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7 おっさん、王の洗脳疑惑を受ける

「この国では肉を食うのはやめてもらう」


 勇者様はそう言っていた。イリシャはその後聞かされたその言葉の意味を改めて考えていた。

 勇者様曰く、「肉というのは、その食肉用の動物を育てるために大量の穀物を必要とする。肉を食わなければその飼育用の穀物を直接人間の食料にできる」


 確かにその通りなのだが、いきなり肉を食うなと言うのは無理すぎる。今まで食肉用の動物を育てて生計を立てていた人達も職を失う事になる。食糧生産の効率化の様々な弊害を、完全に無視してその辺の調整は私達にぶん投げるつもりなのだろう。

 王は勇者様の好きにさせるよう言っていたが、いくらなんでも酷すぎる。やはり王は勇者様に洗脳されてしまったのだろうか。

 勇者による王の洗脳疑惑。ここからなんとかしないといけないだろう。

 しかし、どうしたらいいのか。洗脳されているかどうか確認するための手段を考える。

 王直属の医師団に精神科の医者がいたはずだ。まずは彼に相談してみよう。

 

 イリシャが向かったのは医師団の医者の控室になっている、王宮の別棟にある建物だった。もちろん唯の控室ではなく、様々な医療施設の整った病院と言ってもいいところである。

 腕のいい医者というのは数少なく、その医者を王とは言え四六時中ここで待機させているわけにもいかず、緊急時のため待機させている数人以外は通常は自分の病院にいるはずだ。だが運良く今日は精神科医の医者が問診に来ている。これ幸いとイリシャは医者達の控室に上がり込んだ。


「これはイリシャ様。どのような御用件でこちらに?まさかどこか怪我でもされたのでしょうか」


 看護師のデリアが、急にやってきたイリシャに心配そうに語りかける。


「いや、特に私は怪我も病気もしていない。実は王のことで精神科医の先生と相談したいことがあって来たのだ」


「私が精神科医のゴードンだ。何か私に用かね?この後王の問診があるので用件が有れば手短に頼む」


 そう言って一人の初老の男性がイリシャに歩み寄ってきた。イリシャはその精神科医、ゴードンにこれまでの経緯を説明し、王が勇者によって洗脳されている可能性がある事を伝えた。


「なるほど、王が洗脳されているかどうか知りたいということか。わかった、そう言った件も含めて今回の問診を行うとしよう。ただ結果は直ぐにはでない。明日、もう一度ここに来てもらえるかな。その時に、答えを話そう」


 そう言うとゴードンは、王の問診へ向かった。


 さて、その頃のおっさん勇者というと、更なる犠牲者、もとい国策を話し合うためのブレーンを求めて王城を彷徨っていた。もちろんおっさんには純粋な正義感と使命感に基づき、必要な人員を集めているつもりなのだが、周囲の人間にはそう思われず作業は難航していた。

 こういう時、雑用を押しつけられるイリシャの姿はなく、虚な目をしたカラミティがおっさんの後ろに付き添っていた。


「国務庁、国税庁と回ってみたが、皆どうにも協力的ではないねえ。国の存亡が掛かっているというのにどういうことだろう?」


 おっさんが不満そうに呟く。おっさんが王城に来てから未だ間もないが、おっさんと王との会話の内容は既に王城中に広まっていた。悪評が広まるのはかなり早い。人の噂も45日と言われるように少し日を置いておけばもう少しマシだったろうが、何故かこのタイミングで人を集めようとしているため全くと言っていいほど人員が集まらない。


「勇者様。こちらで必要な人員の名簿を作成し、それに基づいてメンバー選考を行った方が良いと思います。少しお時間を頂けないでしょうか」


 このままでは埒があかないと思い、そう提案するカラミティにおっさんもうなずいた。


「仕方ないね。メンバー選考はそちらに任せるね」


 その言葉にやれやれとため息をつきながらもホッとするカラミティ。ひとまずイリシャに相談をしようと思ったが、何処に行ってしまったのかイリシャの姿が見あたらない。


「アリア、イリシャ様は何処にいらっしゃる?」


 カラミティはエルフの少女アリアにイリシャが何処にいるか聞いてみた。


「それが、私にも何処にいるのかわからなくて、今イリシャ様の従者に探してもらっているところです」


 そうアリアが答える。イリシャ様にべったりのアリアも居場所を知らないとは珍しい。こころなしか心配そうに見えるアリアにカラミティは


「そう心配する事もないよ。すぐ戻って来るんじゃないかな」


 と、特に根拠もないが安心させようとそんな事を言った。


「勇者様はどちらにおられる?」


 噂をすれば影がさす。と言うが二人が話して居るとタイミングよくイリシャが現れた。


「勇者様ならこちらに。あれっ?居ない。さっきまでそこに居たのに」


「放っておくと何をするか判らないから目を離すなと言っただろう」

 

 イリシャの叱責がとぶ。


「も、申し訳ありません。直ぐに探します」


 カラミティとアリアの二人は慌ててその場を離れ、おっさん勇者を探しに向かう。

 その時、窓の外から轟音が響いた。王宮の庭からエルンファストが飛び立って行くのが見える。エルンファストは急速に加速し直ぐ様見えなくなった。


「すぐ勇者様を追いかけろ」


 イリシャが怒鳴るが、空を飛んでいったものを追いかける事もできず青い空をただ見上げるだけだった。


 


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