七匹の堕ちた神獣
お楽しみください!
「うぅ…ここは…」
アルヴァのカペラを呼ぶ声で目を覚ましたバラガが、ゆっくりと上半身を起こして周りを見回した。
「俺は…助かったのか?」
「バラガ…」
ミルコスがバラガの名を呟くように言うと、バラガは突然笑い出した。
「ふははは!やったぞ!俺は生き残ったんだ!あの女の呪いから!ふははは!何が復讐だ!ちょっと襲った位で逆恨みしやがって!旦那より先に気持ちよくさせただけだろうが!それをあんな目にあわすだなんて…見つけたらもう一度襲ってやる!」
バラガの言葉に、その場にいた全員が絶句していると、アップルが怒りの表情を上げ、拳を固くした。
「あんた、ふざけるのも大概に…」
「待て…アップル」
「な!ソウル!なんで止めるのよ」
ソウルが、バラガを殴ろうとしたアップルを止めると、止めた事を信じられないと言った表情でソウルを睨んだが、そのソウルはただ無言でミルコスを指差した。
「この…」
「あ?なんだよ?親父?別にいいだろ?領民の女一人いなくなったって。領主の息子に手を出したんだからさぁ~」
「この!大馬鹿野郎が!!」
ミルコスは全力でバラガの顔を殴りつけると、バラガはその勢いに乗って地面に転がった。そしてミルコスは、そのままバラガの上にマウントし、何度もバラガを殴り続けた。
「この!…お前は!…お前は!」
その後も何十分も殴り続け、バラガの顔が原形が分からなくなる位腫れると、ソウルがミルコスの腕を掴んで止めた。
「ミルコスさん…こいつをここで殴り殺すよりもっといい罰があるはずだ。どうする?このまま続けて子殺しになるか、一領主としてちゃんと裁くか…」
ソウルが、そう言った後にミルコスの腕を放すと、ミルコスはマウントを止めてバラガの横に座り、荒い息を整えた。
「ああ…そうだな…激情に駆られて殺してしまう所だった…ありがとう…この大馬鹿野郎は犯罪者としてちゃんと裁かなくてはな……はぁ~‥‥もうこいつを私の息子だとは思わん!廃嫡した後、犯罪奴隷にしてどこぞの鉱山に送る!長女のサロメアと次女のサルヴァは修道院行だ!妻のルチナは実家の沙汰があるまで自宅に謹慎!執事のミハイルは犯罪奴隷にした後、死ぬまでこの領の為に働いてもらう!いいな?!」
ミルコスは大声で家族に沙汰を出すと、誰も反論する者はおらず、沙汰を言い渡された者達は、下に俯きながら頷いた。
「はぁ~…これからやる事が多くなってしまった…ジェラルド殿…後で我が屋敷に来てくれ…そこで今回の報酬を渡そう。デリア殿、すまないが我が屋敷に奴隷商人を連れて来てくれ…」
「分かったわ」
「では、皆さん失礼します。ほら!お前達も帰るぞ!」
ミルコスはバラガを肩に担ぎ、自分の乗って来た馬に荷物を載せるようにして載せると、妻と娘達、執事を連れて屋敷へと帰って行った。ソウル達がミルコス一家を目で見送ると、アップルがソウルに話しかけて来た。
「ミルコスさんの拳…ボロボロだったわね…」
「ミルコスさんの人生であれが初めて人を殴った事だったんだろう…」
「マスター、あれ完全に骨折していましたよ?今は興奮して痛みを感じてないようでしたが…」
「う~ん…それほど怒っていたという事なんだね…」
「私もあんな男みたいにならない様に大人になって行かないとなぁ…」
ミルコスの拳の話から、今回の事件の感想に移って行き、各々が自分の在り方を改めていると、ジェラルドが自分の馬に乗ってソウルに話しかけてきた。
「じゃあ、俺は報酬を貰って来るから少し待っていてくれ」
「分かりました」
ソウルはジェラルドに頷くと、ジェラルドはミルコス邸に向けて馬を走らせて行った。
「じゃあ、私も一旦戻るわね。あ、司祭様、カール君はこのままで大丈夫かしら?こんな事になったけどちゃんとお葬式をした後、みんなで送り出したいの」
「今日中に埋葬して貰えれば大丈夫ですよ」
「分かったわ」
デリアは司祭に頷き、商業ギルドに戻って行った。
「…あれ?そういえば今何時かしら…って!もう朝じゃない!やばいわ!徹夜しちゃったわ!」
デリアが、商業ギルドに帰って行った後にアップルが、ふとリアル時間を確認してみると、朝日が出ている時間帯を指しており、マナリアもその言葉を聞いて慌て始めた。
「でも今落ちれば2時間位寝られますね!ソウルさん!すみません!落ちます!」
「私も落ちるわ!」
「ああ、二人共お疲れ様。すまないなこんな時間まで付き合わせて」
「大丈夫ですよ!それでは~」
「問題ないわ。じゃあまたね」
