これは想定外です
目の前の跪いた男性に、私は血の気が引いた。
「アンジェリーナ嬢、私と婚約していただけますか?」
今日は、16歳のデビュタントの夜会。
王族が主催する夜会の中でも、16歳の子息子女がいる貴族が家族で出席するため、かなり大規模な夜会だ。
きらびやかなホールには、沢山の若者が溢れてる。
夜の社交界デビューをしたばかりの初々しい男女を大人達が微笑ましく眺め、楽団も若者向けの曲を奏で、皆がダンスを踊る。
いつもの騙し合い化かし合いも鳴りを潜め、今日ばかりは和やかだ。
私もファーストダンスは兄と踊り、その後は父や従兄弟と踊り、無難に終えるはずだった。
まさか、第一王子の側近の公爵子息からダンスを申し込まれるなんて。
そして、踊り終わってからの公開プロポーズ。
断れる訳がない。
私はしがない伯爵令嬢、相手は王家に連なる公爵子息。
周りは大興奮で、黄色い歓声があがる。
物凄く注目されてますわ。
そっと家族の顔を探せば、青い顔でこちらを見ている。
そうよね、公爵家の面子を潰したら、我が家が潰される。
私は内心ガッカリしながら、婚約を受け入れた。
「喜んでお受けします」ニッコリ
あ~あ~、私の独り身ライフは、学院卒業前に終了か。
近隣諸国と国内の情勢が安定しない昨今、幼少期からの政略結婚がほぼなくなり、あっても派閥内での身内結婚、あぶれた女性が立ち上がり、国内での女性の雇用が増えた。
私も学院卒業後は、王宮魔術師団への就職が決まっている。
我ながら成績優秀、素行良好、見目も悪くない、家は中立派でほどほどに繁栄、という好物件を目立たせないで生き残ってきたのに!!!
学院も就職コースで、周りは家を継げない次男以下しかおらず、婚約狙いの男子生徒から逃げ切ってきたのに!!!
デビュタント以降の夜会は参加するつもりはなかったから、今日は楽しもう!とか思ってた数時間前の私、最悪の日になりましたよ〜と教えてあげたい。
何故!私なんだ!
他にいるだろう!結婚狙いの肉食女子が!
頭の中で悪態をつきながら、早々に夜会から帰宅した。
あんな注目されたら、居づらくてしょーがないわ!