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6 おっさん、政策を語り出す。

 広場に到着したおっさんは、早速エルンファストに乗り込み整備を開始した。その様子をカラミティは無気力な瞳で見つめていた。しばらくすると街道に砂煙が立っているのが見える。特に舗装もされていない道は馬などを走らせると結構砂埃がする。どうやら誰かが馬に乗って近づいているようだ。

 近づいてきているのは、栗毛の馬に乗ったイリシャだった。

 広場で馬を止めたイリシャは所在なげに立っているカラミティに声をかけた。


「勇者様の様子はどうだ?」


「特に何もありません。今はエルンファストの中で整備を行なっているようです」


 とカラミティは力なく答えた。


「どうしたカラミティ?何かあったのか」


 いつもと異なり、妙に気力のない様子のカラミティにイリシャは違和感を感じて聞き直す。


「いえ、別に何も……」


「しっかりしてくれよ。勇者さを万全の状態で送り出すのが我らの仕事なのだから。この国の存亡は勇者様にかかっている。その勇者様をお世話するのは重要なことなのだぞ」


「はあ」


 そうイリシャに言われたカラミティだが、どうにも気分が乗らず曖昧な返事を返す」


「部下の管理はリーダーである私の仕事だ。何か気になることがあるのなら、遠慮せずに言ってくれ」


「はあ」


 どうにもらちが開かないな。広場に来るまでに何があったんだ?イリシャがそう思っているとエルンファストの後部ハッチが開き、おっさん勇者が降りてきた。


「あっ勇者様。何かカラミティの様子が変なのですが、何かありましたか?」


「ちょっと昔話をしただけなんだが、なんか勘違いがあったらしくその後急に機嫌が悪くなったよ」


 いったい何を話したんだ。カラミティを横目で見ながらイリシャがそう思っていると


「通訳の方はどうなったんだ?あのままじゃどうにもならんだろう」


「サルディが明日にも復帰できるそうです」


 そうイリシャが答えると、ちょっと驚いたようにおっさんが聞き返してきた。


「意識不明の重体とか言ってなかったか?復帰が早すぎるだろう。大丈夫なのか」


「どうやら誤診だったようで、念のため今日1日は安静にさせていますが特に問題は無さそうです」


「そうか、それは良かった」


 どうやらサルディのことを本当に心配していたようだ。勝手なことばかりするし、言ってることは意味不明だし、なんだかよくわからない人物だと思っていたが、基本善人ではあるんだよな。まあそうでなければ勇者として召喚されたりはしない。イリシャはそう思った。


 勇者召喚というのは誰彼構わず異世界から呼び出せる物ではないのだ。少なくても召喚する目的をこなすことが可能な人物が選ばれる。そのため普通は他の人々を慮る優しい心を持った人が召喚されることが多い。とは言え、今回呼び出された勇者はそう言った今までの基準からかなり外れている。精神的にズレているのではなく、何か価値観がおかしい。だからこそ、このおっさん勇者をきっちり監視し導くのが我々の仕事。そう決意したイリシャは、取り敢えずおっさんに話しかける。


「それで勇者様は何をなされていたのですか?」


「ああ、この前みたいに魔族との会話がまともに出来ないってのは困るので、エルンファストのコンピュータを使い言語翻訳プログラムを組んでみた」


「言語翻訳?」


「魔族語を直接日本語に変換できればこの前のような面倒な事にならないだろうからな」


「そんな便利なものが。ですが、そうするとサルディは必要なくなりますね」


「いや、そんなことはないぞ。正確な翻訳を行うためには大量のデータが必要になるし、少なくても最初のうちはどうしても時間がかかる。翻訳プログラムがキチンと動作するまでサルディに頑張ってもらうしかない」


「なるほど。これで尋問もスムースに行きそうです。しかし尋問後、魔王の居場所がわかった後は勇者様はどうするおつもりです。まさかいきなり魔王と戦うおつもりではありませんか?」


 そうイリシャが聞くと、おっさんは少し不審げな顔でイリシャを見つめる。


「だから戦うつもりは無いと言っただろう。俺は平和理にこの問題を解決しようと思っている」


「そんなことが出来るものなのでしょうか?」


「それは俺に任しておけ。王様だって俺を信じてくれたんだ」


 そうドヤ顔で答えたおっさん。


 そう、それが一番不思議なことだった。あれだけの会話で、王はこの男を信じ全て任すと言っていた。ありえないことだ。この勇者に人を洗脳する力があるとか考えた方が納得がいく。だがそうだとすれば、我々もすでに洗脳されている可能性が高い。

 しかし洗脳されているかどうかなど、自分で分かるはずもない。まさか洗脳しているかもしれない当の本人に聞いたところで答えるはずもない。手詰まりだ。

 そんなイリシャの苦悩などまるで気が付いていないのか、おっさん勇者はにこやかに語り出す。


「まずは魔王が何故人間の領土を攻めてきているかということだ。俺が調べた限りでは人間憎し、人類を滅ぼすぞ。と言う感情論で攻めてきているわけではなさそうだ。何か理由があると思う」


「では勇者様はどのようにお考えなのでしょう?」


「たとえば、食糧事情とかだ。近年、魔王領では天候不順による干魃がおこっているらしい。その為食糧が不足し人間領を襲い食糧を確保しているのではないだろうか。もしそうならば、侵略という手段ではなく魔王領と貿易を行い人類側が食糧を輸出することで解決するはずだ」

 

 なるほど、勇者様なりに色々考えているようだ。

 

「もちろんこの俺の考えが正しいとは限らない。だからこそ早急に魔王と話し合い、解決策を立てたいのだ」


 驚いた。勇者様がそこまで深く考察されているとは。単純に、攻めてきた魔王軍を撃退すれば良いとだけしか考えていなかった我々の方が無策で考えなしだったようだ。この男、思ったより大きな思想をしている。


「と言うことで食糧改革を行おうと思う。これからこの国では肉を食うのはやめてもらう」


 へっ?まともなことを言ったと思ったら、また訳のわからないことを言い出したぞ。


「いきなりそんなこと言われても困ります」


「まあ、そうだろうな。だが、これくらいのことも出来なければ今後の魔王との対話後の政策さえ嘘になりかねん。至急にブレーンを集め政策を話し合うぞ」


 何か色々大変な事になってきた。



コメディを書いていたつもりだったが、何か変な方向に話が進んでいる。読者様がついて来れるのだろうか?

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