7.出会い
項垂れている人は私に気づかないのか
ぶつぶつ独り言を放っているようだが
小声すぎて聞き取れない
正直居ずらい
酔っ払っているのかな⁇
関わりたくないけど
ただ
この人に気づかれず会場に戻れるかな?
と、そんな事を考えているうちに
項垂れていた人は急にガクッと膝をおり
うずくまってしまった
えっ⁈嘘、倒れたの!
咄嗟に歩み寄り、肩に触れようとすると
いきなり手首を掴まれ
「…ん、誰だ…貴方は」
行動と声にティアラは驚き、思わずおもいっきり振り払うと、うずくまっていた人は急な動作で目が回ったのか仰向けに倒れてしまった
や、やってしまった…
咄嗟の事だとしても、淑女に欠ける行動…
状況を自分なりに整理し
とりあえずティアラは持参していた変装メガネを掛けて
「ご、ごめんなさい。
目の前でいきなりうずくまったから
体調が悪いのかと思って触れようとしました。
大丈夫ですか⁇」
と全力で謝るが、帰ってきた返答は
「すまないが、近づかないでほしい…。
少し前から体調が悪いんだ…
できれば騒ぎを起こさず、この場を凌ぎたい。
平気なので誰も呼ばないでほしい…」
と言いながら起き上がらず寝たまま、
顔を手で覆い表情を隠したい様子
職業柄状態把握のため見つめてしまう私
よく見ると綺麗な顔立ちの男性がやや頬を染め妖美な雰囲気を醸し出している状況だった。
兄様達に負けない顔立ちの…男性だ
ただその様子は
酒に酔った感じではなく …あっ、あれだ!
いつだったか私が珍しく店に行った時
店長の元に尋ねてきた
…緩和薬を求めてきた男性に似た表情。
確か復縁を求めてきた女性に媚薬を盛られたって言ってたな…
あの時は私が薬を作るまでの時間
店長が庭で無理矢理男性に水をぶっかけてたな…
見る限りあの時の男性よりはマシな感じだ
そんな懐かしい出来事を思い出しつつ、私は男性に尋ねる
「貴方の症状は、媚薬を盛られたものですか⁇」
男性は私の言葉に驚いた表情をみせ、
「分かっているなら…君は馬鹿なのか?
近づくなって言っているだろう‼︎」
呆れながら告げる男性
そんな言葉にややイラッとしながらも
私は無視して持参している解毒薬を
足下から取り出そうと後ろを向き
ドレスの端をたくし上げる
その行動を見た男性は…何を勘違いしたのか
「君は何をしようとしているんだ‼︎
頼むからやめてほしい。
…女性は求めていないんだ…」
「えっ、あぁー。
…残念ながら私はお相手する気ないですよ。」
私は軽率な行動を後悔することなく淡々に告げる
「今、ドレスの裾を上げただろう⁇
誘惑でないならなんなんだ?」
「あっ、これは太ももに忍ばせていた解毒薬を取っただけです。」
「解毒薬⁇」
「はい、そうですが…何か⁇」
「ここは舞踏会場だが、一応は王宮だぞ!変な薬を持ち込むのは…」
「違います‼︎これは解毒薬です!
自分を守るためのものであって、
けして変なものではありません!
最近の噂と一緒にしないでください!」
ムキになって否定したせいで、余計な一言を漏らす
「⁈…どこでその話を聞いたんだ!」
男性が鋭く聞いてくる声に
「噂は広まるものですから、それを完全に止めるのは無理なこと。貴方も知っているのですから、私が知っていても不思議ではないでしょう?」
「俺を知っていながら言ってるのか?だったら…
「あ、知らないので。
貴方が誰かなんて、むしろ興味もないので結構です。
さぁ、これを飲んで下さい!」
私は間髪入れず男性に近づき、
解毒薬を押し付けようとするも
「やめろ、だから飲まないって言ってるだろ!
毒かもわからない物飲めるか!」
言葉とは裏腹に優しく手で押し返そうとする男性
「だったら、証明できれば良いんですね。
じゃあ、こうして(ゴク)…」
ティアラは大胆に薬を口に含むと、一口飲み
「ね、大丈夫!
もし飲めないなら、このまま飲ましますよ♪」と、
もう一度薬を口に含み
そのまま男性にキスをする格好で迫る
男性はびっくりした表情で慌てて
「分かった、分かったから!」と私を手で静止する
「じゃあ、口移しでなく普通に飲んで下さい。」
「見た目と違って…強引な人だ。(ゴク、ゴク)」
渋々ながら飲んだ男性は、数分後には媚薬の効果が
治まったのか
「助かった…、ありがとうと一応言っておく。」
冷静になってお礼を言う男性に対し
「別に私は薬師だから、勝手に行動しただけ。
知らない人だからって、むしろ無理矢理色々と
ごめんなさいね。」
一応強引な行動をとった事を謝る
そして私はすぐに立ち上がり
「では、お大事に」と微笑みその場を後にした
男性は引き止めるでもなく
ゆっくり立ち上がり一礼をしていた