずっと思っていた。長男だし、殿下の側近だし、家族仲も良かったからね。
国に忠誠を誓う気持ちもあるし、領民も大事だと思っていた。でも、アンジーがあの日、婿入りの道をくれて考えたんだ。私は、公爵になりたくなかった。
どうしても、人を裁く決断が下せないんだ。情けないだろう?」
「人には向き不向きがあります。クロード様は、優しいままでいいですよ。
私は、法律の下に人を裁くことを、必要と考えます。それに、敵対した者には慈悲はかけません。
だから、もう、気にしなくていいですよ」
「アンジーは、やっぱり私に甘過ぎるよ。
ずっと考えてたんだ。私では、釣り合わないんじゃないかって。
アンジーに出会ってから、私の人生はとても楽しくなった。あんなに煩わされた令嬢達も静かになったし、アンジーの知り合いに声を掛けてもらえるようになってから、仕事も上手く進む事が増えた。休日も、ここ数年引きこもってたのが嘘みたいだ。
悩んだ癖に、気づいたのは、もうアンジーがいない人生は無理だってことだった」
「あら、それはいい事を聞きましたわ。私もクロード様といるのは楽しいです。これからも、私に振り回されてくださいな」
「ふふっ。うん、アンジーについて行くよ。置いて行かないでね」
クロード様も、私にかなり甘いと思うわ。
こんなに我慢しないでいられるのは、婚約者がクロード様だからだって、流石の私もわかってる。
クロード様は、私を否定しない。
やることなすこと褒めてくれる。
それに私、甘えるより甘えられたい派だったみたい。
クロード様をお世話するのも好きだし。
なんだかんだ、クロード様と私は相性が良かった。
「クロード様、私、貴方に甘えられるのが好きなの。だから、遠慮したりしないでくださいね?」
「それは嬉しい事を聞いた!じゃあ、膝枕してもらえるかな?」
「それぐらい、いつでも歓迎ですわ」
私は、膝の上のふわふわの髪をゆっくり撫でる。
少し休んだら、この可愛い人をどこに連れて行こうか。
メリーメリーの牧場なんて面白いかも。きっと、この人は追いかけ回されるわ。
それとも、島国の織物市に行ってみようか。こちらと全く違う服装に、吃驚する顔が見たい。
クロード様なら、海中散歩も吃驚しそうね。私の魔法の腕じゃあ、短時間しか出来ないけど。
思いつくもの全部、連れて行こう。
だって、これからずっと一緒だもの。
それに、きっと、クロード様なら全部楽しんでくれる。