ソウルの謝罪に返答した後、すぐに二人はログアウトボタンを押して現実世界に帰って行った。
「僕はまだ大丈夫」
「俺も大丈夫だ。じゃあ、ジェラルドさんが来るまで何かして暇をつぶしていよう」
「何かして?じゃあ、この場所で怖い話とかする?」
ティカルが周りを見ながら言うと、ソウルは顔を顰めた。
「私、その怖い話に興味があります!」
突然横から司祭が話しかけてくると、ティカルはソウルの顰めた顔にニヤっと笑い、怖い話をし始めた。そしてソウルは、顰めっ面から嫌な顔になって呟いた。
「司祭ェ…」
その呟きは、二人の耳には届かなかった。
「待たせたな。では帰ろうか」
「分かりました。ではこれを」
ソウルは、ネファーに渡された8角形の箱をジェラルドに渡すと、ジェラルドは箱を受け取りそれに向かって話しかけた。
「ネファー、仕事が終わったからテレポートを開いてくれ」
「……」
だが、ジェラルドが話しかけても返答はなく、ジェラルドは再び話しかけた。
「おーい、ネファー?」
「………」
「ネファー?…ネーファー?…ネファーさーん?おーい?」
その後、何度も自分の妻の名前を箱に向かって話しかけていると、箱の中心にある唇からノイズ音が聞こえて来た。
「ああ、ごめんなさいあなた。寝てたわ…」
「あ、そうか…すまないな…」
「気にしないで、そろそろ起きる時間だったし。じゃあ、今からテレポートを開くから少し待っていて」
「分かった」
そして、その数分後にジェラルドの近くにテレポートが開くと、ジェラルドとソウル達は、そのテレポートを通ってネファーが営む店に帰って行った。
「あ、おとーさん!お帰りなさい!」
「お帰り、あなた」
「ああ、ただいま!シリア、ネファー」
ジェラルドが、駆け寄って来た娘のシリアを抱き抱え、妻と一緒に抱きしめた。ソウル達は、仲が良いジェラルド一家の様子を見て、微笑ましく思い口元を緩めた。
「おっと…じゃあ、ソウルの話を改めて聞こうか」
「分かりました。ではまず最初に銃士ギルドのギルド長からお手紙をどうぞ」
ソウル達が見ている事に気が付き、咳ばらいを一度だけして気を取り直したジェラルドは、ソウルに依頼の話をするように言うと、ソウルはアイテム欄からゼフティから渡された手紙を取り出し、ジェラルドに渡した。
「あー…これはキラー弾の製作依頼だな…了承したと伝えてくれ」
「分かりました…が、キラー弾とは?」
「ん?知らないのか?特化された弾の事だ。例えば魔術師の魔法障壁を容易に貫通する事ができるマジシャンズ・キラー弾とか、特定のモンスターに効果が高い弾とかだな」
「おお、それはいいですね!」
「製法知りたかったら教えるぞ?別に秘密にしている物では無いからな」
「お願いします」
「分かった。後でレシピを書いて渡そう。…で、だ…ユニークモンスターの話を聞かせて貰えるか?」
ジェラルドの言葉に頷いたソウルは、氷雨と銀牙の狼親子を呼び出し、ディスペアーストーカーの呪いを見せながら、リイルフの集落で起こった事を話した。
「この子犬かわいい~!」
《狼です…》
「なるほどな…この呪いをなんとかしないとヤバイという訳か…あー…確か先々代か先代の手記になんか書いてあった様な気がするな…少し待っていてくれ…」
シリアが銀牙を抱っこしながら子犬と言うと、すかさず氷雨が狼だとテレパスを使って訂正した。そんな和気藹藹としている横で、真面目にジェラルドがソウルと会話していると、目的の手記を探す為に店の奥に向かって行った。
「おかーさん干し肉ってなかったっけ?」
「まだ加工前のが台所にあったはずよ~」
「取って来る」
一旦、銀牙を床に置いて台所に向かったシリアを見ながら、マギアがソウルに話しかけて来た。
「銀牙人気ですね」
「まぁ、狼って言っても子供だしな~それに可愛いし仕方がないさ」
「それにモフモフだからショウガナイネ」
ティカルの言葉に、ソウルとマギアは同意して頷いたすぐ後に、上の階層から何かが崩れて倒れる音が聞こえ、その音に驚いたソウル達は上を見上げていると、ネファーが顔を顰めて、座っていた椅子から立ち上がった。
「オホホホ‥‥ちょっとごめんなさいね…」
苦笑いしながらソウル達に謝罪したネファーが、店の奥に向かって行くと、ソウルとティカル、マギアの三人は互いに顔を見合い、外国の映画やドラマで見るシュラッグをした。
「ああ、すまない。ちょっと見つけるのに時間が掛かりそうだ。また後で来てくれるか?」
