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2 おっさん、世界征服の準備を始める

2 おっさん世界征服の準備を始める


「俺はこの世界を征服する!」


 おっさんのこの言葉を聞いたイリシャは混乱した。と言うか更に状況が悪化したのじゃないかと考え始める。勇者を召喚したと思ったら一緒に戦ってくれるどころか世界征服すると言い出す。こんな頭のいかれた人はお帰りいただきたいのだが、今更そんなことも出来ない。途方に暮れ、恨めしそうにイリシャはおっさんを見る。


 そのおっさんは、腕を組みしきりに何かを考えている様だ。そしてパンと膝を打つとイリシャに言った。


「一先ず俺はこの世界の様子を自分なりに調べてみたいと思う。何かあれば此処に戻ってくるので誰か一人は連絡用に此処にいてくれ」


「どちらに行かれるのですか」


 ドギマギしながらイリシャがおっさんに尋ねると、おっさんはニヤリと笑って言った。


「魔王に会ってくる」


 はああ〜。この人は何を言っているのかな?私の聞き間違いかな。そうだったら良いなあ。ああ、きっとそうだ。聞き間違いだろう。イヒヒ、ウフフ、ワハハハハハ‥‥‥

 混乱を通り越して錯乱状態に陥ったイリシャはその場にぶっ倒れた。


「イリシャ様〜」


 倒れたイリシャをエルフの少女が慌てて介抱する。


「どうしたんだい?」


 おっさんはエルフの少女に問いかける。


「わ、わかりません」


 オロオロしながらエルフの少女が答えると


「ふむう、癲癇か何かの発作かな?気をつけないと危ないよ。ところで誰か魔王の居場所を知っている人は居る?」


「は、はい。私が知っております」


 鎧を着た少女が地図を持って慌てて駆け寄ってくる。


「君は?」


「軍事の担当をしているカラミティと申します」


 カラミティはテーブルの上に地図を広げる。その地図上の一箇所を指差してそこにピンを刺す。更に別のピンを地図上に刺すとおっさんの方に向き直る。


「まず此処が今私たちがいる場所です。そしてこの川沿いに北上すると魔王軍の最前線。そして指揮を取っている魔王はおそらくこの辺りに居るかと思われます」


 地図の上をピンと指で指し示しながらカラミティは説明する。


「これは確かな情報なのかい?」


 地図を見ながらおっさんはカラミティに確認する。


「実は魔王の居場所に関しては、なんとも言えないかと。魔王自体は戦場に直接出るわけではなく、四天王と呼ばれる魔王配下の魔物達が直接の軍の指揮を取っています」


「そうか、じゃあその四天王とやらに聞いてみるしかないな。ありがとう、それじゃ俺は行ってくる」


 おっさんはカラミティに礼を言うとエルンファストに向かって歩き出す。


「お一人で行かれるのですか?危険です。近衛軍を護衛につけるので、準備が出来るまでお待ちください」


一人で行こうとするおっさんをカラミティは慌てて呼び止めるが、おっさんは気にも止めずスタスタと歩いてエルンファストに乗り込んでしまう。

 乗組用のハッチが閉まるとうつ伏せに倒れたままのエルンファストが起き上がり、周囲に謎の力場の様な物が発生する。そしてエルンファストの周りの景色が力場の影響で歪んで見え出す。


「危ないから下がってね〜」


 エルンファストからおっさんの声が響く。周りに居た人は慌てて逃げ出す。周囲に人が居なくなったのを確認したおっさんはエルンファストを離陸させる。


「凄いな、あれなら魔王軍と戦っても勝てるんじゃないか?」


「やはり勇者様、何だかんだ言っても我々の為に戦ってくれるつもりだ」


 残った人々はエルンファストが飛び立った空を見上げて口々に言い放つが、イリシャはきっとそう簡単に事が収まるとは考えていなかった。そして、そのイリシャの考えはほぼ正解だった。


ーーーーー


 一時間くらい経った頃だろうか。エルンファストは轟音を立てて元いた広場に戻ってきた。イリシャ達はエルンファストの周りに集まる。


「ちょっと危ない。離れて〜」


 広場に降り立ったエルンファストはバランスを崩し、又もうつ伏せに倒れる。周りに居たイリシャ達は又々頭から砂をかぶることになる。


「バランサーの調整がイマイチだなあ。どうにも安定しない」


 そうブツブツと呟きながらおっさんはエルンファストから降りて来る。


「ご無事でしたか。勇者様」


 イリシャがおっさんに駆け寄る。


「ああ、別に問題ない。と言うか四天王らしい奴に会ったんだがまるで話が通じない。どうしたらいいかねえ」


 腕を組んだまま顰めっ面でおっさんはイリシャに問いかける。それを聞いたイリシャは一瞬戸惑ったが直ぐに理由に思い当たる。


「勇者様、我々が勇者様と話が出来るのは事前に勇者様の国の言葉を勉強していたためです。魔物達は勇者様の国の言葉を知らないので会話出来るはずがありません」


 そんな事も考えずにこの親父は敵陣まで飛んで行ったのか。どう交渉するつもりだったのかとイリシャは思ったがおっさんの顔を見ると、きっと何も考えていないんだろうなあと理解した。


「ああ、成程。だが君達は何故俺の国の言葉を知っているのかい?」


 おっさんは不思議そうに尋ねる。


「それは、勇者召喚と言うのが今回初めてではなく以前にも何度か召喚を行ったせいです。以前に来られた勇者様に言葉を教えてもらい、我々は今回の召喚に挑みました」


 イリシャはちょっとドヤ顔で答える。一方おっさんは、へえ〜と鳴るボタンが有れば数回叩いていただろうと、いうような顔をしていた。


「以前に来た勇者は、今どうしているんだ?」


 更におっさんは質問を続けた。


「かなりの高齢なので今は引退して田舎に引き篭もっておられます」


 そうイリシャが答えるとおっさんはやっと納得したのか、くるりと後ろを振り向くとエルンファストを指さして言った。


「それじゃ通訳を頼めるかな。四天王らしい奴を一匹捕まえてきた」


 イリシャがおっさんの指差す方を見ると、エルンファストの右手に引っ掛かる様にして一体の魔物がぶら下がっていた。


「こ、これは。四天王第四位、風のブラキオス」


 イリシャはエルンファストの右手にグッタリとぶら下がっている四天王第四位、風のブラキオスを気の毒そうに見つめた。 




 





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