事件の結末
今日は、クロード様と商業区に遊びにきている。
来てみたかったカフェでお茶をしていると、お店の前を他国の冒険者が通った。
「あっ」
「ん?知り合い?」
「はい、他国を周っている時にお世話になった冒険者の方がいました。なかなか面白い国で、」
あれ?裏組織の本拠地があるかもしれないの、あの国じゃなかった?
「アンジー?」
「あっ、ごめんなさい。王都の大きい教会に行ったんですけど、隣に立派な建物が併設されてて、聞いたら孤児院だったんです。豊かな国なんだなって思ったので、それを教会の人に言ったんですよ。
そしたら、二十年くらい前に歓楽街に従事してる人に開発した避妊薬を飲むのを義務付けてから、望まない妊娠で捨てられる子供が減ったそうなんです。
それから数年後には、スラムの孤児の保護も進め、今では各地の孤児院が整備されて、一部の平民の子供も通える学校を併設してる施設になったそうです」
「へえー!面白い政策だね」
「ですよね!」
避妊魔法はあるけれど、魔法を習う機会がある人しか使えない。魔力操作の習熟度が違うのだろう。
貴族は、学校や学院で習うから男女問わず使えるが、冒険者は、先輩から教わったりして習得しているらしい。
歓楽街に従事してる人たちに避妊魔法を習得させようとした国はあったが、どこも失敗している。
避妊薬を開発し、義務化させ、結果がでたことは凄いことなのだ。
あと数年すれば、この政策のデータが近隣諸国に発表されると思われる。結果を出すまでに長い年月はかかるが、注目されるのは間違いないだろう。
…あの国の避妊薬、我が国では自生していない“枯生草”を使ってるって聞いたような。もしかしたら解毒薬の参考になるかもしれない。
明日出勤したら、師団長に資料を取寄せられないか聞いてみよう。
2ヶ月後、資料の取寄せを依頼していた国から解毒薬の入手に成功したと報告を貰った。
外交官と騎士団が頑張ったらしい。
極秘だが、その国で継承問題で子を残せない人や、好色な王族や貴族に使われる秘薬が、不妊の効能がでるものだったらしい。
あちらの下っ端外交官では資料提供の判断ができず、上に報告をあげたところ、こちらの提出した媚薬成分の解析結果をみてわかる人が居たようで、秘薬が裏組織で使われている!と上層部が周章狼狽したとか。
我が国以外にも出回ってたら、かなりの外交問題になることに気づいたらしく、裏組織による事件と解毒薬の融通の発表を決めたそうだ。
本当のところは、国による攻撃と他国に判断されて、戦争になることを避けたいのだろう。
裏組織で作ったものは秘薬よりも強力だったが、不妊については既存の解毒薬の改良だけで提供できるらしい。
秘薬では、媚薬成分は安全な成分のようだ。流石に、カシムカズラや吸血星蠍の成分を王族や貴族に使わないか。
歓楽街で使われているのも、秘薬からヒントを得た薬らしいが、こちらは継続的に飲む配合のようだ。
あ、解毒薬も枯生草から出来るらしい。
…妊娠薬も枯生草から出来るのでは、と思う。裏組織の媚薬は、たぶん妊娠薬が本来の効能だったと思われる。
じゃないと、“結婚できる媚薬”としてオカシイ。
枯生草、研究したいな。輸入してくれないかな。
事件の発表後、各地でなかなかの修羅場があった。このタイミングの離縁に周りはお察しで、慰謝料の支払いや報復やらで没落していく家をそっとみていた。教育の失敗って怖い。
この事件で明らかとなった、デートドラッグを使用した女性たちは、重い罪に問われた。
安易に手を出した“結婚できる媚薬”は、短い夢を見せてくれただけだったようだ。代償は如何ほどだろう。
血統を尊ぶ貴族にしたら、不妊は死活問題。今後も同様の事件がないことを願う。
残っていた過激派と言われてた婚活令嬢たちは、あっという間に“犯罪者予備軍”として遠巻きにされた。もう結婚は無理じゃないかな。
平民でもデートドラッグは女性被害者のイメージが強かっただけに、この事件は、公表されてからかなりの注目を集めることとなった。
お酒に弱いクロード様は、外で飲まないため、飲み物に媚薬を盛られても、今までは匂いに気づいて回避していたらしい。
ただ、今回の事件で使われたデートドラッグを盛られたことがある可能性はかなり高い。
事件の発表後、自分も被害者になっていた可能性に気づいたクロード様が、涙目で抱きついてきた時は文句は言えなかった。
「アンジーと婚約できて良かった…」
「よしよし、クロード様が無事で良かったです」
心配して解毒薬を入手したことは秘密である。
使う機会がないことを祈る。
クロード「外でなにか飲むの怖い…」
スッ
アンジー「水筒作ってみました」
優しい!!!