ネファーが店の奥に向かって行った時から20分後、ホコリまみれのジェラルドがソウル達に申し訳なさそうに言うと、ソウル達はその言葉に頷いた。
「あー分かりました。では今日の夕方ぐらいにまた来ます」
「すまないな」
「大丈夫です。では」
「わんこまたね~」
《わんこではありません!イヌ属ですがおおk…》
氷雨のツッコミを、全て言わせ無いまま狼親子をストレージにしまったソウルは、ティカルとマギアと共に店から出て行った。
「かなり時間があるけど…どうする?」
「とりあえず先は長そうだから寝る事にする!」
「そっか。じゃあ僕はちょっとSP稼ぎしているよ」
「一人で大丈夫か?」
「ちゃんと今の推定LVでも大丈夫な所でやるから大丈夫だと思う。困ったら乳と白いのに相談するから」
「そうか。じゃあお疲れ様」
「おつ~また後でね~」
「お疲れ様でした」
ティカルに見送られながら、ログアウトボタンを押したソウルとマギアは現実世界に帰って行った。
「…おはよう」
「おはようございます、マスター。と言っても現在はおやつの時間ですが」
「3時だな…」
ログアウトしてすぐに寝た総一郎は、目覚めるとベッドから起き上がり、一階に降りて身支度を整えた後、台所に行って食事を取った。昼食取る時間を大きく外れていた為、母親の早織に小言を言われたが、ハイハイと聞き流しながら食事を終えた後、食事に使った食器を片付けて自分の部屋に戻った。
「そろそろ大丈夫かな?」
「大丈夫だと思いますよ?」
スマホの中のマギアが、サムズアップしながら言うと、総一郎はその言葉に頷き、FDVR機器を頭に取り付けてログインを開始した。
「よっと…」
ログインを完了したソウルは、ネファーの店の扉を開いて中に入って行った。
「こんにちわ~」
「はーい」
店の中には誰もいなかった為、カウンターから奥に向かって大声で呼ぶと、奥からネファーの声が聞こえて来た。
「はいはい…あ、ソウルさん!見つけましたよ。今呼んできますね」
「はい、お願いします」
ネファーは、ソウルの顔を見ると手記を見つけた事を報告し、ジェラルドを呼びに行った。そしてその数分後、ジェラルドが難しい顔をしながらソウルの目の前に現れた。
「ああ、ソウル…先々代の手記を見つけて、中を確認したんだが…大変な事が解ったぞ…」
「大変な…事ですか?」
「ああ、どうやらユニークモンスターと呼ばれているモンスター達は、元は「堕ちた神獣と呼ばれていたらしい」
「堕ちた神獣ですか…」
ソウルの言葉に頷き、ジェラルドは話を続けた。
「この手記に書かれていた文章を要約すると「太古の昔、神は楽園を作った。そしてその楽園に多くの命を生み出し住まわせた。だが、その多くの生命は無秩序に行動した為、楽園が荒れてしまった。故に神は、彼らの長となる者を多くの生命達の中から7匹選び、神獣として導かせた。最初は、うまく行っていた…だが、次第に神獣達は自らを崇める者を軍と成し、互いに争い始めた…」
「その先が大体予想できますね」
「ああ、お察しの通り楽園から追放されて、この世界でモンスターとして存在しているという訳だ。という事は、狼や子供達が受けた呪いはただの呪いではなく神クラスの呪いという事だな」
「神クラスの呪い…」
神クラスの呪いと聞いて今一ピンと来なかったが、ソウルは呪いの中で一番強い物と予想し、話を続けた。
「その呪いを安全に解除する方法はありますか?」
「ある。呪いをかけた相手を倒せばいい。…だが、それをするには越えなくてはいけない問題がある…」
「それは?」
次に出たジェラルドの言葉は、ソウルを驚愕させるものだった。
愚かな男は、愚かゆえに理解できていない。
ミルコスさんは、一領主として自分の家族を裁きました。その心境は、途轍もなく辛い物だと思います。
徹夜慣れしてないと、授業中とか寝てしまう確率が高いです。実際、アップルとマナリアもウトウトしながら授業を受けていました。
朝日が昇った時間だからシカタナイネ!それに、昔の人は日が沈んだら寝て、日の出とともに起きていたという物をどこかで読んだ気がします!
キラー弾は、ガメルフの話で出て来た特殊弾の事です。
氷雨が狼に拘るのは、気を抜くと犬と言われてしまうからです。
3時のおやつは文明〇!このネタ知っている人いるのかな…
次の話が気になる様な終わり方をしてみました。
モチベ維持に評価お願いします! 誰か…お願いします…
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