王宮魔術師団での日々
「はあ〜貴方が結婚しちゃうなんて…」
「副師団長、何回言っても事実は覆りません」
王宮魔術師団での研修は無事に終わり、私は副師団長補佐に着いた。
副師団長は独身の女性だ。
この人は、何故か結婚を嫌悪している。
私も未婚希望だったから、仲間意識があったらしい。
でも、彼女は恋人がいる。しかも、10年同棲中。
ガッツリ事実婚に持ち込まれてることに気づいてない。相手の方が上手なのだ。
魔術師団内で、この事を指摘するのはタブーらしい。
副師団長に目をかけられてることは、わかってる。
しかし、私が副師団長の補佐にされたのには裏がある。副師団長は、恋人さんに誘導されたのだ。
恋人さんが、事実婚に焦れて子を作ろうとしているからだ。副師団長の産休の為に、私を選ばせた。
冒険者ギルドで目をつけられて調べられたなんて、なんたる不覚!
複数の資格を団員に取らせるよりも、既に資格を持っていて、強い私が選ばれたのだ。
ここは魔術師の癖に脳筋が多い。強ければ正義!がまかり通る。
恋人さんも、私が結婚するのは想定外だったのだろう。
誘導されてるのに気づいてない副師団長は可哀想だが、副師団長を使って結婚にグチグチ言うのはやめてもらいたい。
「副師団長は結婚されないのですか?」
室内の同僚に緊張が走った。
「えー?私はしなーい!」
ふむ、やっぱり気づいてないか。
副師団長、外堀は完全に埋まってます。
そんな貴方は、家に帰ってから、いつも通り誘導されて、無自覚のまま私の反撃を恋人さんに伝えてくれ。
「私は夜会でプロポーズでしたけど、副師団長はどんなプロポーズがいいと思います?」
「知ってる!踊り終わってから跪かれたらしいね!一時期すっごい噂になってた!私は、プロポーズは夕陽の綺麗な湖とかいいと思う!」
「夕陽が綺麗な湖だと、この近くでは隣国のアリス湖ですかね」
「アリス湖行ったことないなー!アンジェリーナは行ったことあるのー?」
「ありますよ。10才から冒険者活動で色んな国に行きましたから」
「羨ましいー!私は仕事でしか国外行ったことないのにー!」
フッ。隣国の湖なんて、いいチョイスありがとうございます。妊娠させたら行けませんよ、恋人さん?
因みに、恋人さんは近衛騎士団の分隊長です。
先輩達に聞いたところ、男性陣はほとんどの人が一度は脅されてるらしい。ベタ惚れか!
誘導尋問が上手いらしく、副師団長の日常はほぼ把握されている。この会話、是非話して下さい。
隣国に行けるほど、副師団長と合わせてお休みとれるかな?私は協力しませんよ。
席を離れると、同僚が追いかけてきた。
「ハルトン補佐!心臓に悪いよ!」
「スミマセン。恋人さんの遠回しな抗議がウザくて」
「あ~、それね。副師団長はそんなに引き摺るタイプじゃないから、なんであんなに言うのかと思ってたんだ。彼が言ってるのか」
「そうでしょうね。さっきので黙ってくれるといいのですが」
結婚については、彼に限らず、まだまだ色々言われるだろう。
魔術学院の知り合いの婿入り希望者達も、身近に玉の輿が転がってたことを知って、悔しい思いをしたのだろう。めっちゃ嫌味言われた。
でも、やっぱり自衛は大切だなと実感した。在学中は色々と隠していて良かった。バレたらどんだけ釣書が送られてきたことか。
まあ、婿が公爵子息だ。誰も文句は言えない。
だからか、地味なアピールがウザイ。
婚約破棄とか無理だからな!
そりゃあ、始まりが一目惚れだと思われてたら簡単に靡くと思われるだろうが、それはアッチだけだ!
この婚約、ガッツリ第一王子殿下絡んでんだ!
第一王子派閥筆頭公爵家が寄親で、領地は隣だぞ!?
お前らなんて愛人にもなれねーから!寄ってくるな!
副師団長「今日はアンジェリーナと理想のプロポーズの話した!」
恋人さん「そ、そっかー」
副師団長「私の理想に合うのはアリス湖なんだってー」
恋人さん「…」(ヤラレタ)