狙ってくるなら手加減しない
「婚約者用の護身用魔道具の作成依頼ですか」
珍しく、仕事中に第一王子殿下の執務室に呼ばれた。
「うん。ちょっと王弟派が慌ただしいんだよね。ダメ当主を何人か交代まで追い込んだのは良かったんだけど、タイミングが悪かったみたいで」
「私達とは別方向から、自業自得で潰れそうになってるんです」
「自業自得?」
「王弟殿下の恋人が男性ってバレたみたいでさ〜。前から噂はあったらしいけど、今回は派閥内の令嬢に目撃されちゃって絶賛拡散中」
「王弟殿下は陛下と年の差はあるけど、昔から優秀で人気だったんだ。母が国内貴族だしね。結婚はしてるけど、未だに子供もいないし、王太子になったら娘を側妃に!って考えてた派閥貴族の夢が潰えちゃったわけ」
王弟殿下は男色だったのか〜
そりゃ王太子として致命的だ。
「なんと、第二王子派閥がここぞとばかりに潰しにかかって派閥の吸収を謀ってる」
ああ、第二王子派閥も当主交代あったばかりだもんね。
王弟派閥から補充しようってことか。
「陛下はまだ王太子は決められないんですか?」
「王妃も側妃も他国の姫だからね〜。国内出身の側妃が産んだのが王女で良かったのか悪かったのか」
「王妃の母国は今、王妃の同母の兄が国を治めてる。
しかし、その国の王妃には、二代前に我が国の側妃の国の血が入ってる。
その国の王が愛妻家で有名だからか、次代になると我が国の第二王子が有利になる、と噂があるんだ。根拠は皆無だが」
側妃の血、遠くない?有利になるか?
同母兄の方が強くない?
「ハルトン伯爵が第一王子派閥に入ったことの焦りもあるようだ。君の魔道具は各領地も欲してるからな。ハルトン伯爵と仲良くしたいが、寄親が第一王子派閥筆頭公爵家だから他派閥は困ってるのさ」
「叙爵直後は、ドラゴンスレイヤーは見た目でスルーされてたみたいだね〜。アンジェリーナ嬢、小柄で華奢に見えるからさ!
今は、サイトゥーラ辺境伯のとこで大剣振り回してドラゴン倒した話がもの凄い噂になってるよ〜」
「アンジーは王宮魔術師団で皆に慕われてるし、王宮騎士団の一部からも何故か崇められてるんだよね。王都の警備隊は魔道具に感謝してるし。知名度が上がり過ぎて、気が気じゃない」
「結果、私の派閥は今、勢いがある。暗殺の確率が上がったわけだ」
なるほど?
え!?私のせいですか!?
いや、元は中立派閥だったし。
全ては私を巻き込んだクロード様のせいだ。
ダカラ、キニシナイ。
「ふむ。暗殺の可能性が高いのは、第一王子殿下と婚約者様、クロード様と私、で宜しいでしょうか?」
「アンジェリーナ嬢は物理的に無理そうだけど」
おい、失礼だな。簡単にヤられるつもりないけど。
「まあ、狙われるのはその4人ですね。殿下とクロードを一緒に襲撃も考えられますが、殿下の婚約者を狙う確率の方が高いかと」
ねえ、それ、遠回しに私は狙われないって言ってない?
まあ、いいか。4人分の魔道具作ろう。
「魔道具は、物理防御と魔法防御、状態異常無効の機能を付けたアンクレット型でいいでしょうか?」
「うーん、それだと使い捨てか…魔力補充型だと素材が厳しいですよね?」
「上質な魔宝石は高いし、なかなか手に入らないからな〜」
「ああ、素材はあるの使います。献上しますので、遠慮なく」
「え?あるの?」
私、こまめに採取・採掘するのよね。
在庫は切らしたくないタイプ。
「魔宝石ならそこそこありますね。前に宝石を掘りに行って、何故か魔宝石ばかり採れたことがあって」
「オリハルコンの話もそうだけど、アンジェリーナ嬢の幸運値は狂ってるな…」
幸運値はどうかな?
何も手に入らないことはないから、低くはないだろうけど、目的の物じゃない出物はわりと多い。
後から“採っといて良かった”ってなるけど。
空間魔法あると、保存できるからとりあえず採っとくかってなるから。
「後日、出来たら持ってきますね」
「お願いするよ」
副師団長「第一王子の依頼なんだったー?」
アンジー「魔道具の作成依頼でした」
副師団長「えーそれなら他の人でもいいじゃん」
アンジー「いえ、私が適任です」(他の人だとデザインがヤバそう…)